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ソングライティング・ワークブック 第116週:ブルース形式の拡大(1)

形式について以前、あと「ポストコーラス」について書きたいと述べたことがあった。それもそのうちやるつもりだ。けれど、いろいろ形式について調べると面白い発見もあったので、そのことについて先に書くことにする。

デルタ・ブルースがどう書き留められマーチやラグタイムを演奏するバンドのレパートリーになったか、またそういったブルース的節回しをTin Pan Alleyの作曲家などがどう西洋のコモンプラクティスの和声の中に落とし込んでいったか、といったことについては以前に触れた

ブルース、ブギウギ、ロックンロールの形式と言えば、おなじみの12小節のものを思い浮かべるけれど、もともとはそのような定型があるわけではなかった。また、他のヨーロッパ由来の民謡との混合もあったし、商業的な音楽の世界ではAABA形式などとの融合も行われた。何週間かかけて、それらについて大雑把ではあるけれど、考え、それらをモデルにしたものをスケッチしてみたい。

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ブルース形式?

あの12小節の形式がどのようにしてできたのかはわからない

そういった12小節の「ブルース形式」がどこから来るのか、よくわからない。たしかにデルタブルースを聴いてもそれに近いものもある。けれど、それは彼らがすでにW. C. Handyの『St. Louis Blues』を知っていたからそうなったのか、わからない。デルタブルースの古い録音は1920年代に遡るけれど、『St. Louis Blues』の出版はそれよりも早い1914年だ。

Handyの場合、12小節のセクションを含むラグタイム風の構成になっている。通常の8小節や16小節のセンテンスでできたセクションの間に12小節のセクションを挟むといった感じだ。

これはブルースの歌姫で録音された例としては一番早い(1920年より)Mamie Smithとバンドなどでも同じで、タイトルにbluesと付けられていても、12小節のブルースがそのまま裸で繰り返されるという例はない。ブルースは歌全体の構成の一部として挿入されている。ブルースはあたかも引用されたかのように聞こえる。そこが都市の音楽家たちとデルタブルースの演奏家たちとの距離なのだと思う。

当時のデルタブルースのミュージシャンたちにしても、ブルースというアイデンティティを自覚していたのか、そのへんもよくわからない。たんに見聞きしていたものを自分の体に落とし込んでいたということなのかもしれない。録音の中にはブルースというよりはむしろスピリチュアルみたいなものもある。形はいろいろなのだ。

一般的に言われている12小節定型ブルースの基本的なフレーズ構造はaabで、ひとつのセンテンスを一度繰り返し、最後にオチを付けるようになっている。日本語で例を作ってみると;

困った、仕事が終わらない (a)
困った、仕事が終わらない (a)
終電は終わってるのに (b)

aのフレーズはたんに繰り返されるのではない。2回目はサブドミナント(IV)の上で始まってトニック(I)に戻る。メロディもそれに合わせて若干変化する(III音が半音下がる)。

1936年に録音されたRobert Johnsonの『Cross Road Blues』は、たしかにそのような2回目のaがサブドミナントで始まるaabの形になっている。ただし、きちんとした4/4拍子とかにはなっていない。フレーズとフレーズの間の長さは、呼吸、歌い手が弾くギターによる合いの手、感情などの都合により、伸び縮みする。パルスはあるけれど、1、2、3、4、と数えて歌う歌ではない(トランスクリプションがある)。

I went to the crossroad, fell down on my knees.
I went to the crossroad, fell down on my knees.
Asked the Lord above, "Have a mercy. Save poor Bob, if you please." 

Robert Johnson, "Cross Road Blues"

さて、フレーズが繰り返されるけれどすぐにオチが付かない例も多い。

Devil Got My Womanとケイデンス

1931年に録音されたSkip Jamesの『Devil Got My Woman』は、3行目を持たない。最初の行が繰り返されるとき、サブドミナントに行ったりもしない。というか、和声は敢えて言えば、一つの行はドミナントで始まり、トニックで終わる。

I'd rather to be the devil than to be that woman' man
I'd rather to be the devil than to be that woman' man

Aw, nothin' but the devil, changed my baby's mind
Was nothin' but the devil, changed my baby's mind

I laid down last night, laid down last night,
I laid down last night, tried to take my rest

Skip James, 『Devil Got My Woman』より

1行のメロディと和声のアウトラインだけを示す。これで「I'd rather to be the devil than to be that woman' man」になる;

各行の合間はたっぷりと時間が取られていて、歌い手が弾くギターの合いの手が入る(ギターのトランスクリプションがある)。5行目「I laid down last night, laid down last night」はそれまでより高いピッチで始まって、響きはトニック(ほぼDm)だけど、低音はA音が目立つ。つまりコモンプラクティスで言うところの四六の和音(第2転回)に近い響きがする。クラシカルならオペラやコンチェルトのクライマックスであり、ケイデンス(終止形)に入る最初の響きだけれど、ここでも歌のピークを形作っている。

そしてもとの形に戻って6行目「I laid down last night, tried to take my rest」が歌われる。この5行目と6行目は一続きに歌われる。ちょっと新鮮な驚きを感じる部分だ。


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