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あの時代に思い描いたヒーローはきっとまだ胸の中で生きてる 『GRIDMAN UNIVERSE』感想

はじめに

 2023年3月24日公開の映画『GRIDMAN UNIVERSE』を、初日に観に行ってきました。
 https://ssss-movie.net/

 本作は2018年に放送されたテレビアニメ『SSSS.GRIDMAN』及び、2021年に放送された『SSSS.DYNAZENON』の続編です。
 この二つのアニメを毎週楽しみにしていた私としては、できるだけネタバレがSNSに上がらない前に観ておきたい、ということで、仕事の休みとも重なったので初日に行ってきました。
 以下、当然ながらネタバレ上等となっております。ご了承ください。

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 総じて言えば、この映画は「テレビシリーズの時に受けた批判への回答や補完もしつつ、見せられるもの・客が見たいものを全部見せた作品」という印象でした。
 ストーリーを順を追って見ていきます。

日・常


 冒頭から最初の怪獣が出てくるまでの日常パートを通して、響裕太がどういう人物なのかが描写されていきます。
 裕太は『SSSS.GRIDMAN』の主人公ではありますが、テレビシリーズでの彼はずっとグリッドマンの意識で動いています。普段の裕太、本物の裕太についてはまったく未知なのです。
 「六花に告白しようと思っているが時機を逃しているのではと不安になっている」「六花に大学生の彼氏がいるという噂を聞いて凹む」「ベタベタな学生演劇を見て感動して泣いてしまう」「幽霊のようなものを見て怯える」といった塩梅で、等身大の素直な男子高校生なんだな、という印象を持ちました。
 特に、六花が男のいる単身向けのアパートに入って行くのを見たシーンでの内海とのやり取りは、『SSSS.GRIDMAN』の方ではあまり見られなかったもので新鮮に映りました。
 その一方で、怪獣が出現しグリッドマンの声を聞くや否や、怪獣が暴れる中でも「ジャンク」にまっすぐに向かって走る、迷いのない部分も持ち合わせています。「助けを求められた時、それに応えること」に躊躇がない。「走り出せばヒーローになれる」、ヒーロー性と言ってもいい部分です。
 『SSSS.GRIDMAN』で裕太が選ばれたのは、「誰しもが新条アカネを好きな世界で、六花のことが好きだったから」という解釈がされていましたが、今回の映画を見るとそれだけではなく、その真っすぐな性格にグリッドマンが惹かれたのではないか、と想像してしまいます。

混・沌

 怪獣出現後、日常は静かに壊れていき、混沌とした状況に陥っていきます。
 それを象徴的に表していたのが、内海と六花が執筆していた文化祭の劇の脚本です。
 「新条アカネのことを伝えるため」という目的を持って書かれ始めたこの脚本は、みなこらクラスメイトの「リアリティがない」とか、宇宙の融合によって現れた蓬たちのエピソードを加えることによって歪んでいきます。
 そして、遂には「新条アカネのこと」は脚本から完全に失われてしまいます。
 グリッドマン同盟らを取り巻く日常にもおかしな現象が起こり始めます。
 新世紀中学生の新人・レックスとなっていたガウマは、スーパーの北海道物産展で5000年間探し求めてきた姫と再会します。
 更には、アレクシス・ケリヴが「コスプレをした六花の父親」として「絢」に現れ、受け入れられるのです。
 これに違和感を覚えているのは裕太だけでした。受けた記憶がないのに期末テストが終わっていたり、怪獣が現れる前に顔面にバレーボールが当たって(テレビアニメ第一話のオマージュ!)以降、痛みを感じていなかったり……。
 そんな裕太を心配して追ってきてくれたのが、蓬でした。そして二人の前に、折に触れて裕太の前に現れていた幽霊が、遂にその姿を現します。
 そして現れる二匹目の怪獣。
 苦戦するグリッドマンたちの前に、グリッドナイトと2代目の駆る戦艦が現れ、この段階でフルパワーグリッドマンとカイゼルグリッドナイトの揃い踏みという絵面が繰り出されます。
 勝利するもつかの間、もう一人のグリッドナイトが現れグリッドマンを不意打ち、『SSSS.GRIDMAN』の宇宙以外の存在が消失してしまうのです。
 特に溜めもなくぬるっと合流してくるガウマ以外のダイナゼノン組に、「もっとやりようがあったのでは?」と思っていたのですが、それが混沌化する宇宙の描写のために意図して行われたものだと分かり、驚きました。

