花の82年組、僕らが初めて見たアイドル
1クラス45人、1学年16クラス、卒業までの3年間一度も顔を合わさないヤツもたくさんいる、いわゆるマンモス校って呼ばれていた狭い中学校に無理やり押し込まれた「僕」が、だらだらと無為に過ごした3年間のエピソード、いわゆる「プレイバック80'エッセイ」の第4話。僕が間近で見たアイドルの話。
中3の頃から高校2年くらいまで、洋楽、特にハードロックやヘビーメタルが好きになった僕は、毎週金曜日の夜はMTVを楽しみにするようになっていたんだけど、それ以前はJ-pop、アイドルの曲を人並みに、いや、人並み以上に聴いたりしていた。これはアイドル当たり年と言われた1982年の話。
中森明菜と小泉今日子の人気2トップをはじめ、三田寛子、石川秀美などなどいわゆる「花の82年組」と言われた数多くのアイドルがデビューした1982年のある日、僕たちを少しざわつかせる情報が入ってきた。
「となり町出身のアイドルの子がダイエーでデビュー曲を歌うらしい」「その子の家までここからチャリで10分でいけるらしい」
「まじか...!」
僕とマッツンは、アキオからその話を聞いて「おぉっ」てなった。そしてすぐに「特に予定もないから」というはなはだ消極的な理由でアイドルの女の子が来る日曜日に、チャリンコで20分ほどのところにある隣町のダイエーに行くことを早々と決めた。
東京でもない限り、芸能人ましてやアイドルに出会えることなんて地方の田舎町ではそうそうない。僕のそれまでの人生で出会ったことのある芸能人なんて、小学生の頃に近所のスーパーのイベントで出会ったデンセンマンと伊東四朗だけだ。そうそう、デンセンマンのスーツアクターは現・オフィス北野社長・森昌行氏である(どうでもいい情報だけど)
ところでアキオは小学校の頃からの親友のひとりで、髪の毛が伸びるのに合わせて眉毛の端もいつの間にか角のように伸びることからツノガエルと呼ばれていた。ちなみに小学校の頃から大場久美子のファン一筋、なかなか好みが渋い。
僕ら、間近でアイドルに遭遇するも...
さて、新曲発表のミニライブの当日、無駄に気合を入れてチャリンコを漕いだおかげか、僕たちはダイエーの広場の前のほう、割といい場所を確保することができた。アイドルの女の子の自宅前も通ってきた。近所には売ってなくて、当時ここのダイエーでしか買えなかったコカ・コーラのメロンフローズンを買って、僕たちはアイドルの女の子が登場するのを待った。すべて予定通り、ぬかりなし。
司会の人の話が終わって女の子が広場に現れた。僕たちは「おぉ」ってなって、かわいらしい衣装を着た女の子に注目したまさにそのとき...
「ぢぇーみぢゃーん!!」
いきなり背後で色気のないおっさん達の声が響いた。「なにごと!」って振り返った僕たち3人の背後にはハッピとハチマキをした兄さん達がたくさんいて
「ぢぇーみぢゃーん!!」
と、歌に合わせて野太い声で叫んでいた...。全員、首を27度から30度くらい傾けて、傾けた方の手を口元に添えるポーズで一斉に叫ぶ。叫ぶときに目をつぶっている人もいる。僕の脳みそにはもうメロディも歌詞も全然入ってこなくなった。
「ぢぇーみぢゃーん!!」
...。ちょっと聞くけどあんたらさっきまでハッピとか着てなかったよね、ハチマキも、...いつの間に。
僕たち3人は、親衛隊の皆さんよりも前の席に陣取ってすみませんすみません、という神妙な面持ちで機械的にメロンフローズンを、先っぽをスプーンのように加工したストローですすっていた。それは今まで食べた中で一番おいしくないメロンフローズンだった。
「ぢぇーみぢゃーん!!」
うるさいわ...
これがアイドル・堀ちえみを初めて見た日の話だ。堀ちえみちゃんは約1年後に立派な「ドジでのろまな亀」に進化するのである。しかしそれはまた別のお話。
そして僕はこの後、
同じ年にデビューした早見優を推すことにしたようである。
「恋かなぁ、Yes!」
堀ちえみさんごめんなさい。
実家から当時買ったレコードを持って帰ってきたけど、生写真も出てきたところをみると「あんた相当ガチだね」と言われても反論できないなぁ、Yes!
花の82年組、僕らが初めて見たアイドル (完)
※敬称略