ピアノと私の30年⑤:音楽を再開したくなった20代後半
21歳、地元の音楽祭への出演辞退を決めた瞬間にプツッとピアノに対する想いも糸も切れてしまった私。
仕事も多忙を極めてどんどん音楽から離れていってしまう日々を送りながら、20代後半を迎えます。
ソレイユの演奏会で驚きのピアニストに出会う
仕事がめちゃくちゃ忙しかった頃、私が慕っている高校の先輩がウィーンから帰国。
ソレイユ音楽事務所のアーティストになり、新人演奏会に演奏を聴きに行ったときのこと。
みんな音大出身&留学帰り揃いの華々しい経歴を持つ音楽家の中にひとりだけ東大医学部在学中という、異様な経歴の持ち主の男性ピアニストがいた。
音大ではない経歴でオーディションに受かる人は私の人生で初めて見た。
東大…医学部…在学中…で、ソレイユの新人演奏会に受かるという化け物。
曲目はリストのラ・カンパネラ。
いったいどんな演奏をしてくれるのか、期待半分、見極め半分。(失礼)
それはもう素晴らしい演奏だった。(語彙力)
私もこのくらい弾けたら…あれこれ言い訳せずに続けていたら…と悔しい気持ちが半分、学業が大変なはずなのにこんな難曲を練習して新人演奏家として演奏するなんて…と感動する気持ち半分。
気がついたら涙が出ていた。
友人の結婚式でバンドで弾き語りをする
またピアノ弾けたらいいな〜と思いながらも、当時は仕事が超絶忙しい時期。
なぜなら、私はバリバリのPM(プロジェクトマネージャー)をしていました。
9時から終電近くまで仕事をして、家に着くのは23時過ぎ。帰宅後も夜中まで仕事をすることも。休日出勤もあった。
何もない土日は疲労を回復させるべく1日中寝ていた。
※残業も休日出勤も自主的にしていた、明るい社畜でした。終わらないなら働けばいいじゃない。(良い子は真似しないでね)
そんななか、友人から結婚式と二次会に出席して欲しいと連絡が。
「おめでとう〜!!全然行くよ!!」と喜んでいたら、予想もしない返信が来た。
友人「二次会でバンド組もうと思うんだけど、やなぎ、ピアノ弾けたよね?キーボードやらない?椎名林檎と星野源をやろうと思うんだけど。」
6〜7年ほど、人前ではピアノを弾いていない。なのに、小学生以来、楽譜すら見ていないポップスなんて…しかも2曲も…!?無理だって!
私「はいぃぃぃ!?無理無理無理無理!クラシック専門だし、ずっと弾いてないから無理!!他当たって!」
友人「大丈夫だよ!クラシックより簡単だって!ついでに言うと、俺はドラムだし男だから、椎名林檎はやなぎが歌ってね」
私「はぁぁぁ!?何言ってんのぉぉぉ?」
友人「やなぎ歌うまいじゃん。他のメンバーもみんな男だし」
あれやこれやと説得されて、結局引き受けることになった。
顔合わせで2曲分の楽譜を渡されて、約3ヶ月で仕上げることになった。
弾くのは簡単。歌うのも簡単。
だけど2つが合わされたときの難しさは異常。
合わせを4回くらいして、なんとか形になって当日を迎えた。
バンド経験がある、他の楽器メンバーにだいぶ助けられた気はする…
披露宴から着物で参加していたので、着物でキーボードを弾きながら椎名林檎を歌うなんて、林檎様のような経験ができたのは一生の思い出。
でも次は弾き語りじゃなくて、どちらかだけでお願いしたい。
会社の忘年会で余興演奏をする
この友人の結婚式でのキーボード体験が好評だった&楽しかったのをきっかけに、休日に気が向いたらクラシックも練習するようになった。
中学や高校で何度も弾いた曲を弾いてみたものの、弾いても本番があるわけでもないので、長時間弾くことはなく、すぐ飽きていた。
レッスン行きたいけど、仕事が忙しくて時間ないから練習してちゃんと曲を完成させられる自信がないな…と、重い腰は上がらず。
そんな私にピアノを再開する最大の転機が訪れることになる。
異動前の部署で一緒だった、ヴァイオリンの先生をしている先輩から突然連絡が。
「やなぎちゃん、これでピアノ弾かない?」
送られてきたPDFを開いてみたら、会社の忘年会で余興演奏をする人を募集する内容だった。
しかもオーディション方式で、主催部門にYouTubeに限定動画をアップして提出し、審査に通った5組が当日に演奏できる仕組み。
演奏時間は1組5分で、当日演奏した5組から、投票で1位になったら賞金を貰える。
賞金は欲しいけど、もちろん最初の答えは「NO」だった。
・ピアノソロで5分で終わる曲では勝てない
・数百人が集まるパーティー会場でピアノソロはただのBGMになる
・人前でずっと弾いていないから、2ヶ月で新しく曲を準備するのは無理
・当日は仕事で参加できない可能性もある
などなど、あれこれ理由を付けたけど、全く引いてくれない。
そこで「伴奏で一緒に出るならやりますよ」と言ってみた。
さすがに楽器の伴奏未経験者の私に頼むリスクの大きさはご存知かつ、ご自身のリサイタルは固定の伴奏者(今の師匠、伴奏のプロ)に依頼しているので、断られるだろうという確信を持っていた。
「いいね、本社勤務のやなぎちゃんと組んだら投票も獲得できそう!」
…すんなり通ってしまった。絶対に嫌がると思ったのに。
同僚の後押しもあって、やることにした。
曲目はエトピリカと情熱大陸を組み合わせて、5分に短縮。
(先輩が楽譜をいい感じに切り貼りしてくれた)
正直、初の楽器の伴奏かつ、情熱大陸というラテン系の慣れないリズムで原曲のような迫力や軽快さを出す演奏をするのはかなり大変。
どうしてもピアノ単体になると音も少し薄く感じてしまう、弾けません!と言っても過言ではない状態で突貫で弾いているから、ただ音を出しているだけ…という不安しかない状態で、選考用の動画を送ったら、審査に通ってしまった。通ってしまったらもう最後、当日までに頑張って、できる限り仕上げるしかない。
そして迎えた当日。高校時代に着ていたコンクールや演奏会用のドレスに身を包み(サイズ変わってなくて良かった)、久しぶりの人前での演奏は緊張で震えが止まらなかった。
クマのように楽屋をウロウロして、水をずっと飲み続けてました…
自分たちの出番が来て、ステージに上がったら、同僚3〜4人がスマホを構えて最前列のドセンで手を振っている。
ちょっとクスッとしてしまうその光景が、すごくありがたかった…!
演奏は、先輩が最初の入りで1小節遅れて私が「ぽかーん」としながら待つハメになったり、曲の切り替わりのグリッサンドの後、私が最初の音を外したり…とハプニングだらけだった。
けど、私のことを知っている方々はみんな見てくれていたし、投票もたくさんしてくれた。
演奏後、会場を少し歩けば誰かに声をかけられる、なんていうすごい体験をした。
先輩と2人で、これは1位取れちゃうんじゃない…!?とニヤニヤしていた。
が、結果は1位になれず。(何位かは知らないw)
今思えば、情熱大陸をまるっとやってガンガンに盛り上げた方が勝てた気がする。
このとき、私は30歳になったばかり。
まさかここから、またピアノを弾き続けることになるなんて、思っていなかった。
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ピアノから離れていた20代編が終わりました。まさか、最後の最後に再開することになるとは。
次回の30代の現在で最後です!!!!!
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