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サガン鳥栖2022シーズンのゴールドセイント達①西川潤

女性ファンなら甘いマスクが何よりの特長でしょう。「未完の大器」として鳥栖に育成を任されたギフト(才能保持者)でありながら、川井健太監督の厳しい指導のもと、なかなか試合に出されることがありませんでした。鳥栖の今季最大の魅力は彼の成長物語にあると思っています。

西川は?!もしかしてダメなのか?

西川についてはスペインの名門フットボールクラブ、バルセロナが2度にわたって獲得交渉をしたという前評判があり、シーズン前からスタメン起用を予想する識者も多くいました。地方のサガン鳥栖にサッカーの王子様がやってくるような雰囲気があり、スタメンが安定しなくてもサブとして出てくるだろうという予測が立っていました。もちろんセレッソで出番が無く、「相当な覚悟を決めて九州に来ているはず」(蹴球メガネーズ開幕予想)とある通り、崖っぷちの天才というイメージで期待されていた選手です。私も楽しみでした。

ところが。

開幕から彼の名がメンバー表にない。「怪我」という情報もありました。確かに開幕当初はそうだったのかもしれません。しかしそれにしても出ない。2節になっても3節になっても、、シーズンの3分の1も終わる10節を過ぎてもカップ戦にすら西川の名前が出ませんでした。すると鳥栖の掲示板やTwitterでもドヨドヨとした雰囲気が出てきます。「もしや序列で大卒の選手にも負けるのでは…」「監督との折り合いが悪いのでは…」。何しろシーズンを通してサポーターにもスタメンが読めない今季の人材豊富なサガン鳥栖です。監督はレギュラーを固定しない方針だからこそ、今日こそ西川が見れる!とまぁそれほど「バルセロナ」の前評判は強力でもありました。しかし13節、神戸に手痛い負けを喫する頃、私たちは最早西川は今季はダメかな、と諦めていました。

シンデレラボーイ

ところがその神戸戦の後の、ルヴァンカップグループステージ第6節、コンサドーレ札幌戦。5月18日でした。突如メンバーの中に西川の名を見ます。「やった!カップ戦なら見れるんだ!」。歓喜する鳥栖サポーター。しかしこれだけ出られないんだから、とどこか割り引いて見ていたところがありました。

しかし試合の70分を過ぎても登場の気配がない。なんだ、雰囲気だけ体験させるやつか、やっぱり西川はダメなのかー。そう思いかけていた所に77分、西川登場です。嬉しい反面、何かが出来るとは思っていませんでした。サガン鳥栖は0ー1で負けている。

その3分後でした。中央でボールを持った石井快征選手が、右サイドの原田亘選手に展開すると、原田選手が1人かわしてゴール前にグラウンダーのパスを供給。そこにファーから相手DF陣を振り切って飛び出した西川がワンタッチでGKの頭上にゴール!今季初出場即同点弾です。「やはり西川はやるやつなんだ」と、我々にもう一度その名を記憶させる鮮烈なサガン鳥栖デビューとなりました。というよりむしろ何故出ていなかったのか。

いつもと違う川井健太監督

私はいつも試合が終わるとクラブ公式サイトやJリーグの公式サイトに掲載される監督や選手のコメントを読むのを楽しみにしているのですが、この強力なデビューをいつも選手やスタッフを褒めてくれ、前向きなコメントをくれる今季から指揮を執る川井健太監督がどのように評価するのか、この試合の後は特に早くコメントを読みたくて、その日の23時を回った頃から何度もサイトをクリックしていました。そうして未明ごろに掲載された公式コメント、川井監督は

Q:得点を決めた西川潤選手について。
A:彼は得点能力やアシストなどフィニッシュワークがやはり長所です。今まで少しケガがちで、今回も連れていくか、ギリギリまで悩みました。そして今回は彼のそういう部分に賭けてみようと思いました。勝利が必要だった試合ですので、その点では期待には応えてくれました。ただ、彼も感じていると思いますが、足りない部分はたくさんありますので、そこは補っていかないといけないと思います。

珍しく何か手放しで喜んでない。喜んでないが、西川の特徴は認めている。ゴール前は得意と。すると、ギフトだけではない西川を作る育成モードなんだと理解出来ました。このコメントのニュアンス、何となくわかりますでしょうか。勝つためだけを考えるなら、メンバーに入れる。しかしケガがちなのめ含めてプロとして足りないものがある。勝利より優先して西川を育てる。その川井監督の意思がこのコメントから感じられたのです。西川に向けてこのコメントを発したことでしょう。

