Amorphis / HALO Japan Tour 2023@渋谷クラブクアトロ 2023.9.13
9/13、14と2日連続で行われるAmorphisの来日公演、初日を観てきました。Amorphisは90年代前半から活動する北欧メロデスのベテランで、北欧メロデスはスウェーデンが震源地(イェテボリ周辺)でしたが同時期にフィンランドから現れたバンド。フィンランドからはAmorphisとSentencedが出ましたね(少し遅れてChildren Of Bodomも)。Amorphisは特に個性的で、強烈な泣きメロとミドルテンポ主体のじっくりした酩酊感のある曲調、そしてアラビックな音階を大胆に導入した「Tales From the Thousand Lakes(1994)」で一躍注目を浴びるようになります。Amorpshisの歴史についてはこちらの記事をどうぞ。
昔から好きでしたがなかなか観る機会がなく今回Amorphisは初ライブ体験。楽しみです。
けっこう早い番号だったので前から4列目ぐらいに陣取り。ソールドアウトではなかったようですがかなり埋まっていたように思います。
ライブがスタート。演奏がめちゃくちゃ安定しています。Opethを連想。
今回のライブを観て感じたこと。
・意外とプログレ色が強い。というか変拍子が多い。手拍子がところどころで起きるのだけれどことごとくずれていったのが印象的。拍が取りずらいんですよ。一聴するとそれほど複雑に感じないのに実際に参加しようとするとかなり複雑、4小節でなく5小節でループする、みたいなフックがけっこうある。
・ボーカルとリードギター(エサ・ホロパイネン)がずっとメロディを奏でている。ギターソロはそれほど弾きまくる感じはなく、ずっと一定の速度というか、歌うようなメロディアスなフレーズを弾いている。「曲の空気を変えるようなソロ」はむしろキーボードソロが担っている。
・ホロパイネンのギターはミニマルなフレーズを反復するところが多く、そういうところではクラウトロック(マニュアル・ゴッチングとか)を想起する。ディレイをかけて反復するところもそう。アラブ音階の導入とかクラウトロックの接近とか、プログレ好きなんだろうなぁ。ロックの中のムーブメントとしての60年代アートロック~70年代プログレッシブロック。従来のロック音楽になかったものを取り入れ、ロックの領域を拡張していく試み。
・コード展開がかなり多い、フィンランドポップスのメロディ展開だなぁ、と思ったり。この記事では深く触れませんがフィンランド音楽らしさってあるんですよ。メロディ展開の独特な感じ。ギターフレーズより歌メロ(クリーントーンの部分)に感じる。In Flamesとかのスウェーデン勢とは違うメロディセンス。
・各人の役割がかなり明確に分かれている。6人の大所帯(専任ボーカル、リードギター、リズムギター、ベース、キーボード、ドラム)でそれぞれのパートが明確な存在感がある。あまり一つ一つの楽器隊は(たとえばドリームシアターのように)目立って技巧的なシーンは少ないが、それぞれが実にタイトかつ美味しいプレイをしている。ギターサウンドもリードギターはずっとスムーズなウーマントーンで、スタイルは違うがアイアンメイデンを思い出した。有機的に絡み合うバンドサウンド。
・けっこうリードギターとボーカルはパターン化されていて、リズム隊(リズムギター、ベース、ドラム)が表情をつけている印象を受けた。もちろん、メロディはそれぞれ異なるのだが基本的に同じ世界観。リズム隊の練り込み、変拍子などの作り込みが素晴らしい。
・キーボードがかなり前面に出ている。考えてみれば今のメインソングライターはリードギターとキーボードなのでこの二人とボーカルが「メロディ担当」なのだろう。
・暴れる感じというより酩酊する感じ。ずっとパワーがあるミドルテンポなのでスローなストーナーとは違うが、トランスする感覚があった。速弾きもほとんどなく、基本的にずっとメロディアス、歌心がある。速いのはドラムのブラストビートが時々入るぐらい。ただ、前述の通り6名がそれぞれ明確な役割をもって編曲されているのでそれぞれの楽器隊が絡み合うことで退屈さはない。むしろミドルテンポで各楽器の演奏は(テクニカルなメタルとしては)ゆったりとすらしているのだけれど、曲展開が早くどんどん場面が変わっていくし、各シーンもそれぞれの楽器のアンサンブルの情報量が多い。「超絶技巧がないのに全体としてめちゃくちゃテクニカル」という不思議さ。これはOpethにも感じたこと。
