『ヒロアカ』に学ぶ 胸熱展開!!!
はじめに
『僕のヒーローアカデミア』は累計発行部数2500万部超え、北米でも映画が大ヒットするなど、いまや日本を代表するIP(キャラクター)コンテンツとなりました。
『ヒロアカ』の魅力はなんと言っても、「熱さ!!!」にあると言えるでしょう。
この『ヒロアカ』を構造解析するために、神話の法則などの商業作家の技術で解析をしていたのですが、なかなか再現可能な論理のモデルを見つけ出せずにいました。
かつて『ハイキュー!!』構造解析では、ジャンプ漫画のメソッドと言われる、「友情・努力・勝利」は「内的な欲求」「外的な目的」「セントラルクエスチョン」によって論理的に説明できるとご紹介しました。
そして今回、何度も『ヒロアカ』を読み返し、ようやく論理的にみなさんに商業作家の技術として、再現可能な知識としてこのnoteにまとめることができるようになりました。
今回は「キャラクターアーク」という技術をご紹介します。
この構造解析シリーズでご紹介する良書はことごとく絶版になっていて恐縮ですが……。こちらのAmazonリンクだと定価2200円が3倍近く値上がりしています。紀伊國屋書店などの店舗には普通に売っています。
この書籍に書かれている「キャラクターアーク」のエッセンスをこのnoteでは『ヒロアカ』を通じて紹介していきます。
キャラクターアークの教科書的作品
『ヒロアカ』のような「熱い!!」作品を書くためにはどうしたらいいのでしょうか?
当たり前ですが、そのまま『ヒロアカ』をパクることは、盗作にあたります。
しかし、『ヒロアカ』に使われている商業作家の技術やキャラクターマトリクス(キャラを魅力的にしている構造)を抽出し、あらゆる作品に再現可能な知識にまで抽象化することができれば?
その抽象化した商業作家の技術をあなたの作品で描くことは、「盗作」ではありません。
そして、『ヒロアカ』最大の魅力は「キャラクターアーク」という商業作家の技術によって生み出されています。
「キャラクターアーク」こそが「熱さ」の秘密といっていいでしょう。
無料部分ですでに「答え」を提示してしまいましょう。
「キャラクターアーク」とは、以下のようなものです。
キャラクターアーク
心の傷【ゴースト】を抱えたキャラクターは【嘘】を信じ込んでいる。
物語を通じて【嘘】ではなく、ほんとうの心の声(【真実】)を見つけ出してキャラクターが変化する。
変化の軌跡(曲線)がキャラクターアークである。
読み手は【ゴースト】によってキャラクターに感情移入し、【真実】を発見したキャラクターの変化(キャラクターアーク)によって心を動かされます。
以下よりこの「キャラクターアーク」を具体例を提示しながら見ていきます。
『ヒロアカ』のキャラクター
「キャラクターアーク」を学ぶために、まずは『ヒロアカ』を読みましょう!
まずは8巻まで読んでみてください。ページをめくるのが止まらなくなること必須です!!
アニメ版で見たことがある方も、ぜひコミックで一度、読んでいただきたいです。特にライト文芸の作家を志されている方は、キャラクターたちのセリフという文字で、どのようにエンタメを組み上げているのか。
そういった文芸を学ぶ意味でも、「アニメ」という映像ではなく、「マンガ」で読むことにとても意味があります。
前置きが長くなりましたが、ここでは『ヒロアカ』を構造解析していく上で、キャラクターを絞ってご紹介します。
ちなみに僕はトガヒミコと蛙吹梅雨が好きなのですが……!
みなさんもそれぞれお好きなキャラクターいるかと思いますが、やはりそういった端々のキャラに至るまで魅力的に見えるのは、以下のメインキャラの「キャラクターアーク」が描かれているからだと思います!
