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「作品の価格はどうやって決めたら良いのですか?」

こんにちは漆芸作家の浅井康宏です。
今日は僕なりの作品価格の決め方について書きます。
先日もフランスから来たインターン生の最終日に色々質問を受けた中で聞かれました。これは世界共通の若い作家の悩みだと思うので書きます。

僕も20代はとにかく作品の価格を決めるのが難しくて「何か基準はないのか?」と考えたり、人に聞いたりしましたが、はっきりとした答えが出ませんでした。

今、僕が考えている作品価格の決め方と、作品価格が上がってゆくというのはどういうことなのかをシェアしたいと思います。


1,よくある間違い

「材料費」と「人件費」と「固定費」の足し算で作品価格を考えてしまう

若い時に考えていたのが、「作品価格って、材料費と人件費と少しの固定費を足した額だよね」という計算です。一見正しいように思えるし、材料費と人件費(自分の作業料)と固定費(家賃とか光熱費とか)を得られることができれば生活+制作が継続して行けます。

ただし、この計算で作品価格を考えてゆくと以下の価格になります。
漆の作品で考えると

○漆のお椀の材料費と外注費を仮に10,000円とします。

○人件費を時給1,000円として10時間働いた場合10,000円とします。

○固定費を仮に家賃50,000円、その他光熱費スマホや年金など50,000円合わせて100,000円を月の制作数10個で割って1つ10,000円とします。

こう考えてゆくと1作品30000円となります。
この考え方で値段を考えて一月に作った作品が全て売れたら生活することができます。

大変真っ当な計算方法だし、再現性があるように見えますが、美術の仕組みを理解して制作を続けていこうとすると、難しい問題がいくつか出てきます。
1、時給ベースで考えているので作品価格が上がりにくい。
2、作品の売れ行きは計算できないため、仮に前月から販売数が半減したらたちまち困ったことになる。
3、上記の計算に画廊やデパートの取り分が加わるので、高くて売れにくい。

以上の問題点が出てきて、自転車操業を余儀なくされます。一つ一つ見ていくと
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1、時給を毎年上げてゆく場合、作品のクオリティやサイズに関係なく作品価格が上がってゆくので、割高になってしまうと売れなくなる。(例えば、毎年100円ずつ時給を上げた場合、20年後に時給3000円になります。同じ作品が他の費用を上げずに考えた場合の作品価格は50,000円になります。制作スピードが上がっていると思うので、それを加味して価格は40,000円プラス手数料となります)

2、売れ行きが計算できないのは、どのステージにおいても同じことなのですが、安い作品をたくさん売るのと、高い作品をたくさん売るのでは別の難しさがあって、ステージの移行が難しいように思えます。

3、作家が欲しい手取りに手数料が上乗せされた場合、購入者に届く価格は当然上がるわけで、20年前と同じものの値段だけが上がっていた場合、それを購入するのは難しいです。
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以上、簡単に書いたので、疑問点もたくさんあると思います。この考え方で継続的に作品発表をしている方もいるかもしれませんが、キャリアを20年30年と重ねるほど、制作と販売の難易度が上がってゆくように思います。

僕が考える作品価格の考え方は


2,作品価格は「人」「作品」「場所」の掛け算で考える

この考え方を一本のペンを例に考えてゆきます。
前提として
人=僕
作品=ペン
場所=販売店です

まず、僕が100円のペンを作ったとします。
それを100円ショップで売る場合、販売価格は100円です。
作品価格の考え方は掛け算なので、それぞれに価値のポイントをつけてゆきます。
僕(1ポイント)×ペン(100ポイント)×ショップ(1ポイント)=100
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まず僕が行うことは作品の価値を高めることです。
作品のレベルを上げて普通のペンから、頑張って、漆塗りのペンを作り価値を200にすることができたとします。ショップのレベルもおしゃれなショップにします。
僕(1ポイント)×漆ペン(200ポイント)×おしゃれなショップ(2ポイント)=400
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おしゃれなショップに出品することができたので僕のキャリアが少し上がって2になりました。
作品レベルも上がって、蒔絵の万年筆を作ることができるようになりました。売り場も東京のデパートでの販売が決まりました。
僕(2ポイント)×蒔絵万年筆(300ポイント)×東京のデパート(3ポイント)=1800

このように時給と関係なく作りたい物のクオリティを価格に反映させられるように考えています。
簡単な計算式のようですが、美術を含め価値の基準とはこのように決まっているように感じます。
例えば、ピカソが数秒で描いた絵は高価ですが、ピカソが持つポイントは極めて高いのでそこに価値を見出す人は多く、ただの丸を描いた紙でも高価で取引されるでしょう。
その丸の絵がニューヨークのオークションに出品された場合と、路上で売られている場合ではおそらく、取引される価格も変わってくるはずです。これは場所のポイントが関わってくるからです。

3,理想的に思えるけど難易度は高い

この考え方は構造上正しいと思っているのですが、難易度が高いです。
掛け算だから、三つの要素のうちどれか一つがゼロだったら成り立ちません。
僕が20代に苦労していたのもこのせいです。
価値の高い作品を作っていても、自分のキャリアが低いうちは時給換算すると200から300円くらいで制作しなければなりませんでした。
一般的な時給で作品を作っていたら初期作品の大作で400万円くらいになっていたでしょうから売れません。

若い作家さんはとにかく、作品価値の向上に努めてゆくのが良いように思います。他者評価や付き合うギャラリーや百貨店は自分でどうにかできる部分が限られていますが、作品のクオリティを上げることは自分の努力でできることです。
クオリティの高い作品を作っていれば、多くの人が応援してくれたり、付き合うギャラリーのレベルが上がっていきます。

以上、最初は苦労しますが、僕なりの考え方です。若い作家さんのちょっとした参考になれば嬉しいです。

4,掛け算は終わらない

生きて、作ってゆく限り、この価値の掛け算は終わりません。
自分を成長させること、作品の価値を高めることというのは
レベルが上がるほど、難易度も上がります。
作品価格が高くなったから、生活が楽になったのかというとそうではなく、
年間で数千万円の制作費をかけて、作品のレベルを上げようとしています。

自分のキャリアが上がってきたからその場に停滞すれば、
少しはお金を手に入れることができるかもしれないけど、そんな余裕があるなら、見たこともないような光景と作品を作りたいのが現状です。そんな性分にトホホです。



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