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Tokyo New Underground 2022 / betcover!! 危機@6/2/2022

betcover!!の恵比須リキッドルームでの「危機」と題されたワンマンライブを観てきました。凄かった。どう凄かったかを書いていこうと思います。

なお、最初にbetcover!!の簡単なバイオについて。1999年生まれのSSWのヤナセジロウのソロプロジェクトであり、2019年には一度avexからメジャーデビューして2枚のアルバムをリリース。昨年、レーベルを離れてインディペンデントでDIYでやり始めて3rdアルバム「時間」をリリース。アンダーグランドに潜って活動していますが一時期はメジャーにもいたことがあるんですね。avexけっこう尖ったアーティスト入れますね。大森靖子もavexだし。ただ、彼の場合はavexは合わなかったのでしょう。パラダイスガレージ(豊田道倫)とツーマンライブをしたこともあるようで、もともとアコギの人なのかな。

「時間」は2021年のベストアルバムで各所で選ばれるなどおおむね音楽ファンからは好評だった作品。僕も高評価でした。ただ、その時正直「ちょっと良く分からないな」と思ったのも事実。よくわからない、というのは「オリジナリティを感じる」ということでもあり誉め言葉なんですが、自分の中でどうも違和感というか引っ掛かりがあった。「いいアルバムだと思うけれど、どう受け止めていいか分からない」感じがしたんですよね。

で、それを理解するために「何度もアルバムを聴きこむ」という方法もあるんですが、僕は「ライブで観てみれば分かるんじゃないか」と思って観てきました。幸い、観れる環境にいたので。今回は見られてラッキー。

結論から言うと、やっぱりオリジナリティが高いというかすごくセンスがあるし、新しい東京の音。名づけるなら「2022年のトーキョーニューアンダーグラウンド」みたいな音だなぁ、という印象。ジャックスから始まり、80年代の東京アングラシーン、90年代のバンドブームと渋谷系、中村一義みたいな宅禄系。2010年代のCeroとかのジャムバンドとかサイケっぽい感じというのかな、も通過した感じがする「東京のアンダーグラウンドシーンの正統な系譜を発展させた音」に感じた。どういうことか、いくつか「こういうことか」と思うところもあったのでメモしておきます。

今回「危機」というタイトルから最初に連想したのはプログレバンド「YES」のアルバムタイトル。実はインタビュー記事とかあんまり読んでいないのでどういう背景か知らないんですよね。ただ、アルバムの印象からはそんなに(いわゆる70年代的な)プログレの匂いはしなかったので偶然かと思っていました。

ライブ本編は18時開演。開演時間ちょうどにスタート。無機質なノイズが繰り広げられるSEが冒頭で流れます。あれ? これ本当に「危機」を意識してるのかもな。あのアルバムも最初、乱雑なSEからスタートしますからね。ただ、今回のライブはこのノイズが長かった。計っていたら7~8分ぐらいノイズが続きました。けっこう実験的。こういうのができるのは「ライブならでは」ですね。その場にいるから集中できるけれど、なかなか映像とかでは伝わらない、集中力は持続しづらいかも。これは「やりたい放題やる気だな」という期待が持てるスタート。

で、YESの「危機」のようにそこからいきなり曲が始まるわけではなく、そのSEが止まってメンバーが壇上に登場。特に煽るわけでもなくいきなりメンバー紹介をします。開演前に場内アナウンスで「本公演はアンコールがありません」というアナウンスもあったし、最初にメンバー紹介するし、これはMCほぼなしでライブをやるのかなと(実際そうでした)。メンバー紹介が終わり曲がスタート。

いきなりヤナセジロウがサックスを持ち出して、サックスの口に一つマイクを放り込んで吹きまくったんですよね。カッコいいなと。で、音楽的にはジャズロックというかかなりプログレ色が強い。YESというよりは(フランスの)マグマとかイタリアンプログレのオザンナとか、ああいう「音の塊」系のプログレ。冒頭数曲はかなりプログレ色が強いし、けっこうギターの音はハードなんですよね。キングクリムゾンみたいな塊感。おお、こういうバンドなのか、と。こんなに激しいと思わなかった。ヘヴィプログレです。アネクドテンとかも連想するぐらい。

ふと考えると、日本で習い事としてクラシック、ジャズから入った人を除くとだいたいロック、ポップスから音楽を聴き始め、だんだん掘っていくとプログレとメタルに行き着く気がします。特に楽器やり始めると。好きになるかはともかく聞きはする。プログレの影響を感じさせるアーティスト多いですよね。人それぞれ、そうやって掘っていくうちに自分の原型を見つけるのでしょう。

