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大森靖子 自由字架20211127@草月ホール
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大森靖子、弾き語り+ピアノ+ダンサーの3人編成「自由字架」ライブを観てきました。草月ホール。遠藤賢治もライブ盤を録ったことで(僕の中では)有名なハコ。
大森靖子のライブは何度も足を運んでいますが、この3人編成は初。だいたいバンド編成が多かったのですが、映像で3人編成のライブを観て衝撃を受けて見に来たのが今日。演劇的な内容というか、舞台劇、物語性の強い内容。それはバンドのビートがない分、より肉体的というか、演者の体内リズム、演者感、観客との間合いによってリズム、つまり時間が伸縮する感覚があり、緊迫感が高い内容でした。
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この日は二部構成で僕が参加したのは昼の部。アンコール含めて90分程度で、15時半開演の時間通りにスタート。観ての感想は、まず大森靖子は喉が強くなったなぁと。歌い方のスタイルとしてかなりスクリームを混ぜるエモ的な歌い方なので、喉を涸らしている印象も以前はあったんですよね。11/27、28は2日連続昼夜2公演、つまり4公演やるので、最後の方は喉が嗄れるんじゃないだろうかと心配していたのですがその気配はなし。もちろん、2日で4公演やりきるのは(こういう激しい歌唱スタイルで歌う)どんな歌手にとっても難易度が高いと思いますが、しっかり声帯をコントロールしたプロフェッショナルの技を感じます。やっぱり「人の叫び声」が好きなんですよ。ディストーションギターとか、スクリームとか、グロウルとかを耳が求めてしまう。スクリームを存分に堪能できるライブでした。
あと、ギターの音もけっこう低音が強調されています。ちょっとブーストかけているというか、多少ファズがかかっているような感じ。グランジ・オルタナ的な質感があるアコギの音になっています。低音が強めだから音の塊感がある。弾き語りのギターの音作りとして面白いですね。自由字架編成(弾き語り+ピアノ+ダンサー)のライブ映像はこちら。
音源で知っているアーティストもライブに行くと印象が変わることがあります。ちょうどヘドバンVol.32でサウンドガーデンのギタリスト(キム・セイル)が「グランジブームで(サウンドガーデンの)ライブに来る客層が一気に増えた。それまでは自分たちの似たような奴らしか来なかったが、急に(グランジとかに興味がなさそうだった)クラスの優等生とか親子連れとかが来るようになった」と言っていたのがまさにそれで、ある一定以上売れると普遍性、幅広い客層が来るようになる。だけれど、その前は「ある色濃いコミュニティの客層が来る」んですよね、ライブって。
僕はもともとメタラーとかサブカルなんですよ。筋肉少女帯が原体験にあるから多少ビジュアル系とか追っかけ的なものにも耐性があるけれど、アイドルライブのノリってまた違う。ペンライトを振る文化とかメタルとかハードコアにはないですからね。ヘドバンやモッシュピットが格好いいと思ってきた人種なので、アイドルファン層のコミュニティのお作法についていけないところがあります。昔、川本真琴のデビューライブに行って、僕はオルタナ的な女性SSWのライブのつもりでいったら客層がものすごくアイドルファン的なノリで疎外感を味わった、という体験もあり大森靖子のライブも最初はちょっと違和感を感じることもあったんですよね。
ただ、なんだかんだ大森靖子のライブに行き初めて5年ぐらい経ってくるとアイドルライブに慣れてきます(まぁ、大森靖子はガチのアイドルとはまた違いますが、アイドル的なライブ文化を愛している、取り入れているのは伝わってくる)。年2回ぐらいは大森靖子のライブに行っているからペンライトを振る文化にも慣れてきたし、先日、特撮(大槻ケンヂ)のライブに行ったら特撮もライトを導入していましたからね。「コロナ禍で声出せないから実験的にペンライトを入れてみました」と大槻ケンヂ(オーケン)がMCで話していましたが、意外とすんなりなじんでいた気がします。まぁ、もともとナゴムのノリってその後のアイドルライブのノリに影響を与えた、源流的なところはあるのかもしれませんが。ナゴムダンス(両手を上下に振るダンス)とか。あれもともと竹の子族とかゴーゴー族から来てるのかなぁ。「ライブのノリに見る日本の音楽史」とかも面白そう。
オーケンの話をしたついでにオーケンと大森靖子の連続性について書いておきます。僕の音楽、特に邦楽に対する扉を開いてくれたのってオーケンなんですよね。彼がソロアルバムで「オンリーユー」というアルバムを出して、これは日本の70年代、80年代のアングラ、サブカルバンドたちのカバーアルバムでした。このアルバムをきっかけにスターリン、あぶらだこ、じゃがたら、頭脳警察(PANTA)、遠藤賢治などを知った。90年代後半以降、オーケンはこうした「日本のアングラなバンド」を紹介する水先案内人的な役割を果たしてきた気がします。
今、その系譜にいるのは大森靖子なんだろうなぁ、と思います。大森靖子を入り口にアングラ、サブカルに足を踏み入れていく人も多いんだろうなぁと。かなりいろいろな要素が入っているので、大森靖子をきっかけにノイズとかスクリームとか銀杏ボーイズとか、それこそオーケンにたどり着いた人もいるでしょう(MVでコラボしている)。同時に、僕のような90s以前からの日本サブカル、アングラシーンを追ってきた人間にもアイドル文化の扉を開いている。Babymetalに代表される「メタルアイドル、ハードコアアイドル」文化の隆興もあり、アイドル界隈の音楽に触れるメタラーも増えてきたと思いますが、大森靖子もそうした入り口となっているアーティストだと思います。
アイドル文化って独特ですよね。「誰と誰がどうした」みたいな人間関係というか、物語がいろいろある。ファンもそれ(煽りや擁護や称賛)に参加し、感情移入する。各歌手の群像劇でファンを巻き込んでいくのはヒップホップ的だなぁとも思います。まぁ、SNSの発達でそうしたものがすぐ話題になりやすくなったせいもあるでしょうけれど。SNSと人間関係の(炎上を含んだ)群像劇というのは相性が良いのでしょう。そうした群像劇は正直あまりわかりませんが、音楽的にはかなり面白いシーンだと思っています。今の日本のシーンで一番尖ったロックシーンって、実はアイドル周辺なのかも知れませんね。これはまた改めて。
最近の大森靖子のライブの客層は純粋な「音楽好き」というか、「(音楽という)芸術」を鑑賞する、いわば美術館の企画展を鑑賞するような客層も増えてきている気がします。メジャーに行って7年、活動規模もある程度大きくなってくる、中堅のアーティストになってきているわけで、客層も初期の「濃いコミュニティ」からより幅広い層に聞かれるようになってきているのでしょう。クラシックとかジャズとか(またプログレとか)の客層にも通じるような人たちが増えてきている気がします。こうした弾き語り主体だとビートが強くないこともあり、演劇を見るような感覚で観れるし、客席のノリも「息をのんで見守る」感じです。それこそワールドミュージックとかクラシックとか、聞き方はそれに近い。それが居心地がいいんですね。日本古来の「間合いのある歌心」を継承する歌手の一人だとも思っています。
それでは良いミュージックライフを。
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