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ソングライティング・ワークブック 第182週:Leonard Cohen(3)

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過去形です(So Long, Marianne)

It's time that we began

So long, Marianne, it's time that we began…
To laugh and cry,
And cry and laugh…
About it all again.

Leonard Cohen, "So Long, Marianne"

『So Long, Marianne』のコーラスがよくわからなかった。なぜ「began」なんだろう?どう解釈すれば?韻のためと言ってしまえばそうなのだろう―Marianne、began、againと踏みたかったのだろうから。今でもわからない。「…」の解釈もよくわからない。

ヴァース―コーラス形式で、ヴァースが6つあり、コーラスはすべてこの歌詞が歌われる。ヴァースではMarianneと私の関係がどのようなものだったかが回想される。最初のヴァースは;

Come over to the window,
My little darling,
I'd like to try to read your palm.
I used to think I was some kind of Gypsy boy
before I let you take me home

「窓辺においで、愛しい人、手相を見させてくれ。自分のことを流浪の民か何かみたいに思っていたよ、君の家に連れて行かせる前は」

ジプシーと言えば、占い。ということで、このようなヴァースになったのだろう。ヴァースはどれも簡潔で、ヴァースひとつでひとつのことを言う、という感じになっている。それぞれ思い出の一場面ということになる。

コーラスは、そんな場面(it's time that)を受けて、「二人でたくさん泣いたり笑ったり(する生活)が始まったね」ということなのか。それとも、「さようなら。これからも思い出しては泣いたり笑ったり繰り返すだろうね」ということなのか。

この歌の話者は、自由というか、コミットできないというか、一所に落ち着くことのない人だ。それがMarianneという人に出会って、自分でも意外なことにわりと長い間一緒に過ごした。それも終わった。君は新しい名前で生活している(I see you've gone and changed your name again)。筋書きとしてはそういうことになる。

話のモデルはCohen自身と1960年代に彼と交際のあったMarianne Ihlenという人だ。Ihlen自身の回想によると、もともとは「So long」でなくて「Come on」だった、つまり別れの歌ではなかったようだ。結局は1967年に『So long, Marianne』として発表された。

「changed your name again」とあるのは、もともとCohenと出会う前、Ihlenには夫がいたからである。だからそういう誰のことを歌っているか、わかる人にはわかってしまう歌を書いたことになる。

実際に二人が出会ったのは1960年ギリシアで、Cohenが最初の小説を書き上げたときのようだ。結局続かなかったけれど、Cohenのミューズのひとり(何人かいる)となった。Ihlenにインスパイアされた歌としてはほかに、『Bird on a Wire』という美しい歌がある(それについては次回)。

結局、Cohenとしては縛られるのが嫌だったということになる―「your fine spider web is fastening my ankle to a stone」とも言っているように。もしかしたら―勝手にそう推測するのだけど―Cohenって「私を招待するようなクラブには入りたくない」人だったのかもね。

2016年にそのIhlenが亡くなって、Cohenは追悼の手紙を送っている「Well Marianne, it’s come to this time when we are really so old and our bodies are falling apart and I think I will follow you very soon」…そしてほどなく同じ年にCohenも亡くなった。



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