ソングライティング・ワークブック 第114週:古き良き32(16、64)小節―ソングライティングに戻って
ジャズからソングライティングに話を戻す。『Body and Soul』や『Stella by Starlight』、あるいは『All the Things You Are』のような、やや複雑な転調を含む、ちょっと大時代的な音楽(ロマン派、セミクラシックっぽいもの)を書くときの難しさは、転調の扱いよりも、それを32小節(64小節)というコンパクトな形に収めることだ。
『Stella by Starlight』みたいな、やや複雑な転調を含む歌を書きたい?
『Stella by Starlight』について
『Stella by Starlight(星影のステラ)』はVictor Youngによって、1944年のLewis Allen映画『The Uninvited(『呪いの家』という邦題が付けられている)』のために書かれた、もとは歌詞のない曲。劇中登場人物がピアノで弾き、またテーマ音楽のようにも扱われている。
劇中ではこのように使われている;
冒頭ではこのようになっている;
ジャムセッションで使われるReal Bookなどに記されているコード進行に影響を与えているのは『1958Miles』に収められているMiles Davisによる録音;
Takehiko Kubo氏によるトランスクリプションがある。
Miles以前にも以後にもいろいろな人によって演奏されている(1946年に歌詞も付いた)ので、ジャズコミュニティの中で自ずと和声解釈の伝統が出来上がったと言える。私の若いころ(1980-90年代)はKeith Jarrett(キース・ジャレット)のアルバム、『Standards Live』の演奏が非常に人気だったと記憶している。
もともと映画の登場人物Stellaの「ライトモチーフ」のような音楽であって、コンパクトに32小節(表記によっては16小節)に収められている。長さとしては当時のポピュラーソングのコーラス一つ分になるけれど、構成はAA'やAABAの形をとっていない。一応4小節、8小節ごとにフレーズの区切りはあるけれど全体32小節のうち24小節間は明確なケイデンスを持たない。最後の8小節で冒頭のフレーズが再現され、ケイデンスを伴って終止する。
この書き方はどちらかというとロマン派音楽の「無限旋律」に近い。「無限旋律」というのは大げさな呼び方だけれど、あるフレーズが一つのセンテンスの終わりであり、同時に次のセンテンスの始まりでもあるようなかたちで、フレーズがフレーズを呼び込んで息の長いセンテンスができあがる。「無限旋律」と言えばWagnerを思い出すけれど、そこまで行かなくとも、たとえばRachmaninoff(ラフマニノフ)のポピュラーな第2ピアノコンチェルトの第1楽章の第1テーマの後に続く経過部を思い出してほしい。以下、そのメロディと和声の骨子を示す;
実際1940年代ぐらいまでのハリウッド映画ではラフマニノフ風の音楽が多いと言える(ラフマニノフはアメリカで人気があった)。『Stella』もそのようなもののひとつだ。
オリジナルとジャズ演奏の時の一般的な解釈を比べてみよう。ジャズをやる人がよく使う楽譜のコードネームを音符に置き換えたのが下の通り;
オリジナルは録音が古く聞き取りにくい。推測すればこのような感じ。原調は、YouTubeに上がっているのはおおよそEbだけれど、わたしがもっているDVDではなぜかほぼDである。比較のためにBbに移調して示す;
何か冒頭のフレーズを思いついたら、それを引き延ばしてみて、大体の目標の長さまで(この場合は32小節)でけりをつけるようにする。たとえば;
これが、Johnny Greenが1930年に書いた『Body and Soul』のような、もう少しわかりやすい(覚えやすい)ポピュラーソングを目指すなら、ケイデンスをどうするか計画した方が書きやすいだろう。
和声を考慮したモチーフ
かと言って、まず32小節各小節にコードネームを割り振って、さあメロディを書こう、ということをここでやりたいわけではない。ひとつのメロディックなモチーフはいかようにも和声付けできるけれど、そのときそのとき気に入った響きの動きというものがあると思うので、それを込みでモチーフにする。
『Body and Soul』のコーラス冒頭であれば、5度跳躍するモチーフで始まっているけれど、和声込みで思いついたら、次どうつなぐか考える。同じような形で繰り返すとすれば、どんな和声で進めたいか決めて、次を書く。
モチーフを繰り返した時点でひとつのセンテンスの前半(8小節のセンテンスであれば、4小節分)決まったことになる。それからケイデンスを考える。全終止か、半終止か、どの調で終止するか。
メロディも和声を構成する部分であることに注意。「メロディ」と「コード」というように、分けて考える習慣がある人は、ちょっと考え方を変える必要がある。たとえば、V7の響きの中でも、メロディが半音変わることによって響きが変わる。下の例のように;
モチーフによってはAABAよりAAの方がやりやすいなどということもあり得る。続きを書いてみる;
次回はAABA形式のB(ブリッジ)と転調について考えてみたい。