ソングライティング・ワークブック 第181週:Leonard Cohen(2)
Leonard Cohenはカナダ人だけれど、合衆国についてよく書いている。
It's going to be September now (2)
2000年代を振り返る
Donald Trump(ドナルド・トランプ)という名前が話題になるようになってずいぶん経つ。今回であの人にとって3度目の大統領選挙なので、もう8年になる。
George W. Bush(ジョージ・W・ブッシュ、2001年から2008年まで大統領だった人)、Dick Cheney(ディック・チェイニー、ブッシュのもとで副大統領を務めた人)といった共和党の長老たちが、Trumpを支持せず、どころかチェイニーに至っては民主党の大統領候補であるKamala Harris(カマラ・ハリス)支持を表明している。
それで、今やBushやCheneyがまともな人たちのように見えてしまう(見る人の立ち位置にもよるけれど)のが、何というか、感慨深い。とくに2003年にこの人たちがイラク侵攻を始めたときからは、ほとんど悪魔のような描き方をされていたのだから(もちろん、これも見る人の立ち位置による)。
2001年9月11日のテロ事件以降、合衆国では多くの人々が「愛国者」になった―当時ニュース雑誌のコラムなどを斜め読みした私の感想だけど。同時に何か物が言いにくいような雰囲気もあったと思う。
先週紹介した『A Street』はそのような空気を想像できれば、読めると思う。「君は内戦で戦うために制服を着た。私は参加しようとしたが、私が味方した側は、誰からも好かれなかった」―大文字の「the Civil War」は、日本での呼び名が「南北戦争」となっている、1861年から65年まで続いた合衆国の内戦を表す。
9/11の後、Bushは「対テロ戦争」をすることを表明し、世界に「こちらに加わらないのなら、お前はあっち側だ」と言った。当時の空気は「あちら側とこちら側」で、それに息苦しさを感じる人も多かっただろう(今はもっと分断が広がってしまったようだが)。Bushは人を分断する大統領だったと、よく言われたものだ。
Cohenはここで自分が具体的にどちら側に付いたとも言っていない。そのかわり比喩として「the Civil War」という言葉を使って、分断を表したと言える。
「9月になる。あれから何年にもなる。みんなの心の時計は、厳格な9月の追悼のドラムに、針を合わせる」―少し言葉を足して言えば、そういう意味になる。この詩は2009年、Obama(オバマ)が大統領になった年にThe New Yorkerのためのもので、この雑誌の読者に寄り添うように書かれている。
「それで私たちは対等になったようだけれど、でも、あなたと行進したい。話の続編の続きとして、おなじみの赤白青に向けて。それが終わる時に向けて乾杯しよう。再会の時に向けて乾杯しよう。私はその角に立っているよ―かつて通りだったところに」
オバマ政権1年目のわりと楽観的な、ちょっとほっとしたような空気が伝わってくる。