雨から逃げるように。

彼女は雨から逃げるように、雨の日は僕の家へ温もりを求めてきた。
雨が嫌いな彼女は、何故か傘を差すのを嫌った。

「傘を差すと、手を繋ぐことができなくなるし、太陽が見えなくなるわ。」

と彼女は言った。
雪の降る日には、彼女はこう言った。

「雪が冷たいのは、人の温もりを感じる為なの。でもね、手は繋ぐ為にあるんじゃないの。それに、みんな勘違いしているわ。手は夢を掴む為にあるのかもしれないけど、逆に離す為にも存在しているの。」

「掴むことばかりに執着してたら、可能性を手放してしまうわ。手を繋いでばかりいたら、君の温もりを愛しく思うこともなくなるわ。貴方と私の体温が、一緒になってしまったなら、きっと手を繋ぐ意味を忘れてしまうの。」

そう言って、僕の手を離したあと、雪だるまを彼女は作り始めた。
そして僕にも手伝いをさせたあと、再び僕達は手を繋いだ。
冷たいはずの彼女の手を、暖かいと感じた僕は、彼女の顔を眺めてみた。
同じように僕の顔を眺めていた彼女は

「君の手は暖かいのね。」

と言った。

僕は温もりは体温ではないということを感じ、暖かい気持ちになった。
雨の匂いを僕はあまり好きではなかったが、彼女に会えるというだけで、僕は幸せだった。
そして、彼女の髪の香りを殺してしまう雨を、少しだけ憎んだ。
水溜りに写った空は、いつも泣いているようだった。
そして、雨に濡れた彼女も、泣いているように見えた。

梅雨の季節になり、彼女に会える日が増えると、僕は憂鬱な嬉しい気持ちになった。
雨の日にしか会えない彼女に、僕はいつもタオルを貸して、コーヒーを入れた。
角砂糖が溶けていくコーヒーを愛しく思いながら、僕は温もりとは何なのか考えた。
すると、雨に濡れた彼女はコーヒーを一口飲んでこう言った。

「あったかい。」

と。

そして、僕はその言葉に、温もりを覚えたのだ。

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