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四半世紀前の記憶

忙しいから、と後回しに後回しにしていたら抱えていた虫歯爆弾がついに暴れだした。


あれほど歯は大事にしろと先人から教えられていたのに歯医者通いを蔑ろにした罪は重く、いい大人が1日中顔をしかめちゃうぐらいには激痛。



1年前に転居して来てかかりつけの歯医者がなかったので、自宅から1番近い歯医者に泣きついたところ、なんとか緊急で診てもらえた。


どう考えても虫歯を騙し騙し放置した私が悪いに決まってるのに、先生は無茶苦茶優しくて
「あーこれは後2、3日以内に眠れない痛みが来てたね辛かったね」
「痛いよね、ごめんねぇちょっとだけ我慢してね」
と声をかけながら治療してくれた。


初老の虫歯放置女にここまで神対応できるなんてどうなってんだ。
日々こういう愚かな人間に対応することが多すぎて麻痺してるだけなんだろうか。


来院前に念のため見ておいたGoogleの口コミには『受付の女の態度が悪すぎる』と数名から書かれていたけど、別の人かな?と思うぐらいには優しかった(数回通ったので間違いなさそう)。

確かに電話はガチャ切りしてくるけど普通ににこやか且つ親切な対応だったので多分書いた奴らの態度が横柄か、嫌われ者のオヤジなんだと思う。

それはそうと治療中に、学生時代に歯医者でアルバイトをした過去が急に蘇ってきた。歯科助手である。

当時にしては時給が高かったのと、可愛い制服にほんのり憧れた当時の私はチャリを20分近く漕いでわざわざ通うことにした。


色気ムンムンのお局が20年前の中野美奈子アナによく似た激可愛フレッシュな歯科衛生士をイビリたおしていてその環境のせいか人の出入りが激しいようで、何の知識も経験もない高校生の私があっさり採用された。


当たり前に居心地は悪いがお局は当時芋臭さが抜けてない私をいびることはまずない。今覚えば失礼すぎてめっちゃ腹立つな。くそ。

しかし前述の通り人が足りていないのでお局も美奈子も何も教えてはくれない。「とりあえず練って」と言われてピンクのガムみたいなやつを練ったがすぐに固くなったり、何も分からないまま渡された吸引の管で爺さんの唇を激しく吸ったりしていた。まぁまぁ怒られたが、そもそもいきなりぶっつけ本番でやらせるな。


医院を改装するということで数ヶ月で辞めることになったのだがいいタイミングだったと思う。
中野アナからお色気ババァの愚痴を聞くのももう限界だった。


肝心の先生の顔は、 閉院後の清掃中にバイオリンをドヤ顔で弾くのを聞かされたせいか完全に葉加瀬太郎でメモライズされてしまっている。


ふと、あの歯医者まだやってるのかなと気になってググってみたら笑うぐらいまんま葉加瀬太郎だった。
どちらかというと奏でていたのはバイオリンじゃなくてトランペットでそっちが記憶間違いだった。

あの医院で数ヶ月ばかり働いた経験から、治療中にあっちの方で歯科衛生士さんと歯科助手さんかキャッキャはしゃぐという、これまたGoogleの口コミで酷評されていた点も「いい職場じゃないか」とタオルの下で笑みを浮かべられるおばになった。



ともあれ私の虫歯は順調に治療が進んでいて、まだまだ美味しいものを食べるために頑張ってもらわなければならない。


今日も先生に甘やかされつつ痛みに耐えるのみである。

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