救・助

 そして、アンチと2代目(『SSSS.GRIDMAN』当時の姿!)から説明される宇宙融合の真実。
 それは当初予想されていたビッグクランチではなく、本来形を持たないグリッドマンが想像した宇宙を、グリッドマンの合体能力を利用して何者かが統合し、グリッドマンの力を自分のものにしようとしていたために起こった、というのです。
 このグリッドマンの世界のことを「グリッドマンユニバース」と呼び、映画のタイトルが回収されます。
 そして、ここでも裕太の「助けることへの躊躇のなさ」が発揮されます。
 「裕太が『アクセスフラッシュ』することで宇宙を元に戻すことができる」と聞けば、「宇宙の広がりに普通の人間は耐えられず消滅する」と懸念を示されても「やる」のです。
 また、『SSSS.DYNAZENON』の主人公たる蓬も同じヒーロー性を持っているところが描写されます。
 邪魔者を排除するために、グリッドマンの力を奪おうとするラスボスが怪獣を差し向けてくるのですが、アンチが倒れ万策尽きた時、「夢芽ごめん」とつぶやきながら「インスタンス・ドミネーション」を用い、怪獣を止めるのです。
 ここで裕太を走らせたのは、自分や六花・内海のいる宇宙を守るということ、知り合った蓬たちの宇宙を守るということ、それに加えて「グリッドマンを助ける」という意思でした。
 ハイパーエージェントであり世界を救ってきたグリッドマンが、自分に助けを求めている。だから助けに行く。それは響裕太こそがこの時のグリッドマンにとっての「Special Signature to Save a Soul」だった、という意味であり、テレビアニメ本編のテーマ(孤独な創造主を救う被造物)というところに繋がってきます。
 「ジャンク」に向かう裕太を助けるバイカーを演じていたのが、『電光超人グリッドマン』の主演の小尾昌也さんだったのも象徴的です。グリッドマンが自分の中にいる直人を、裕太を助けるために差し向けたのでしょう。

決・戦

 そして裕太は、もう一人の創造主である新条アカネの助力(挟まる実写パートが『SSSS』シリーズ味を感じました)を得、グリッドマンと対面します。
 グリッドマンは裕太の二か月分の記憶を奪ってしまったことに引け目を感じており、そこにつけこまれたのかもしれない、と語ります。
 ここでグリッドマンが裕太に謝罪するのは、放送当時の「ずっとグリッドマンだったなんて本物の裕太が可哀想」といった批判に対する回答のようでした。
 ここでグリッドマンを取り戻す時に使われるのが、みんなが描いたグリッドマンの絵でした。
 冒頭、裕太はグリッドマンの絵を何度も描いては消し描いては消し、遂には紙を破いてしまいます。この時の裕太はまだグリッドマンを直接見たことがなく、想像で描いていました。
 次いで蓬たちが合流した後の文化祭の準備中、内海と六花と共に衣装を作るためにグリッドマンの絵を描きます。この時の裕太は既に一度グリッドマンと対面していました。
 また、文化祭の準備を手伝いに来た蓬、夢芽、ちせもグリッドマンを描いています。
 それらのスケッチを、裕太は集めて胸ポケットに入れていました。
 グリッドマンが助けを求めたのは裕太で、裕太はグリッドマンが繋いで(UNI-ON)きたみんなの力でそれを救い出すのです。
 みんなのスケッチが重なって出現したのが新たな姿「ユニバースファイター」。
 この姿でラスボスとの戦いに臨むのです。
 一方で、アカネも怪獣使いの姿になり、「インスタンス・ドミネーション」によってアレクシス・ケリヴを「利用」し、味方にします。
 アレクシスはグリッドマンの記憶に「インスタンス・アブリアクション」を行い、ダイナレックスや新世紀中学生を呼び出し、それに同期したアンチと2代目も『SSSS.DYNAZENO』の姿となります。
 ラスボスはグリッドマンの記憶をすべて持っているため、既知の攻撃が通用しません。
 「なら新しい攻撃をしたらいい」と提案するちせに、アカネが「分かってるね」とちせのタトゥーを浮かせゴルドバーンに重ねます。
 新たな姿のゴルドバーンとダイナゼノン、グリッドマンが合体しカイゼルグリッドマンに。
 パワードゼノンとグリッドナイトが合体してフルパワーグリッドナイトに。
 追い詰められたラスボスは、隙を突いてアレクシスを吸収、無限のエネルギーを得ます。
 不滅の力を手に入れたラスボスに対し、グリッドマンは「破壊エネルギーをぶつけると同時にフィクサービームを打ち込む」ことを提案。
 再生と破壊の二つのエネルギーにさらされたラスボスは、アレクシスの力で再生しようとしますが、徐々に体が崩壊していきます。
 冒頭の、何度も消しゴムをかけたことで破れてしまった紙がオーバーラップ、無限のエネルギーで再生しても、肉体はその繰り返しに耐えられないことが説明されます。
 尚も逃れようとするラスボスを、中からアレクシスが押しとどめ、遂にラスボスは消滅しました。
 フィクサービームがキーになること、永遠の再生を否定し限りある生命をよしとすることも、『SSSS.GRIDMAN』から貫かれているテーマでよかったと思います。
 ラスボスと共に消滅した風のアレクシスが「限りある生命のすばらしさをもっと早く知れていたら」と言い残して消えたのも「唐突」と言われた「限りある生命の力」への回答でしょう(アレクシス自体は『どうせ生きてるだろう』みたいな扱いでしたが)。

