『魔法科高校の劣等生』に学ぶ設定語りの技術!!
はじめに
佐島勤先生の『魔法科高校の劣等生』は、現在に連なるWeb小説のお約束を、定着させた作品であると言えるでしょう。
詳しくは『オーバーロード』構造解析でこのWeb小説のトレンドを解説していますが、その一部を引用すると、
・パワー抑制
・絶対に裏切らない恋人の存在
『魔法科高校の劣等生』を魅力的にしている、「楽しい」部分が上記のお約束によって調達されています。
また、物語構成においても緻密に構成されており、上下巻構成の1・2巻ですが、各巻においてもきちんと読後の満足度が高くなるよう設計されています。
そして何より、バトルアクションが展開される作品でありながら、1・2巻で描かれるバトルは、物語構成のキー(柱)となる部分に配置されています。
表題になっており、結論から申し上げれば、このバトルシーンで展開される設定語りの妙こそ、『魔法科高校の劣等生』から学びたい商業作家の技術でもあります。
魔法を理論立てて描写するという、ともすれば読んでいて「苦痛」に感じてしまう「設定語り」を、『魔法科高校の劣等生』ではどのように語っているのでしょうか?
(1)キャラクターの秘密
(2)物語構成の秘密
(3)バトルアクションの秘密
大きく分けて、この3つの技術を解析していこうと思います。
絶対的支配者(最強無敵)である主人公に逆らう存在のない、ストレスフリーなキャラクターの関係性(1)。
疑問と答えの連鎖で読み手を惹きつけるストーリーテリング(2)。
バトルのたびに主人公(に感情移入する読み手)が尊敬され、期待され、その周囲の期待に答えていく(3)
各技術と、「設定語り」を同期させているからこそ、読み手は「夢中になって」『魔法科高校の劣等生』を読めるのです。
この構造解析noteでは、『魔法科高校の劣等生』1・2巻を中心に分析を進めていきます。
※以下、キャラクターの魅力を語るために、いきなしネタバレがあります。
ぜひ『魔法科高校の劣等生』を読んだことがないという人は、1・2巻から読みはじめて見てください!
キャラクターの秘密
ライト文芸において、とても重要な考え方として「前フリとオチ」という考えがあります。
たとえば、「優等生が100点をとる」ことにはなんの「前フリ」もありませんし、「オチ」もありません。
ところが、「不良が100点をとる」。
これには、「不良」という最底辺から(前フリ)、そんな彼が100点をとるという意外性(オチ)があります。
100点をとる、という「オチ」を最大限に「演出」するために、「不良」という落差の激しい「前フリ」があるわけです。
構造解析noteでは、以前よりライト文芸におけるキャラクターというのは、「記号的に描く」ことが重要であると述べてきました。
これは活字ベースで読んでいる読み手に「どういうキャラクターなのか」を「記号的」に伝えることで、それが「前フリ」になるからでした。
そんな「記号的に描かれたキャラクターたち」が(前フリ)、熱い行動をとったり、意外な行動をとったりするから(オチ)、読み手は感動するわけです。
この戦略を、「敷居は低く。感動は深く」なんて言っていたりします。
この「前フリ」と「オチ」及びキャラクターを記号的に描くことの重要性は上記のnoteでも解説しております。
さて、『魔法科高校の劣等生』です。
本作品では、妹の深雪ちゃんが兄の達也くんのことが好き過ぎる、という関係性が魅力のひとつ……いや、すべてです!
徹底的に「兄のことが好きな妹」を描きます。
いかに深雪ちゃんが兄を盲信しているか?
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