そのパートがしばらく続き「ああ、予想以上にプログレバンドなのか」と思い始めた頃、風景が変わっていきます。ちょっとCeroとかに通じる2010年代以降のJ-ROCKというか、J-POPと違い、ボーカルも楽器として溶け込んでいる歌モノ、というか。ただよく聞くと歌メロは抒情性があるし日本的なキャッチーさもある曲が出てくる。歌メロの展開は渋谷系とかサニーデイサービスとか、なんだろう、日本的なメロディ展開。シティポップからも影響を感じます。洋楽、英語が前提のUK、USの音楽とは違う、日本語ならではのメロディ展開というか。そのあたりでプログレ感が薄まる。

途中、完全な弾き語りパートに。時間にすると3曲だったので15分ぐらいでしょうか。ここもかなり「ライブならでは」の攻めた構成。正直、それほどギターが上手いわけじゃないんですよね。ちょっとたどたどしいというか、だけれどそれが凄く緊迫感があって、音量も控えめだから観客にも緊張を強いる時間帯。バンドサウンドは予想以上の轟音系だったのでこの緩急のつけ方はものすごく極端で演劇的。七尾旅人の演劇的な舞台にも通じる緊張感がありました。

その後、バンドが戻ってきて再びヘヴィプログレやシューゲイズ、ポストパンク的な音像が出てきます。後半はプログレというよりバンドサウンド自体は80年代のUKサウンド感が強かった。だんだんとテンションが上がっていき、なんだかポゴダンスを踊るような高速ポストパンクナンバーの後ヘヴィなサイケ曲を経て開放感のある合唱パートがあるポップな曲でライブ終了。

時計を見たら1時間40分、ほぼMCなしで立て続けに演奏し続けたのでめちゃくちゃ緊迫感のあるライブでした。正直粗削りな部分もあったけれどこんなに真剣勝負なライブは久しぶり。

80年代の筋肉少女帯

あと、連想したのは80年代の筋肉少女帯ですね。橘高が入る前、三柴江戸蔵がいて、ピアノでプログレパンクをやっていた頃。ボーカルスタイルはだいぶ違いますが、あの「異質感」に似たものを感じました。意外とキーボードのメンバーが熱唱していたせいもあるかも。静かなアコギ曲では遠藤賢司の静かな曲との連続性も感じたり。なんというかそういう「アンダーグラウンドな音楽家」たちとの連続性を強く感じたライブ(筋少はそのあとバンドブームに乗って成功しますが)。もし、アンダーグラウンドでスリリングなライブを好むなら、とにかく観てほしい。多分、この煌めきはとても貴重で瞬間的なものだから。

映像でどこまで伝わるのか分からないのと、今再生しているんですが冒頭、ライブが始まるまでひたすらリキッドルームに(おそらく本人が)向かう映像が入っているという謎の映像(全体的にアルバムジャケットとかビジュアル含め、妙に謎なセンス)が1時間近く入っているのでライブ本編まで時間がかかりますが、今日のライブが期間限定で上がっているのでぜひ見てみてください。

あ、後、全員スーツを着ていたんですよね、バンドメンバーが。本人はハットをかぶって登場。エルヴィスコステロとかスペシャルズとかを意識しているのか、あるいはジャズなのか。全体的にとにかく尖った感覚を感じて次が楽しみなアーティスト。今、観ることが可能な人はライブを観ておいた方がいいです。あまりに矢継ぎ早に曲が続くし緊迫感があるので(多分、本人達も緊張している)、観客がどこで拍手すればいいのか分からず、曲間が少し開いても無音だったのも印象的。圧倒されていたんですよ。途中から拍手も起き始めて、それで更にステージにも熱が入るという循環になりましたが。

最後に、僕なりに「ニューアンダーグラウンド」で近い空気感を持っていると感じるアルバム4枚を人力レコメンド。このあたりのバンドは新しいムーブメントかも。

この4枚に近い空気感を持ったアーティスト、アルバムがあればコメント欄で教えてください。

町田康(町蔵)との対談がありました。

ヤナセ:僕は、子どもの頃から両親の影響でEarth, Wind & FireやThe Nolansのような音楽を聴いていて。小学生の頃にはB・J・トーマスやギルバート・オサリバンが好きだったし、音楽性的には、そういったポップスからの影響が強いんです。ただ、そういう音楽のなかに、フォークやパンクのようなものを内包したい……それはジャンルとしてということではなく、精神性の部分で内包したいっていう気持ちがあるんです。

それでは良いミュージックライフを。


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