『ヒロアカ』の世界は、世界人口の約8割が何らかの“特異体質”=“個性”によって超人社会となった近未来が舞台です。
緑谷出久(みどりや・いずく)
「超カッコイイヒーローにさ 僕もなれるかなあ」
生まれつき“個性”のない少年。ヒーローおたくで、研究熱心。小さな事で悩みがち。でもヒーローへの憧れは大きい。オールマイトから“個性”を受け継ぐ。
爆豪勝己(ばくごう・かつき)
「“無個性”のてめェがあ〜 何で俺と同じ土俵に立てるんだ!!?」
出久の幼なじみ。“無個性”のくせに世話焼きの出久に強烈なライバル心を燃やす。キレやすい性格。自分の“個性”に自信があり、プライドが高い。
轟焦凍(とどろき。しょうと)
「左側を使わず“一番になる”ことで 奴を完全否定する」
半冷半燃の“個性”を持つ。No.2 ヒーロー/エンデヴァーの息子。“個性”を強化する個性婚で生まれた。No.1ヒーローになることを期待された英才教育が家庭環境に歪みを生じさせ、暗い過去を抱える。
オールマイト
「————私が来た!!」
ヒーロー界のNo.1ヒーロー。“平和の象徴”として活動するが、ある戦いによる負傷でヒーローとしての活動時間が短くなってしまった。
ゴーストとは?
冒頭でも述べましたが、『ヒロアカ』は神話の法則などのきっちりと構成されたストーリー構成はあまり見られません。
これは「ジャンプ漫画」という、結末がわからないままに何十巻も継続する連載マンガという形式上、仕方のないことです。
にもかかわらず、『ハイキュー!!』や『約束のネバーランド』は神話の法則で構成されたプロットの巧みさがあります。
『ヒロアカ』は三幕構成や神話の法則などのプロット構成よりも、キャラクターの変化、キャラクターアークを描くことに特化しています。
逆にキャラクターアークが起こらない巻数は、イマイチ面白さを感じにくい話数になっていると言えるかもしれません。
1巻 緑谷出久のキャラクターアークが描かれる。
2巻 爆豪勝己のキャラクターアークが描かれる。
3巻 迫り来るヴィランの影(キャラクターアークがない)
4・5巻 体育祭(轟焦凍のキャラクターアーク)
6巻 飯田天哉のキャラクターアークが描かれる。
7・8巻 爆豪勝己のキャラクターアークが描かれる
【ゴースト】=心の傷と、キャラクターが信じ込む【嘘】は、『ヒロアカ』では「オリジン(起源)」というタイトルで表現されていたりします。
それぞれの過去(バックストーリー)や心の傷(【ゴースト】)を抱えたキャラクターたちが描かれることで、読み手はそのキャラクターが何に悩み、苦しみ、どう考え、どう行動するようになったか。
そして、どうして【嘘】を信じ込むようになったのかを「知ることができます」。
読み手がキャラクターのことを「よく知っている」。
実はこれはなかなかに難しいことです。
最近、とある新作アニメを観て僕は愕然としたのですが……。
その作品を監督している方はかなりの大御所にも関わらず、上記の基本的なことができていませんでした。
・よくわからないキャラクターたちが
・よくわからない敵と
・よくわからない勝利条件の下で戦う
……これでは読み手に「面白さ」が伝わらないのです。
感情移入もできなければ、物語の行く先も気にならない。
だって、「わからない」からです。
これは、「難解」で「クール」などではなく、
「ツマラナイ」なのです。
この監督はかつては「わかりやすいアニメ」を作らないとお茶の間に届かないと発言していたのに……残念ですね。
『ヒロアカ』はそんなことがありません!
ゴースト=オリジンを描くことで、キャラに感情移入を促し、読み手に「わかってもらう」。
キャラクターが「わかる」ことが、「魅力的に描く」ことの第一歩なのです。
キャラクターアークに必要な前提条件
では、どのように描けば、「キャラクターが伝わる」のでしょうか?
