帰れない2人。
イルミネーションされた観覧車は、誰を乗せるわけでもなく、静かに寂しそうに回っている。
ほんの数時間前まで、あんなにはしゃいでいた彼女も、観覧車と同じように少し寂しげな様子だ。
吐く息が白い。
僕は彼女の手を取ると、自分のコートのポケットに入れる。
そして少し強く彼女の手を握ると、彼女は少し笑って僕の顔を見た。
彼女の手は小さくて冷たくて、僕は残された今日の時間が少ないことに、少し寂しい気持ちになった。
その時だった。
彼女は僕のポケットの中の何かに気付き、繋いでいた手をほどいた。
そしてその何かを手に取ると、悪戯をする子どものように、小さく笑った。
僕の家の鍵だった。
そして今度は自分のポケットから小さな鍵を出すと、僕のポケットに入れてまた手を繋いだ。
『鍵をなくしちゃったんだけど、君は鍵持ってるかな?』
彼女は少し耳を赤くして僕に尋ねる。
僕は彼女の言葉の意図を汲めないまま、ポケットで彼女の鍵の感触を確かめながら、少し考えて答える。
「えっと、僕も鍵を無くしちゃったみたい。」
彼女は僕の答えを聞いて、頬を赤くする。
そして、今度は小さく僕に呟く。
『お互い鍵を無くしちゃったみたいだね。』
『もう少し一緒にいよう。』
僕は彼女の言葉を聞くと、少しだけ暖かくなったポケットの中で、また彼女の手を強く握った。