帰還

 戦いは終わり、みんながそれぞれの世界へと戻っていきます。
 アカネはアンチに謝罪し、グリッドナイトとなったアンチは「謝ることはない」と逆に礼を言います。アカネはナイトを抱きしめ、そして六花にもお別れをして自分の世界へ戻っていきました。
 蓬たち四人も2代目によって元の世界へ帰って行きます。ガウマに「ちゃんとお別れできますね」と蓬は言い、ガウマは北海道展で姫が売ってくれたカニを「蓬の母ちゃんへの礼だ」と贈ります。
 カニを「一緒に食べる?」と夢芽に言う蓬。夢芽は「蓬の家への贈り物でしょ」と言いますが、「つまりそういうことなんだけど」と暗に家に誘い、夢芽は赤面します。
 一方、ガウマは領収書の裏にあった姫からのメッセージを見つけ、未来を向いて生きていくことを改めて決意します。それを見守るのが、さっきちゃんと「生みの親」とのけじめをつけたアンチ=グリッドナイトなのがいいですね。
 そして、裕太たちグリッドマン同盟とグリッドマンとの別れの時が来ます。
 アクセプターをそのままにする、という裕太。また何かあったら助けになる、と再会を匂わせながら。
 文化祭も無事に開かれ、内海と六花のクラスの劇の脚本は今回の戦いの内容も盛り込んだものに書き直され、グダりつつも好評で終わります。
 そして、文化祭が終わり、裕太は遂に六花に告白します。
 「遅すぎるかもだけど」という裕太に、六花は「そうだ」と言いつつも、「そのお陰で裕太のことを知れて好きになれた」とOKします。
 ガウマと姫、あるいはガウマと蓬のやり取りで、「人生に大切なことの三つ目」として「賞味期限」という言葉が出ました。
 裕太の告白は、本人は「遅い=賞味期限切れ」かと本人も危惧していたのですが、六花にとっては「裕太のことをちゃんと好きになれる期間」だったので受け入れられました。
 一方で、姫はガウマに「そろそろ過去を振り返るのはやめろ」とメッセージを送ります。
 これは、姫は既に死んだ存在で、ガウマと同じ今を生きることができないためです。「知っていく」期間は既に終わり、生あるガウマは別の道を歩まねばならないのです。
 ガウマと蓬にも同じことが言えます。ガウマは新世紀中学生としてハイパーエージェントの補助をして戦っていく、蓬は日常に戻り生活していくことがそれぞれの人生なのです。