「よくわからないキャラがよくわからない敵とよくわからない条件下で戦う」にしないためには、「特徴が現れる瞬間」を理解しておく必要があります。
以下は『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』にて述べられているエッセンスをご紹介します。
(1)キャラクターを紹介する
(2)キャラクターの名前を明らかにする
(3)キャラクターの性別、年齢、国籍、職業などを示す
(4)身体的な特徴を描写する
(5)ストーリーの中での役割・属性・アーキタイプを示す
(6)性格の特徴的な一面を示す
(7)残念・愛嬌を提示して、読み手の関心をつかむ
(8)キャラクタ-の目標(ゴール)を提示する
(9)キャラクターが思い込んでいる【嘘】を提示する
(10)【ゴースト】(バックストーリー)を提示する
読み手にこれだけの情報を伝えないと、「どういうキャラなのか」伝わらないのです。
このnoteでご紹介した『ハイキュー!!』ではなんと、冒頭9ページで主人公・日向とライバル・影山を対比(コントラスト)させることで描いています。
たったの10ページ以内ですよ!?
『ヒロアカ』でも、1巻冒頭10ページで上記10項目が読み手に「伝わり」ます。
キャラクターが信じ込む【嘘】とは?
先ほど【ゴースト】が心の傷・過去の出来事であることを述べました。
では【嘘】とはどんなものなのでしょうか?『ヒロアカ』緑谷出久を例にご説明すると、以下のようになります:
緑谷出久が信じ込んでいた【嘘】
「“個性”がなければヒーローにはなれない」
でも、そんな【嘘】を信じたくないから、
「“個性”がなくてもヒーローになれる」方法を探します。
しかし、クラスメイトも、医者も、母親も、憧れのヒーローですら
「諦めろ」
——と言い放ちます。
そして、緑谷出久にとっての【ゴースト】は、
「ヒーローになれる!」
——と言ってもらえなかったことです。
その経験が、彼の心の傷となり、まるで背後霊のように彼を捕らえてしまいます。
【ゴースト】と【嘘】によって、キャラクターが悩み、苦しむ理由が提示される。
そうすることで、読み手はキャラクターたちに感情移入することができるのです。
エンタメの基礎としての『ドカベン』
みなさんは『ドカベン』を読んだことがありますか?
読んだことがない方は、31巻だけでいいのでぜひ購入してマンガを読んでみてください。
『ドカベン』の31巻には、すさまじい「熱量」が宿っています。
先ほど『ヒロアカ』は各巻でキャラクターアークが起こる。その熱さが魅力であると述べました。
なんと『ドカベン』31巻では、明訓四天王——4人の主要キャラのキャラクターアークが描かれます!
バッターやピッチャーとして試合に臨みながら、山田太郎、岩鬼正美、殿馬一人、里中智たちは自分たちのオリジン、【ゴースト】と向き合います。
妹を事故から救った後遺症で腕に古傷を抱える山田太郎!
裕福で優秀な家庭の出来損ないとしての末っ子、岩鬼正美の過去。
天才ピアニストとして将来を嘱望されながら、身体的な不利条件によって、正当な評価を受けてこなかった殿馬一人。
「チビ」とバカにされ、変化球を必死に身につけてきた里中智。
それぞれの【ゴースト】と【嘘】を抱えながら、彼らが、強豪・土佐丸に勝利する!
戦いながら【ゴースト】を振り返り、【真実】の発見がバトルの勝利と同期するストーリーテリングは、『ドカベン』で学ぶことができます!
ちなみに、『ジョジョの奇妙な冒険』の第五部 黄金の風も同様に、ブチャラティ一味のそれぞれのバトルには【ゴースト】と【嘘】が語られます。
緑谷出久の場合
ここからは主要キャラクター3人の【嘘】【ゴースト】【真実】を分析していきます。
そうして、キャラクターアークを『ヒロアカ』でどのように描いているのか。その商業作家の技術を分析していきましょう。
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