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【NPO書評】非常識なやさしさをまとう―人とともにデザインし、障がいを超える―

また素晴らしい社会起業家の本に出会ってしまいました。
数々の世界のデザインアワードを受賞したファッションブランドSOLITを創業した田中美咲さんの本です。
田中さんとは、東日本大震災の復興支援関係でお会いしてから、何度かイベント等でご一緒しました。特に、防災ガールを立ち上げ、活動していた時に、CANPANとしてイベントのお手伝いをさせていただいたこともありました。
ということで10年前からの知り合いで、Facebookの投稿でその後の活動もチェックしていた田中さんが書籍を出版されるということで、楽しみにしていた本です。

田中さんが立ち上げたファッションブランドSOLITは、医療従事者・課題当事者とともに、1600以上のパターンから選べる障がいやルッキズム、セクシュアリティなど多様性に対応した服を開発しています。多様性に対応したファッションブランドからD&Iやサステナビリティ、インクルーシブデザインなどの取り組みへと発展してしていきます。

そんな社会起業家である田中さんの半生が詰まった本です。
田中さんの人生を追体験できるような、切実な内容です。
挫折や困難、苦労なども、文字通り、赤裸々に語っているので、読んでいると胸が苦しくなるくらいです。

非常識なやさしさをまとう―人とともにデザインし、障がいを超える―
2024/7/10
田中美咲 (著)

前半は、田中さんの子どもの頃の体験から学生時代、ベンチャー企業への就職、そして復興支援の活動へとソーシャル活動に足を踏み入れた軌跡が語られています。
防災関係の事業で一躍有名になった「防災ガール」の創業から解散までの道のりは、ソーシャル分野の組織運営のケーススタディとして、とても参考になる内容です。
読んでいて、すごく心痛くなる部分がありますが、とても貴重な組織運営の実践が盛り込まれています。

後半はファッションブランドSOLITの創業から今現在の取り組みについて書かれています。
一人の社会起業家が今までの取り組みから別の社会課題に辿り着き、新しい事業を作り上げていった足跡がとても丁寧に語られています。こちらもケーススタディとして高菜さんの経験を追体験できるように詳しく描かれているので、多くの若者に参考になる内容です。
とても解像度の高い内容なので、ノンフィクションの物語としても読み応えがありました。

そして、ファッションブランドSOLITの取り組みから、田中さんやSOLITが大事にしている多様性やD&I、サステナビリティについて、大事な考え方も学ぶことができます。
単に流行としての多様性やD&Iではなく、それを事業の中で実現していくのか、あるいはそれを実現するための事業をどう考えていくのかということのヒントがたくさん詰まっています。そして、ミッション・ビジョンを軸とした、組織づくり、事業づくりの実践の書とも言えます。

ということで、本書では、次の3つの視点で学び多き本でした。
・田中さんという社会起業家の歩み
・NPO、あるいはソーシャルスタートアップの実践の工夫とノウハウ
・今、企業でも必要とされる多様性やD&Iの概念の学び

そして、ノンフィクションの本として読んでも、非常に面白い本でした。
田中さんの思いや熱情、そしてやさしさを十二分に感じることができます。
ソーシャル分野の取り組みに興味関心がある若者や、刺激を受けたいNPO関係者、社会起業家として模索されている方などに、ぜひ読んでいただきたい本です。
田中さんと面識がある方は、ぜひ田中さんのこれまでの歩みをあらためてキャッチアップするためにもぜひお勧めします。今まで知らなかった田中さんに会うことができます。
そして、田中さんのことを知らない方は、初めて田中さんに出会うことができる、本当に貴重な機会だと思います(このタイミングで、「0」から田中さんのことを知ることができるなんて、ある意味、うらやましいです)。

最後に、田中さん、素晴らしい書籍の出版、あらためておめでとうございます。

あと、本書の印税は、田中さんの独断と偏見で、今解決すべきだと考える社会課題の現場あるいはそれに挑戦するソーシャルセクターやアーティストに寄付されるとのことです。
寄付本!も素晴らしい。


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