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リックサック
昼下がりの車内の涼しさにほっとした。隣りには大きいリックを前に抱えた70代の男の人急いで乗り込んで来た三人の中年の女の人たちも,リックを背負っている。
やっぱり,リックは便利なのかもしれない。
私は買い物用のカートを横に転がし,歩行の補助にしているが,家族や友人から「リックがいいわよ,両手が空くしさっさと歩けるからと」と言われていつが、私はリックが好きでないのです。
私は終戦の時に小学校一年生あった。戦中、戦後と食糧難の時代のなかであった。
復員して来た父と二人で,近隣の農家を探し,食料調達に出かける日が多かった。
父は戦闘帽にゲートルを巻き,大きなリックを背負って、私と手を繋ぎ「徐州 徐州と人馬は進む,徐州いよいか、すみよいか………」と歌いながら,雑木林を抜け,畦道を歩いた。
農家といえどそれ程食べ物が豊富にあるわけでもなく、顔みしりから,少々の麦や,芋やかぼちゃを分けてもらった。芋もかぼちゃも今のとは違って,ゴリゴリとしたものだったが,病弱だった弟は喜んでたべた。
父のリックはいつもいっぱいになることはなかった。
あのリックを背負った父の姿が目に浮かぶ。
老いるというのは不思議なもので,昨日のことは忘れてしまうのに,ちょっとした一つの
情景から80年も前のことが浮かんでくる。辺りの畑で稲藁を焼く匂いまでも。
帰り道 私もリック背負ってみようかしらと思った。
# リック # 買い出し #情景 # 食糧難