15年ぶりの大師匠のレッスンでこてんぱんにされた話(前編)
11月末に、私の地元山形へ行ってきました。
目的は小学生から中学卒業まで習っていたピアノ教室の最後の発表会への出演。
せっかくだし、高校時代の先生(大師匠)にも会って、レッスン受けちゃおう!
本番前日にピアノに触れるし一石二鳥!
と軽い気持ちで約15年ぶりの大師匠のレッスンに行き、2時間みっちりコテンパンにされてきたので、レッスン日記 兼 メモを書いてみた。
※ここに書いてある内容は「必ずこうすべき!」というものではなく、あくまでも大師匠視点での、私に合わせた教え方、弾き方のメモ書きです。
「帰りたい」から始まったレッスン
数年ぶりの地元&お世話になった大好きな先生たちに会える&可愛い後輩たちに会える!とルンルン。
東京駅で大師匠にお土産を買い、新幹線では今半のお弁当にビール、おつまみのほやを従え、この浮かれよう。
(レッスン前に飲酒してますが、新幹線降りる頃には抜けます。)
2時間40分の長旅の後、目的地の山形駅に降り立った。3秒で東京に帰りたくなった。幸いなことに雪は降っていないものの、超絶寒い。
超お気に入りで超カッコ可愛いのに、イギリス海軍仕様で分厚くて、とっても温かいVivienne Westwoodのコートを着ていたのに寒い。
数年ぶりの大好きな大師匠。いつもと変わらず笑顔で出迎えてくれた。
先生「お〜!いらっしゃい!どうだね、久しぶりの山形は?」
私「寒すぎて帰りたい」
先生「中はあったかいでしょうよ!!ほら、始めるよ!」
昨年、ラーメン屋に行ったら◯◯(同級生)に会ったんだよ〜。
前に送ってもらった動画は金髪だったけど、今は金髪じゃないの?
と近況確認をされながら、レッスン開始。
楽譜の選び方と大師匠オススメ出版社
今回レッスンに持っていったのは2曲。
・モーツァルト:ピアノソナタ 12番 K332
・サン=サーンス/リスト:死の舞踏 S.555
モーツァルトは勉強用の曲(来年の発表会で弾くけど)、リストは翌日の本番で弾く曲。
まず、弾く前に先生が語りだしたのは、楽譜の版(出版社)について。
私が使っているのはウィーン原典版。
ウィーン原典版は譜めくりがしやすいページ構成(これ重要)になっているかつ、オーケストレーションを意識したアーティキュレーションが書かれているのがポイント。
先生がオススメしてくれた、モーツァルトのベスト出版社は全音楽譜出版社から出ている、ベーレンライター版・神野版・サディー版の3つ。
「いろんな楽譜持ってんだよ、俺は!」とドヤ顔しながら、楽譜を持ってきて解説してくれました。可愛い。
<ベーレンライター版>
・運指(指遣い)が書いていない。(=自分で考えられる人向け)
・これがベスト!!
<神野版>
・ベーレンライター版を元にして、ピアニストの神野明先生が運指を入れたもの。
・日本人に合っているかつ、綺麗に弾ける運指になっている。
<サディー版>
・装飾音の入れ方が全部楽譜上に記載されているので、弾き方に迷わない。
・弾き方に迷ったときの参考書として持っておくのに最高。
ということらしい。
ここで大師匠の名言(迷言?)
「神野版とサディー版は買っておいた方がいいよ、2冊買ったところで6,000円程度なんだから、東京でのレッスンを1〜2回休んだらいいじゃない」
これは「お前はレッスンに頼らずに、2冊買って勉強して自分で考えて、弾き方を整理してからレッスンに行け」ということです…困ったらレッスンに頼り切っていることがすでに弾く前からバレている。おそろしい。
ちなみに、ピアノを専門的に学んでいる方や先生をしている方で「え?モーツァルトはヘンレ版がベストでしょうよ!」と思った方もいると思います。
私もそう思っていました。古典派なら、ヘンレか原典版だろうと。
もちろん、なぜか聞いています。ご安心ください。
これには理由があるそうで、ヘンレ版は何度も改訂されているので、買う時期によっては良くない楽譜もあるとのこと。
特に店舗で売れ残っている楽譜は要注意。売れ残っているかどうかは楽譜の中身の紙の色で判断できるそう。
そういうことを避けるためにも、楽譜をAmazonで買うのはOKだそうです。
モーツァルトに関しての話なので、他の作曲家はヘンレ版でも良いみたいですが、古典派は注意が必要かも。
メンデルスゾーンとブラームスでヘンレ版買っちゃった!と話したら、それは問題ないみたい。
ちなみに、リストも教えてもらった。ブダペスト版かペータース版が一般的に推奨されていますが、私が弾いた死の舞踏は、2ヶ月間探して、やっとYAMAHAのオンラインショップで見つけたくらい、ブダペスト版が手に入らないかつ、13,000円もする高級品。
(購入時はサン=サーンスのアニバーサリーイヤーかつ、コロナ禍真っ最中だったのもあると思う)
大師匠にも「なんでこんな高い楽譜買ってんの!?」と驚かれました。
違う巻だけど、ブダペスト版はだいたい1万円前後〜の楽譜がほとんど。
私が必要としていた編曲集は春秋社版のサン=サーンス集を買うと3,000円弱かつ、中身もブダペスト版と変わらなかったそう…
モーツァルトなどの古典派ではあまり春秋社版はおすすめはしていないようです。
「あったまかったいなぁ〜〜〜♪ バカめ!ブルジョワは金使ってください〜」て楽しそうに言われました。くっそぉ…!