あたりです。
今回の来日メンバーは
トミ・ヨーツセン (Tomi Joutsen) - ボーカル/アコースティック・ギター (2005- )
エサ・ホロパイネン (Esa Holopainen) - リードギター (1990- )
トミ・コイヴサーリ (Tomi Koivusaari) - リズムギター (1990- )、ボーカル (1990-1998)
オッリ=ペッカ・ライネ (Olli-Pekka Laine) - ベース (1990-2000, 2017- )
ヤン・レックベルガー (Jan Rechberger) - ドラムス (1990-1996, 2002- )
サンテリ・カッリオ (Santeri Kallio) - キーボード (1998- )
の6名。実に6名中4名が創設メンバーなんですよね。リードギターのホロパイネンとリズムギターのコイヴサーリはずっと在籍しているメンバーで不動。ドラムのレックベルガーとベースのライネは一度脱退した後で戻ってきたメンバー。残るキーボードも1998年から変わっておらず、楽器隊の付き合いが古いのでアンサンブルもタイトなのでしょう。「雇われメンバー」とか「(存在感が)弱いパート」がない。ボーカルも2005年からでもう20年近いしフロントマンとして前面に出ています。クリエイティブ面では全員参加型の理想的な「バンド」と言えるでしょう。
近作ではキーボードのカッリオとリードギターのホロパイネンがメインソングライター。ホロパイネンが一番曲数は多いのですが、カッリオはけっこう先行MVを作られるようなキラーソングを作っています。昔は共作することも多かったですが2006年の「Eclipse」以降は各自が単独曲を作るようになりました。ソングライターとして成長したのでしょう。
かつてはホロパイネンと(ベースの)ライネがメインソングライターだったんですよね。名盤「Tales From the Thousand Lakes(1994)」はライネとホロパイネンの共作が5曲あったし、その次の名盤とされる「Elegy(1996)」はライネ参加曲が6曲、うち3曲は単独曲です。ライネも才能ある作曲家だと思うのですが、2000年に脱退し、2017年に戻ってきてからは楽曲提供はなし。たぶん、ライネの抜けた穴をカッリオが作曲能力を高めることで埋めたのでしょう。ライネ脱退前後の「Tuonela(1999)」「Am Universum(2011)」「Far From The Sun(2003)」の3作は作曲クレジットが「Amorphis(バンド全員)」なんですよね。それまでは作曲者が共作であっても明記されていたのに。これはライネが埋めた穴をバンドが一丸となって埋めようとしたのだと思います。結果、カッリオの作曲能力が開花し、「Eclipse(2006)」以降はホロパイネンとカッリオの2大ソングライター体制に。
あと、1stアルバムだけはリズムギターのコイヴサーリがホロパイネンと2大ソングライターとして曲を作っていますがその後はあまり楽曲は作らず。ときどきアルバムに1~2曲提供する、ぐらいにとどまっています。だからといって存在感がないかというと実際ライブを観るとコイヴサーリのリズムギターがめちゃくちゃ安定しているんですよね。ホロパイネンはほぼずっとメロディを弾いているのでまさに「リード」「リズム」でギタリストが明確に役割が別れている。筋肉少女帯の橘高(リードギター)本城(リズムギター)みたいな、タイプが違う二人。この二人のギタリストの絡みは芸術的でした。
今回のセットリストの曲目の収録アルバム、作曲者を見てみましょう。
1.Northwards (Halo / Esa Holopainen)
2.Bad Blood (Under the Red Cloud / Santeri Kallio)
3.The Four Wise Ones (Under the Red Cloud / Esa Holopainen)
4.The Moon (Halo / Santeri Kallio)
(SE) Thousand Lakes (Tales from the Thousand Lakes / Kasper Mårtenson)
