マロン内藤のルーザー伝説(その12 オオカミの皮を被った羊)
かくして1976年製ポルシェ930ターボ(通称ター坊)のリフレッシュ作業が正規ディーラーであるポルシェセンターにてスタートしたのであるが、重要部品の交換を含むこの作業は予想以上に困難を極めた。サービス部門の若きリーダーSさん率いる少数精鋭部隊によって、無料診断では見つからなかった不具合が次から次に発掘されたのである。それまで伝説の中だけの存在とされてきた古代エジプトの有力者と思われるミイラが区画整理工事により偶然市街地の地下深くから発見されたような驚きが立て続けにマロンを襲った。
そして作業が佳境に入ったある日、マロンはツタンカーメン級の衝撃を受けることになる。なんとターボチャージャーが故障しており全く機能していないというのである。これにはさすがの私も太陽に吠えろにおけるジーパン刑事殉職シーンさながらに「なんじゃこりゃー」とポルシェセンターのショールームに敷き詰められた分厚い真紅のカーペットの上をのたうち回りながら叫びたい気持ちをぐっとこらえ「え・・・そうなんですか・・・」と平静を装うのが精一杯であった。
アクセルを踏めば鋭く吹き上がる空冷水平対向6気筒エンジンではあるものの、どれだけアクセルを強く踏み込んでもターボチャージャーによる過給度合いを示すミリバール計が全く反応せず、てっきり計器が故障していると思い込んでいたのであるが、故障していたのはあろうことかターボチャージャーの方であった。どうりでドッカンとこないはずである。
尚、これは参考情報であるが、930ターボの人気にあやかり、ターボチャージャーがついていない普通の911にオーバーフェンダーとリアウィングが付いたターボ仕様ボディーを纏ったターボルックなるモデルが販売されていた時期がある。所謂プアマンズターボであろうか。私のター坊は実質このターボルックモデルと何ら変わらない、羊の皮を被ったオオカミならぬ、オオカミの皮を被った羊、去勢されたシュトゥットガルトの跳ね馬だったのである。
Sさんによると、故障しているその重要部品は本国ドイツでも入手が困難であり、調達には相当の時間とコストがかかるであろうとの見解が示された。黒い霧が晴れるどころか、猛烈な台風の暴風域に入ったような状況に私は言葉を失った。「ターボのないター坊なんて、クリープを入れないコーヒーみたい」といったエスプリが効いたジョークで場を和ます余裕はもはや私には残されていなかった。極めて憂慮すべき深刻な事態に直面し、脱毛が加速する自らの頭を抱え、しばしその事実を受け入れられずにいたのである。
しかし、ここららが若きリーダーSさんの本領発揮であった。数週間後Sさんから朗報が飛び込んできたのである。「探していた部品をebayで見つけたので落札した」というものであった。若干複雑な心境ではあったが、とにかくこれでター坊がオオカミに戻る!子供のころから憧れていた夢のドッカン体験ができる!私は小躍りした。
「どこまでもSさんについて行こう」そう心に誓ったマロンであった。
続く・・