死の舞踏の元になった詞が入っているのが欲しかったんだい!!
楽譜の選び方も「◯◯は✗✗版!」という考えで1冊に固執せず、自分に必要な情報が含まれている楽譜を複数持っておくことも大事だと改めて学んだ。
モーツァルトでオーケストレーションを
今回、みっちりやってもらうべきはモーツァルト。まずは1楽章を弾き終えてから、大師匠がちょっと戸惑っている様子。
2人の先生にすでに師事しているからね。どこまで口を出して良いのか、そりゃ悩みます。
大師匠「これはエチュード(練習曲)代わりなんだよね?どこまでやったらいい?」
私「ちゃんとやらないと、どのみち東京で怒られるので(言い方w)、みっちりしっかりお願いします」
大師匠「よし!はい!じゃぁ1ページ目から!!!!!」
師匠、スイッチが入る。
スラーは弦楽器のボーイングだと思え!
モーツァルトは音楽史上では「古典派」に分類されるかつ、人生の半分くらいは宮廷音楽家として働いていた背景で音楽の構造もシンプル。
リストやショパンみたいに突拍子もない和音を使ったりはできません。もちろん当時は楽器も発達していないので、使われている音域なども違います。
特にモーツァルトは、譜面だけ見たら簡単だけど、演奏するとなると、表現がとーーーっても難しいのです。
「モーツァルトを簡単だなんて思わないでください」と大師匠も言うほど。
本格的に音楽を勉強してきた人たちがモーツァルトと聞くと「うわぁ…」という反応をされるのは、それが理由だったりする。
で、シンプルな音楽での注目ポイントはスラーなんだそう。
このスラーは何を表しているかというと、弦楽器のボーイング。
ヴァイオリンなどの弦楽器は、弓の動きがダウン(下がる)だと強めの音が出る。アップ(上がる)だと、優しい音が出る。というイメージ。
(弦楽器の人から言わせたら、そんなんじゃねぇ!と言われるかもだけど…)
なので、スラーの始まりはメロディーの始まりだから、ダウン。スラーの終わりはアップだと思うと、メロディーの見え方が変わる。
メロディーの見え方が変わると、運指や音色、ペダルの使い方が変わる。
=表現が豊かになる!のです。
スラーがついていない音は "non legato" が鉄則!
実際に楽譜を見てみると、スラーがついていない音も当然あるわけで。
それを繋げて弾いたらスラーになるので、区別をしないといけない!と大師匠。
そこで出てきたのが、non legato(ノン・レガート)。
Legato(レガート)は、音を繋げて弾くという音楽用語です。そこにnon(否定)がついているので、繋げずに弾く、という意味。
ここで私は「なるほど、ここは切って弾けばいいのか!」と弾いて、
「やなぎちゃん、non legatoとスタッカートの違い、分かるかなぁ?www」
と、大師匠からニヤニヤされることに。
なぜかと言うと、私はただ音を短く切って弾いてしまったから。
書いてある音価(音の長さ)よりも短く切ってしまったら、スタッカートになってしまうわけで。
音の長さを保ちつつ、次の音と繋げずに弾くのが、non legatoなわけです。
これにも時代背景が絡んできます。当時は、ビブラートをかけずに弾く奏法が主流。
左手がオクターブで連続していても、スラーが書いていなければ、ペダルは踏まない or 足をかける程度に踏んで、音が伸びないようにする。が鉄則なのだそう。
ペダルを使わないで弾くのはナンセンス!
モーツァルトなどの古典派は時代的にピアノが現代のように発達していないので、「ペダルを使わないで弾いてね」と言われることもしばしば。
実際、私も使わないものだと思っていた。
大師匠から言わせたら、それはそれで無理があるそう。
手の大きさ、運指の指示、メロディーの繋げ方によっては、ペダルを踏まないと音楽が崩れてしまうから。
ペダルを踏むかどうかで、最初に出てきたボーイングの表現もより分かりやすくなるのだそう。
適度にペダルを使うよう、あちこちにペダルマークをゴリゴリ書き加えられました。
前編はここで終了。後編へ続く。