5.Into Hiding (Tales from the Thousand Lakes / E. Holopainen, O.P. Laine)
6.Black Winter Day (Tales from the Thousand Lakes / Kasper Mårtenson)
7.Silver Bride (Skyforger / Esa Holopainen)
8.Sky Is Mine (Skyforger / Santeri Kallio)
9.Wrong Direction (Queen Of Time / Esa Holopainen)
10.Heart of the Giant (Queen Of Time / Santeri Kallio)
11.Seven Roads Come Together (Halo / Esa Holopainen)
12.On the Dark Waters (Halo / Esa Holopainen)
13.My Kantele (Elegy / Esa Holopainen)
14.House of Sleep (Eclipse / Esa Holopainen)
Encore:
15.The Bee (Queen Of Time / Santeri Kallio)
(SE) My Name Is Night (Halo / Tomi Koivusaari)
アルバム別演奏曲(SE含まず)
Halo(2022) 4曲
Queen of Time(2018) 3曲
Under the Red Cloud(2015) 2曲
Skyforger(2009) 2曲
Eclipse(2006) 1曲
Elegy(1996) 1曲
Tales from the Thousand Lakes(1994) 2曲
ここ3作からの曲が多いですね。ここ3作から合計9曲。あとは2009年のスカイフォージャーからの曲が2曲選ばれている。このアルバムは重要作なのでしょう。ただ、こうして見るとどんどん新作を出すたびに進化している、「最近の曲がライブでも求められる」という現在進行形のバンドであることが分かります。ほとんど最近のアルバムからの曲ですからね。過去の曲で「やるべき曲」があるのはエレジーとサウザンドレイクスか。この2枚は「90年代北欧メロデス史に残る名盤」なので妥当なところかと思います。ただ、Amorphisってすごく進化してきたバンドだから、最近のアルバムの方が音楽的には熟成されている気がします。今が最盛期。商業的にも本国では1位の常連だし、ドイツでもここ3作は10位以内に入っているんですよね。ドイツ=欧州メタル市場の中心地だからこれは大きい。
作曲者別に演奏曲を見てみます。
Esa Holopainen 8曲
Santeri Kallio 5曲
E. Holopainen, O.P. Laine 1曲
Kasper Mårtenson 1曲
ということで、やはりホロパイネンが多いですね。カッリオの曲も5曲。なんとなくですがホロパイネンの方がじっくり沁みる曲が多く、カッリオの曲は即効性がある気がします。アイアンメイデンで言えばホロパイネンがスティーブハリスでカッリオがエイドリアンスミスみたいな作曲者としての立ち位置か。レインはサウザンドレイクの共作曲のみ。Kasper Mårtensonは当時(1993-1996)のキーボーディスト。代表曲の一つ「Black Winter Day」はこの人の曲なんですね。ホロパイネンの曲かと思っていた。
こういう複数のソングライターがいるバンドはそれぞれの曲の特長を聞くのも楽しいですよね。「これ誰の曲だろう」とか。メイデンやハロウィンも作曲者別に見ると楽しめます。
今回、各メンバーが来ていたTシャツはレイン(ベーシスト)がブラックサバス、コイヴサーリ(リズムギター)がカーカス、ホロパイネン(リードギター)がRushでした。なるほど、と思うチョイス。
全体としてチームワークで生み出される芸術作品であり、音楽の魔法を感じた素晴らしいライブでした。それぞれの作品の生まれた背景やメンバーについて調べたくなってこの記事を書きました。今日最後は本日のライブのハイライトだったこの曲で。次々にメロディと展開が押し寄せる怒涛。
それでは良いミュージックライフを。