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新しい音楽頒布会 Vol.12 プログフォーク、ヘヴィサイケ、レンベーティカ、アラビックフォーク
今週はワールドカップ一色ですね。音楽もそれに合わせて今週は国際色豊かにUK、ドイツ、キプロス(ギリシャ)、アルジェリアの計4枚を紹介します。
おススメ1:Richard Dawson/The Ruby Cord
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UKのオルタナティブフォークと呼ばれるシンガーソングライター、リチャードドーソンのセカンドソロアルバム。ドーソンは他にもいくつかのバンドに参加しており、Bulbils, Circle, Hen Ogledd, Khünntのメンバーとしても活動中。かなり多作なアーティストです。本作は2020年以来となるソロアルバム。全7曲ながら80分を超える大作。1曲目の「The Hermit」が1曲41分という大曲です。プログレッシブロックとも違う、なんでしょうね、一つの大きな絵巻を見ているような感覚。実質2枚組というか「大曲1曲1枚」「普通のアルバム1枚」がカップリングされたような作りです。1曲目は落ち着いてじっくり聞くときにはいいけれど、そうでなければ2曲目から聞いた方がとっつきやすい。最初、アンビエントというか曲としての輪郭が現れるまで10分以上かかりますし。ただ、大曲ながらそこで描かれる情景は神経がいきわたった完成度が高いもの。あと、かなりUKのトラッド色を感じます。途中、ボーカルだけでアカペラで歌うパートがありますが、もともとのUKフォークミュージックってこういう感じだったようなんですよね。アルバトロスという民族音楽をフィールドレコーディングしてリリースするレーベルがあり、そこから出ていたブリティッシュフォークの音像に近い。フォーク(伝統)ミュージックといっても1960年代とかなのでそこまで古くはないですが、アパラチアに残ったカントリーミュージックとはやはり違う感覚があります。たとえばこんな感じ(1960年の曲)。こうしたブリティッシュフォークを現代的な感覚で再構築・進化させたような作品。きちんとルーツがありつつ、2022年の音楽という形式の芸術作品として全霊を込めて作られています。穏やかな音像の中に鬼気迫るものを感じるすごい作品。
おススメ2:Elder/Innate Passage
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ドイツ・ベルリンを拠点に活動するヘヴィサイケ・ストーナーバンド、エルダーのニューアルバム。もともとはUS、マサチューセッツのバンドなのですが今の活動拠点がベルリンなのでUSで生まれたドイツのバンド、という立ち位置。ストーナーの本場であるUS出身だけあって酩酊感を持ちつつ、ドイツをベースに活動しているだけあって欧州的な翳りもあります。単純に「プログレッシブハードロック」と言ってもいいかも。70年代黄金期のプログレッシブロックやハードロックの延長線上にある音。ただ、曲は長いものの冗長さは少なく、スリリングかつ心地よい展開が飽きさせません。楽器隊も凝った演奏をしていますがソロパートの集合ではなくバンド全体のアンサンブルで曲の起伏が生まれる。ドイツよりはフランスのプログレバンド(Gojiraとか)にも近いかも。
おススメ3:Antonis Antoniou/Throisma
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地中海、キプロスで活動するアントニス・アントニウスのセカンドソロアルバム。キプロスの伝統音楽をベースにした〈ムッシュー・ドゥマニ(MONSIEUR DOUMANI)〉と、ギリシャ大衆音楽のルーツ、レンベーティカを現代化した〈トリオ・テッケ( TRIO TEKKE)〉という2つのバンドで活動しつつ、ソロ活動も行っています。レンベーティカというのはギリシャのブルースとでもいえるもので、もともとは移民の音楽。ギリシャがオスマン帝国から独立を勝ち取り、まただ一次世界大戦でオスマン帝国が解体されたことからギリシアとトルコの間で移民交換が行われます。移民たちは経済的に困窮し、貧困の中で音楽が生まれていった。これは黒人奴隷たちが生み出したUSのブルースや流浪の民であった頃のラマ(ジプシー)音楽にも近い出自です。音楽というのは経済的余裕がなくても楽しめる娯楽。酒場で歌われ、人々の糧となりました。本作は力強いビートのオープニングで始まり、だんだんと後半になるにつれてダブ的というか内面に潜っていくような音像に。後半は実験的な音響が増してきますが根底に流れるシンプルな反復が分かりやすさと心地よさを生み出します。高尚すぎず、生活感や生身の感情がある。原始的なロック、ブルース感覚を感じる酒場で聞きたい音楽。
おススメ4: Souad Massi/Sequana
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スアド・マッシ(سعاد ماسي;)は1972年、アルジェリアのアルジェで生まれたベルベル人のシンガーソングライターです。1990年初頭にアルジェリアのロックバンドAtakorに参加。人気を博しますが政治的なメッセージを持ったバンドであったため弾圧、殺害予告などを受けてバンドを脱退しフランス・パリに引っ越します。2001年に初のソロアルバムをリリースし、それ以降もコンスタントに活動を続けて本作が8枚目のアルバム。フランスのワールドミュージックオブザイアーを受賞したこともあり、北アフリカ出身のミュージシャンとしては世界的な活動を行っているアーティストです。音楽的には北アフリカ音楽色というよりはけっこうフレンチ色が強く、アコースティックな音像を主体にシャンソンやフレンチポップスに通じる洒脱なメロディが紡がれます。歌詞はフランス語とアラビア語が混ざったもの。節回しなどはアラブ的です。アコースティック主体ながらところどころに入ってくるビートがアフリカの力強さを感じさせます。タイトルの「セクアナ」とはローマ時代に信仰されていた泉の女神で、癒しの力を持っていたそう。その名の通り爽やかで心を癒すような音楽。
以上、今週のおススメでした。それでは良いミュージックライフを。
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