背中合わせ。
「希望はとても臆病で、絶望を超えてこっちに来てくれない。」
彼女はそう言って、タバコに火をつけた。
煙は点滅している蛍光灯に照らされて、渦を巻いた。
「簡単な話、絶望の先にしか、希望は存在していないの。つまり、希望を手に入れるには、絶望を超える勇気が必要なわけ。」
彼女はこうも言う。
「絶望と希望ってのは、背中あわせになっていて、絶望を超えれば、後は希望しかないの。もっと言えば、絶望を超える必要もないわ。絶望を自分のものにしてしまえば、残りは希望しかないの。」
「ただ、絶望にも、希望にも終わりはくるんだよ。希望の背中には絶望があるんだから、希望を手にした時点で、絶望の入り口が見えてきてるのかもしれないね。」
僕には、彼女の言葉は難しいというよりも、落ち着いて考えなければ整理することができない。
だから僕は、彼女の話を聞いているときは、曖昧な返事しかできないでいる。
そして、曖昧な返事が、彼女を時にイライラさせてしまう。
「死ぬ時は、君と一緒に居たいと思う。でも、今は死にたくない。」
「そういうことよ?」
「希望ってのは、自分で決めることじゃなくて、結局は自分一人ではどうにもならないってこと。だから、一緒に居たいってこと。」
彼女はそういうと、吸っていたタバコの火を揉み消した。
僕は、心の中に残された彼女の気持ちと、渦を巻いている煙が消えるのを、ただ呆然と眺めていた。