就労弱者を知っているか? Vol.1
「就労弱者」という存在
「就労弱者」という言葉は、現在どの辞書にも載っていません。
私の造語です。
当然ですが、クライアントには、そんな呼び方はしません。
ではなぜ、そういう表現をするのかというと、理解と助けを必要としている人の存在を、出来るだけ多くの方に端的に伝える手段として考えました。
最初は「労働弱者」という言葉を思いつきましたが、これでは今現在仕事をしている人というイメージが強いと思い、「就労弱者」に変更しました。
「就労」とは、仕事をしていることに加え、就職活動をしているという意味も含んでいるからです。
そして「弱者」という言葉は、立場や立ち位置を意味しています。
つまり「就労において弱い立場にいる人」という意味になります。
だからこそ他者の理解と助けを必要としているという、私の伝えたい内容にマッチすると思いました。
ちなみに、「社会的弱者」という、似たような言葉があります。
この言葉は、確かに私が伝えたいことに重なる部分は多いのですが、“就労に苦悩する若者”にスポットを当てたい私の意図からすると、この言葉が示す人たちの範囲が広すぎる感じがして、本題にはあまり適さない言葉だと思いました。
「就労弱者」は、どちらかというと、どの職場にもいる「困った人」というイメージの方が近いと思っています。
しかし「困った人」の中には、意図的に他者を困らせてやろうという輩も含まれるので、その点でもやはり適さない感じがしたので、あえて「就労弱者」という言葉を、以下のように意味付けして表現することにしました。
「就労弱者」とは、発達障害の特性が認められる、または精神疾患が疑われることから、仕事の遂行に困難さを抱えているにも関わらず、一度も専門医の診察を受けた経験がなく一般就労をしている、またはそれを目指して就職活動をしている、主に若者を指す言葉です。
さらに、その困難さは、自身の努力や心掛けでは克服できないため、意図せず周囲の人を困らせる特異行動を繰り返してしまう特徴を持つことから、就活の現場や職場で弱い立場に置かれやすい存在です。
私が特に強調したいのは、後半の部分です。
そこが単に「困った人」というイメージとは似て非なりと言いたい部分なのです。
そして、意図せず周囲を困らせる行動を、特性があり他者と異なる行動という意味付けで、文字通り、「特異行動」という言葉で表現することとしました。
つまり、意識的にではなく、そうなってしまうという意味ですが、この「特異行動」については後で詳しく述べます。
では、「就労弱者」とは、どういう存在なのか。
下の図「就労弱者の位置づけ」を基に、詳しく述べたいと思います。
まず、求職者における就労弱者は、この図のように健常者と障害者の間に位置し、かつ「グレーゾーン」と呼ばれるカテゴリーの一部に存在する若者としています。
そして、グレーゾーンと就労弱者の区別については、発達障害を扱う専門の医師による診察経験が有るか否か、または、うつ病や社交不安症等、精神科の受診経験が有るか否かで区別しています。
(「グレーゾーン」という表現については後に詳しく述べます)
就労弱者の共通点の一つに、就学中から既に自分が周囲の人とは何か違うという違和感を持っていたという点が挙げられます。
例えば、興味の極端な偏り、場を読まない不適切な発言、授業中に立ち歩くなど、発達障害の傾向と思われる特異行動が見られるケースも決して少なくはありません。
さらに、それらの特異行動が原因で皆の前で周囲から白い目で見られたり、恥ずかしい思いをしたりして、クラスでも「変なヤツ」というレッテルを貼られ、やがて人と接することが恐怖となって、不登校やひきこもりに発展したという事例もあります。
そういう経験のある若者は、何らかの精神疾患を患っている可能性も高いと言われています。
しかし、そういう経験があり、かつ教師や保健師からの指摘があっても、一度も専門医の診察を受けていないのです。その点も就労弱者の共通点と言えます。
その背景には、家庭環境が深く影響しており、特に保護者が医師の診断を拒絶してきたという経緯が伺えます。
さらに、診察を拒む理由として、我が子が障害であることを受け入れられないという気持ちがある一方で、経済的に余裕のない家庭が多いことも、その要因の一つだと私は考えています。
中には、親子関係がとても複雑で、たとえ一緒に暮らしていても、心の距離はほとんど絶縁状態にある当事者もいて、そういう場合は親が診察を勧めても、当事者が拒否する場合もあります。
一方では、親子関係が良好な就労弱者もいますが、そういう場合は当事者が親に気を遣うあまり、自分が困っていることを、先生や親にひた隠しにして来た経験を持っています。
さらに、そういう経験のある人の中には、学校の成績が良い、クラスの人気者だったという就労弱者もいますが、そういう場合は学校生活においては、何ら不自由さは感じなかったというケースです。
このように、就労弱者にも様々な背景がありますが、総じて言えることは、経済的な理由で診察に行けない状況にある就労弱者にとっては、今後より一層困、働き辛さを付加する結果を招くことも、認識してほしいと思います。
そして、就労弱者の就職活動についてですが、学生の場合、ほとんどは皆と同じように学校の進路指導室やキャリア支援課を利用することになります。
また、それ以外に一般の学生が誰でも登録する○○ナビといった民間職業紹介事業者が運営するWEBサイトに登録したり、新卒応援ハローワークなどの公的機関を利用したりします。
その時点で、まず多くの就労弱者は就職活動が上手くゆかないという状況に陥ります。
つまり、本当に必要と思われる専門的な機関による就労支援を受ける機会を得ないまま就職活動に入ることになるからです。
そして、その困難さを実感し、初めて原因を明らかにしたいと思い専門病院に行きたいと家族に打ち明けても、先ほどの事例のような経済的な理由や親の価値観から反対されるケースも多く、結果的に就活は休止状態になり、とりあえずアルバイトやパートに落ち着く、あるいは引きこもってしまうという新卒者は、想像以上に多くいます。
それでも何とか頑張って採用される就労弱者もいますが、そういう人の場合は、入社後に職場で仕事を覚える段階で困難さがあるがゆえに続かないという事態に遭遇し、早期離職者になることが多いのです。
次に、図の中段に位置する公的就労支援機関ですが、現時点では、障害者を対象とした障害者就労支援機関、病気や怪我などで休職している人を主な対象者とする復職支援機関(リワークセンター等)、そして、ハローワークの管轄である職業訓練事業を行う公的機関の3つに大別されています。
しかし、公的な機関を利用するには、それぞれの要件に該当しなければいけません。
その要件の一番の決め手となるのが、「障害者手帳(療育手帳)」、そして「診断書(一部は医師の意見書でも可)」です。
そのためには、先ずは専門医で診察を受ける必要があるのですが、未だ一度も診察を受けていない就労弱者にとっては、やはり金銭的問題や家族の同意が得られないことが大きな壁となっているのが現実です。
そして、その壁をさらに大きくしている要因の一つには、「卒業したら就職するものだ」という旧態依然とした価値観があります。
つまり当事者自身にも病院に通うような時間は無いと思ってしまう環境要因のことです。
そんな理由で壁を越えられない若者にとっての“不都合な真実”になっているのが、「制度の狭間」という社会問題なのです。
これから数回に分けて、希望に満ちた若者を就労弱者にし得る「制度の狭間」という世間では未だ知られていない社会問題を、私なりの視点で発信してゆきます。
私は、一人の就労支援者として、この問題に向き合い、どう解決すべきかを一緒に考え行動してくれる同志を求めています。
少しでも興味がある方、またはご意見や反論がある方、ぜひ下記のアドレスまでフィードバックをお寄せください。
youthworkers.f@gmail.com
次回は、その「制度の狭間」について述べます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?