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今夜は湯豆腐

朝晩が寒く感じてきた。

秋の夜長、少し肌寒くなってきた季節に、食卓に湯豆腐が並ぶと、心まで温まるような気持ちになる。シンプルでいて奥深いこの料理は、まさに日本の冬の風物詩だ。鍋からゆらゆらと立ち上る湯気、その中に白く浮かぶ豆腐。

その柔らかさと、口に入れた瞬間に広がるふんわりとした豆腐の味わいが、何ともいえない安心感を与えてくれる。

湯豆腐は、見た目も作り方もとてもシンプルだ。
ただ昆布を敷いたお湯で豆腐を温め、好みの薬味を添えていただくだけ。
他には何もいらない。

だが、その「シンプルさ」こそが湯豆腐の醍醐味でもある。豆腐そのものの風味や、薬味やたれによって変わる味の奥行きが楽しめるからだ。ポン酢でさっぱりと食べるもよし、胡麻だれで濃厚にいただくもよし。

私は薄口醤油に鰹節と白ねぎ、最後に七味を少々。それぞれの家庭や地域で工夫され、少しずつ異なる味わいが生まれる。

家族で鍋を囲んで食べる「〇〇鍋」というのではなく、湯豆腐は一人でゆっくり一杯やりながら食べたい。という時間を楽しむでもあると思っている。豆腐をすくうために金網つじを持ち、何も語らず、豆腐と対峙する。豆腐を崩さずに器にもる。その何気ない瞬間が、緊張感が好きだ。

また、湯豆腐は食べる側にも優しい料理だ。軽くて消化が良いので、体調を崩した時や、重たい食事が負担になる時にも最適だ。寒さで縮こまった体を芯から温め、胃にも負担をかけず、ほっと息をつくことができる。湯豆腐を口に運び、喉越しを感じ、胃の中からじんわりと暖かくなるのを感じる。

今夜は湯豆腐を前に、そんなひとときを過ごしたい。シンプルで奥深いこの料理を楽しみながら、寒さに包まれた夜が少しだけ穏やかに感じられる。

湯豆腐のように静かな時間が、日々の喧騒の中で忘れがちな「ゆっくりと過ごすこと」の大切さを教えてくれるのだろう。

家内のマシンガントークにうなずきながら。

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