注意書きのウラに隠された血と汗の結晶
いよいよ戦いが始まる。
2度目となる今回の買い出しで全ての食材を揃えるつもりだ。
先日は粒マスで出鼻をくじかれてしまったが、それを乗り越えた今はなんと「ローリエが香辛料のコーナーに置いてあると数秒で理解できるほど」にまで買い出しのレベルが上がっていた。
「ローリエ:268円」
「ローレル:198円」
......!?
しかしいざ売り場を訪ねてみると、ちょっとしたアクシデントが発生した。
一見するとパッケージの見た目が同じように見える両者。
が、私が買いに来たのはローレルではなくローリエだ。
つまりこれはワナである可能性が高い。
以前の私ならば値段の安さにつられて迷わずローレルを選択していただろう。脳裏には先日の粒マスと編集のナカジマさんの姿が思い浮かんでいた。
しかし、今は違う......!
手を伸ばすべきはローリエだ。
(ククク...ここでローレルを選択する愚行は犯しませんよ、ナカジマさん!
おかげさまで私、強くなりました!!)
勝利を確信した私は少しお高めのローリエを買い物かごに入れた。
◇
レシピ本の料理に必要な食材は全て買い揃えた。
早速、編集のナカジマさんに連絡すべく、会計を済ませた私はスマホを手にした。
(......何かイヤな予感がする)
ふと謎の違和感があった。
粒マス事件の時にもあった第六感的な感覚。
そしてその違和感は、念のためローレルとローリエの違いについて調べておこう、と思わせる何かだった。
ネット検索:ローレルとローリエは同じものです
あああああああああああああああああああああああああああああぁぁ。
思わず心の声を漏らすどころか、叫んでしまっていた。
確信したはずの勝利は逆転劇により打ち砕かれたのだ。
よくよく調べてみると、両者は発音が違うだけで、同じモノを指しているとのこと。
なんということだ。そういうことは早めに言っておいてもらわないと。
ぴえん。
……
…………。
またしてもナカジマさんに敗北を報告しなければならないのだった。
かくして、書籍の69ページ目に「ローレルとローリエ」についての記述が本文に加わることとなる。
◇
粒マス。
ローレルとローリエ。
ウスターソースとオイスターソース。
食材を揃える段階ですら次々に露呈していく己の未熟さ。
そして実際に調理を始めてみると、それはさらに加速していった。
「ナカジマさん、ポン酢しょうゆっていわゆるポン酢っていう認識であってますよね!?」
「ナカジマさん、だし汁ってなんですか!?!?」
「ナカジマさん、鍋肌から醤油を入れるってどういう感じですか!?」
疑問は尽きず、ナカジマさんに相談する日々が続いた。
こんなことならもっと真剣に料理と向き合っておけばよかった、などと言っている時間も惜しかった。
それならば今から向き合えば良いだけの話。
現状においてはそれが最善であると割り切って前に進むことにした。
そうして前進するうちに、料理本出版業界ではアタリマエになっている(一方で、初心者には壁に感じる)ことを探すことになっていき、注釈が加えられるなどしてレシピ本のカドを丸くする役割を果たすとともに、私自身もレベルアップしていったのだった。
初めは目的すらわからなかった初めて使う調味料たち。
粒マスタードは酸味のアクセントに、オイスターソースは中華のコクを出すために、今日も冷蔵庫で待機中だ。
(つづく)
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