『その着せ替え人形は恋をする』に学ぶラブコメの技術
はじめに
『その着せ替え人形は恋をする』(以下、『着せ恋』)はラブコメである。ラブストーリーは多くの読者に受け入れられる企画としての広さを持っている……が、往々にして物書きというものは、わかりやすいものよりも難しいものに心惹かれることが多い。
かく言う筆者もその一人で、ラブストーリーを書くことなどこっ恥ずかしくてとてもできない、と避けてきた。
しかし、商業作家ともなるとそうはいかない。ラブストーリー、ラブコメを書かなければ仕事がない、ということもある。
ありがたいことに、今なら筆者はラブコメを書ける。それはラブコメを構成する要素を、技術と知識として把握しているからだ。
今回は、『着せ恋』を題材にラブコメの技術を構造解析していく。
基本解析
まずは『着せ恋』の主人公・五条新菜を構造的に分析していく。
解析ツールとして、「弱点」「欠陥」「困窮状態」などの項目ごとに言語化していこう。下記の項目は主人公を構成するのに必ず必要になる要素だ。
下記のnoteの無料部分で項目分けの解説もしている。
上記の項目を言語化することがなぜ重要なのかというと、作品の面白さを読み手に伝えるためには、主人公が何者で、何を目指していて、どんなことに悩んでいて、どう成長していくのか、がわからないといけないからだ。
ハイ・コンセプトと原始的か?
今回、上記の書籍で紹介されている主人公の考え方や、自作の客層を広げるための考え方を構造解析に用いていく。
書いていて「面白いと思えない」という不安にかられて筆が止まってしまう。そういう人は自作の何が「面白い」のかがわかっていない。他人にその面白さが上手く伝えられなくて挫折してしまう。では、「面白い」が自分にも他人にも伝えるにはどうしたらいいのか? ひとつめはログラインにまとめるという手法。それは以前にも紹介した。
上記のnoteでは、以下のようにログラインを説明している。
『五等分の花嫁』を上記の公式に当てはめてログラインにまとめるとこうなる。
今回はこの「ログライン」以外にも、自作を他人にプレゼン(説明)したり、書いていて自分がどんな方向を目指しているのかを確認するための考え方として、「ハイ・コンセプト」と「原始的かどうか」をお伝えする。
「ハイ・コンセプト」はログラインにとても良く似ている。一言で説明できる、明快な作品のことだ。
『その着せ替え人形は恋をする』であれば?
コミュ障で他人と関わることから逃げてきた陰キャ男子が、こともあろうに女性――しかも読モをやっているギャルと一緒に、コスプレ衣装を制作したら……?
ここには「キャラクターの対比(落差)」、「恋愛体験への情景」がある。
『デート・ア・ライブ』は「敵の女の子とデートして、デレさせる」というハイ・コンセプトな作品だ。「落ちこぼれのスパイを育てる」という『スパイ教室』や『幼なじみが絶対負けないラブコメ』もわかりやすくてハイ・コンセプトな作品。
物書きを志望する者にとっては、「自分はそういう単純な物語を描きたくない」とハイ・コンセプトを否定的に捉える人もいる。『呪術廻戦』はハイ・コンセプトではない。『エヴァ』も『進撃の巨人』もハイ・コンセプトではない。
でも、ハイ・コンセプトではないということは、伝えることが難しいということで、自分も他人も面白さを感じにくい可能性がある。自分で面白くなければ、書き上げられない。だったら、ハイ・コンセプトな作品にしたほうがいいのではないか。
「原始的かどうか?」は、自作を読んで、面白さが原始人でも伝わる根源的なものか自問する方法だ。「家族を救う」(鬼滅の刃)「承認されたい・愛されたい」(着せ恋、五等分)「生き延びたい」(デスゲームもの)。そういう原始的な欲求や動機に主人公が突き動かされているか。原始的で根源的な動機であれば、それは伝わりやすい。
原始的かどうかを別の言い方で説明すると、客層が広そうかどうかという問いに置き換えられる。「ラブコメ」の開口の広さは歴史が証明している。押井守は『ケルベロス 鋼鉄の猟犬』で言った。
バトルとラブコメは実に原始的な題材といえる。
そして、実は『呪術廻戦』も『進撃』も『エヴァ』もハイ・コンセプトな作品ではないが、ハイ・コンセプトと原始的な題材を組み合わせて、複雑なコンセプトを伝えている。それは作り手の「性癖」が盛り込まれているからだ。
『着せ恋』では、ラブコメとコスプレという専門知識を組み合わせて差別化要因、オリジナリティを獲得している。
ラブコメを構成する要素
『着せ恋』はハイ・コンセプトで、原始的だ。「ラブコメ」という、男女共に客層の広い題材である。そんな「ラブコメ」と「コスプレ」という専門知識を組み合わせることで、『着せ恋』はオリジナリティを獲得している。
では、「ラブコメ」を構成する要素というのはどのようなものがあるだろうか?
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