言えない言葉。

忙しすぎる日々に、退屈を覚える。
何気なく彼女と、お茶をする時間でさえ、こんなにも愛しく思えるのだから。

「自由になりたい。」

僕は汗をかいた紅茶のグラスを置いて呟く。

「自由だから、不自由になれるんじゃない?」

彼女は、フォークですくった生クリームを舐めながら、僕に言う。
その通りだ。
彼女はいつも、物事の本質を見抜いている。
そして、このお茶をしている時間を、愛しく感じているのは、僕だけではなかったと考えなおす。

「自由がないから、自由を欲しがるの。きっと自由なら、不自由を欲しがるはずよ?仕事がなかったなら、仕事を探すでしょ?」

彼女の言葉には説得力がある。
逆に言えば、僕は何も考えずに会話をしているのかもしれない。
僕は、独り言のつもりで放った言葉が無責任だったことを後悔する。

「忙しいから、紅茶が美味しく感じる。会えないから、会いたいって思うのかな?」

僕の問いに、彼女は答える。

「そうね。でも、少し違うわ。会えないからじゃなくて、好きだからじゃない?」

彼女のフォークには、真っ赤なイチゴが刺さっている。
僕の心にも何かが刺さったような違和感を感じる。
僕はその「何か」を、言葉にしようとしたが、止めることを選び、少しだけ笑って、唇を噛んだ。
彼女は、真っ赤なイチゴに唇をよせると、舌を出してイチゴを舐める。
カランというグラスの氷が溶ける音が、店内に小さく静かに響いた。

いいなと思ったら応援しよう!