総評

 非常によくまとまっていて、無駄のない構成だと感じました。
 テレビシリーズからの、あるいはこの映画内からの要素の拾い出し方がうまく、話の筋運びの巧みさには唸らされました。
 『SSSS.GRIDMAN』と同じく「裕太の六花への恋心」を軸にして話を進めつつ、テレビシリーズではできなかった裕太とグリッドマンが絆を結ぶところを描いたところがよかったと思います。
 ダイナゼノン組の方はやや割を食った印象ですが、それぞれが前を向いて進んでいることを示してくれたので、私は充分でした。暦先輩は何か失業してましたが、本編以前の先輩だったら「就職活動中」とは言わなかっただろうし、前進してると思います。ガウマと姫の再会は力業でしたが……。
 一方で、上で触れた以外にも「あ、これ批判への回答かな」と思うシーンもありました。
 『SSSS.GRIDMAN』は人気を集めた一方で批判的な感想も多く見られた作品でした。その中には「グリッドマンでやる意味がない」「TRIGGERがグリッドマンを私物化している」というような意見も見られました。
 この映画のラスボスに対する「グリッドマンは誰のものでもない」という反論は、それらの意見への答えのようにも聞こえました。
 気になったところとしては、戦闘が何やってるのか分からない時があったことです。素のグリッドマン(ユニバースファイターも含む)の時はそうでもないのですが、合体形態となると線が多いデザインのためか、大画面でも入り組み過ぎていて動きが捉えにくかったところが残念に思いました。
 『SSSS.GRIDMAN』は、様々な展開を見せました。ソーシャルゲームとのコラボも沢山ありました。着ぐるみのショーも行われました。映画の中でもコマが使われていましたが、数多くのスピンオフコミック、アンソロジーも出ました。
 そういう「広がり」がたくさんあっていいんだ、というメッセージのようでもあり、今後の展開にも期待したいところです。

個人的に好きなシーン

 ・遂にガウマさんまで「何とかビーム!」と言い始めてるところ。
 ・内海の「一緒にいてやることはできる」。今回の映画でも内海はいいヤツでした。
 ・「複数の宇宙=マルチバース」を真っ先に理解する内海。円谷のオタクー!
 ・内海とはっすのバッティングセンターデート。
  マジか……、そうか、ボイスドラマで……。
 ・暦先輩が風呂に乱入した時に裕太と同時に叫んだ「おかあさーん!」。
  いや、裕太お母さん不在でしょ。
 ・ガウマさんと蓬のしっとり再会を六花ママがキャンセルしたところ。
 ・その後、ちゃんと尺を取ってガウマと蓬の会話をやってくれたところ。
 ・六花と夢芽ヒロイン二人の初会話シーンで、夢芽が若干コミュ障気味な面を出したところ。
 ・その後マックスさんが充電器をおもむろに貸し出すところ。
 ・六花にタトゥーを褒められて嬉しそうなちせ。かわいい。国宝。
 ・文化祭の準備を手伝う夢芽に、蓬「自分のクラスの時より真剣じゃない?」。そう言えば『SSSS.DYNAZENON』のラストは文化祭だったなあ……。
 ・アイスの買い出しの公園のシーンで、ブランコから落ちた六花さんの髪が乱れてるところ。ここの作画もかなり気合入ってたなあ。
 ・ボラーちゃんくんさんに内海が無限に膝を蹴られてるところ。
 ・混沌化の影響で文化祭の準備に怪獣使いが混じっているところ。違和感がないよ君ら。
 ・何でガウマさんがカニばっかり食べてたか分かったところ。姫との思い出だったのか……。
 ・暦先輩「なんか、ガウマさんの大事な人らしいっすよ。でも住む世界が違うっていうか」
  六花ママ「芸能人か……」
 ・二体目の怪獣戦でのグリッドマンとグリッドナイトの武器交換。
 ・また聞けてよかった2代目ちゃんの例の笑い声。
 ・ゴルドバーンの話が出るたびに嬉しそうなちせ。かわいい。世界遺産。
 ・六花ママ「変な人だけど、いい方の変な人だから」
  アカネちゃん「変な人たち」
 ・アカネちゃんの変身シーンの気合の入りよう。
  2代目の変身シーンの気合の入りよう。
  この二つ、クォリティが異常に高かった気がする。本気すぎる。
 ・アレクシスが六花や内海を助けに割って入った時の、「君を退屈から 救いに来たんだ」のあのカットのセルフオマージュ。
 ・玩具屋の夢か、と思うぐらいに合体パーツとして便利なゴルドバーン。
 ・これしかないタイミングで流れる「インパーフェクト」「UNI-ON」。
 ・一回ラスボスを倒したか、という時に並び立つカイゼルグリッドマン、フルパワーグリッドナイト、メカアノシラス、アレクシス←こいつ。
  どの面で決めポーズしてんだよ!
 ・アレクシスがラスボスに取り込まれる時にちゃんとアカネちゃんを逃がしたところ。なんだかんだアレクシスはアカネちゃんのことを気に入っていたのでは、と少し思う。
 ・現実アカネちゃんにも友達ができたことが示唆されたところ。
 ・内海の劇でのアドリブ「フィクサービームで直る」。
 ・エンドロール後の蓬ママのカニの感想、「普通」。

まとめ

 ちせちゃんかわいいばっかり書いてるが、実は夢芽派。

 以上です。

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