月の兎と彼女の話。
夏の終わりを哀しむような、虫の音が響いている。
足下を抜ける冷たくなった風が、二度と戻ることのできない夏を、少しだけ切なくさせた。
まんまるい月に、今にも落ちてきそうな星たち。
そんな光に照らされた彼女の頬は、透き通るように白く、唇は冷たく美味しそうに艶めいている。
彼女は月を見つめながら、唇を小さく動かし、僕に問いかける。
「月にはウサギがいるって知ってる?」
彼女の余りに可愛らしい質問に、僕は少し笑って僕は答える。
「うん、知ってるよ。」
僕の答えを聞いた彼女は、僕を見て少し笑い、もう一度問いかける。
「月のウサギは、何をしてるか知ってる?」
当たり前の質問に、僕は当たり前のように答える。
「お餅をついてるんだよ。」
僕の答えを聞くと彼女は、イタズラをする子どものように、口角を上げて笑った。
そして、最後の質問を口にする。
「じゃぁ、月にはウサギがいないって知ってた?」
僕は少し呆気にとられ、彼女の顔を見つめた。
彼女は、僕の答えを待ちきれないように、瞳を輝かせた。
「うん、知ってるよ。」
僕がそう答えると、彼女は玩具に飽きた子どものように、ふてくされて笑った。
そして、冷たく光る月を見つめると、「嘘つき。」と小さく呟いた。