今季のサガン鳥栖の中でもこの特別な師弟関係を最も強く感じたのは、天皇杯一回戦となったヴェルスパ大分戦でした。ヴェルスパ大分はJFLのチーム。この試合で西川潤は今季初のスタメンで出場します。カップ戦でデビューして以降はリーグ本戦でも、毎試合ベンチには名を連ね、ラスト10分で雰囲気だけ味わうというような「味見出場」が続いていたので、この試合が本当の実力試し。この試合については見所が多く、別のエントリーで詳細に書きましたが、一言で言ってJリーグとJFLの差は全く感じられない死闘となりました。その中で最も印象に残ったのが川井監督の挙動です。いつもクールにピッチサイドに立ち、選手への指示もスタッフが細かくボードで指示を出した後に、軽く声をかける程度のあっさりした佇まいが特徴の川井監督。ハーフタイムが終わった時点で、この試合リーグ戦を3日前に戦ったばかりの小泉やジエゴ、原田、田代に最大限の労いの言葉をかけていました。

しかし西川については別。とにかくこの試合は前に!前に!とダッシュを指示していたのですが、それでも突っ込みが甘い西川に「なーにしてんだ潤!」とアメリカンジェスチャーまで飛び出す始末。

シーズンを通して、こんなにも1人の選手に熱くなる川井健太監督の姿はこれが最初で最後でした。これでシーズン序盤に西川が出ていなかった理由に完全に合点が行ったのと同時に、きっとこの後、西川は試合に出るようになる、とも確信が生まれました。ちなみにこの試合はジエゴの今季初ゴールを守り切って勝利しました。

覚醒のとき

以降は予想した通り、少しずつ試合への出場時間も増えてきます。ヴェルスパ大分戦では、まだ線が細く見えた西川ですが、徐々に逞しさも増していったように思います。今でも痩せ型の体型は変わりませんが、その見た目に反してフィジカルは岩崎と並んでモンスター級。全く倒れません。まるで中田英寿のように倒れないフィジカルの強さと運動量。これは最早ギフトというより、手塩にかけて育てた川井監督の前半の時間が、このようにして結実したのだと思いました、そして以前にも詳報したように、西川のハイライトは9月3日、アウェイ吹田のパナソニックスタジアム、ガンバ大阪戦に現れることになります。1G1A、西川潤ひとつの完成形を見ることが出来ました。

獲得能力

それ以後のサガン鳥栖は勝ち星がなく、サポーターからも川井サッカーが少し批判を浴びる時期に入ります。ただ、私の目には西川のパフォーマンスは迫力を増しており、スプリントにかけては岩崎にも引けを取らない闘争心を見せました。もちろんその天才的なパスセンスは健在なのですが、西川のプレイを見る時、そこではなくフィジカルの強さだったり、アグレッシブな仕掛けやダッシュなど、まるで途中で移籍してしまった飯野七聖のプレイがそのまま継承されたかのような気迫溢れるプレイが印象に残ります。これぞまさしく、この1年間で川井監督が身につけてほしかったメンタリティではないでしょうか。もはやアメリカジェスチャーをされる潤じゃない。

今年の鳥栖の面白さを象徴するのがこの西川潤の成長物語だったと思います。これは私の想像ですが、いずれはセレッソに帰る選手、あるいは海外に出ていく選手で、もしかすると日の丸をつけて戦う選手になり得るかもしれない。言わば日本の至宝を育てる気持ちでクラブへの貢献を超えて、川井監督は指導していたような気がします。

そしてもし鳥栖でレンタル延長してくれれば来季こそエースとして君臨してくれるでしょう。

来季も1番の推しメンとしてユニフォームを買いたいので、是非とも残留してもらいたいと思いますし、その可能性は高いと思っています。ゴールドセイント稿はこの後も何選手か書いていこうと思いますが、特に思い入れのある選手のなので初稿にしてやたら長くなってしまいました。

来季について、改善点など

前述の通り、サガン鳥栖は終盤失速しましたが、西川自信は尻上がりにプレイが良くなっていたと思います。後は試合に慣れて自信を持って欲しいですね。湘南戦のPK戦はもう少しキーパーとの駆け引きに溜めを作っても良かったですし、最終節広島戦はバックパスからのミスが失点に繋がったり、ちょっと空回りしたシーンもありました。この試合は宮代へのアシストは見事、でしたけど自分でも決められるシーンだったかなと思います。ここでミドルが選択できるぐらいプレイに自信があればさらに天才ぶりが発揮できるので、技を増やして来季は得点ランキング上位に名を連ねてくれれば最高ですね。そうなった時には年齢も若く、きっと世界が近づいていることでしょう。

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