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音楽ジャンルとは何か
音楽のジャンルには次の4つの種類があると思います。
1.特定の文化(利用シーン)と結びついたもの
2.リズム、使用楽器、歌唱法など音楽的分類
3.評論家、メディア、ファンが名付けたもの
4.自分たちで名乗るもの
それぞれ見ていきましょう。
1.特定の文化(利用シーン)と結びついたもの
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「映画音楽」とか「ダンス音楽」とか「祭囃子」とか「讃美歌」とか「歌舞伎」とか「能」とかですね。ある特定の利用シーンで使われる。明確な利用シーンが想定されていて、ジャンル名としては音楽以外のものと結びついているものです。これはどちらかといえば音楽形式というよりは利用シーンの分類であり、その利用シーンから規定される(あるいは観衆の期待する)一定のマナーがあります。だからそのイメージを裏切ることもできる。「内省的なダンス音楽」とか「ロック歌舞伎」とかですね。映画音楽にいたっては非常に幅広い(ほぼ分類としては意味をなさない)けれど、やはりオーケストラを使ったメインテーマ、みたいな「音のイメージ」はある。もともと、音楽の一番古い分類法はこれだった気がします。「軍楽」とか「宮廷音楽」とか「大衆音楽」とか「劇伴歌(劇にジャンル名がついている場合はそのジャンル名になる)」とか、利用シーンや聞き手、要は音楽以外のものの分類が音楽ジャンル名になったもの。
2.リズム、使用楽器、歌唱法など音楽的分類
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いわゆる「音楽ジャンル」として想起しやすいのがこれですね。というかむしろ受け手は音楽ジャンルに音楽的特徴を求めることが多いような気がします。たとえば「タンゴ」はリズムを定義できます。「ジルバ」もそう。「ロックンロール」もリズムの定義が可能です。それから「ホーメイ(喉笛)」とか「オペラ」は歌唱法とも言える。あとは「四重奏」「弦楽」「室内楽」「バンドサウンド」「三味線音楽」「(ギター)弾き語り」など、楽器名や楽器編成が音楽ジャンルになっているもの。1.の利用シーンで分類した音楽を、そこに共通する音楽的要素を説明するときに使う言葉とも言えるし、その中にはそれがジャンル名になっていくものもある。他の音楽ジャンルを「音楽的形式」に翻訳するときにはこうした言葉を用いる必要があります。逆に言えば、この2.以外は実のところ「音楽の形式としての差異(=音楽単体としての分類)」ではなく、周辺の情報によって分類されています。
3.評論家、メディア、ファンが名付けたもの
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たとえば「グランジ(=シアトルムーブメント)」とか「N.W.O.B.H.M.」とか「ブルース」とか「ロック」とか「ヘヴィメタル」とか、そういうものです。基本的には1と同じ発生過程と言えますが、出身地域(ムーブメント発生地)やライブの客層、ある特徴に共通項を見出してそこに命名するものです。昔は評論家やメディアが主導してつけることが多く、レコード会社もマーケティングのキーワードとして使った。最近はネット上でユーザーが自分たちで命名することが増えています。「Vaperwave」とか「○○(いろいろな名前が付く)Core」とか、ネット上で盛り上がってそのまま流布するものもあればすぐ消えるものもあります。これは自由につけられるものなので特定の音楽的形式を持つものでないことも多いですが、逆にジャンル名が規定されると共通する音楽的形式が見出される。その形式に沿って新しい作品がリリースされる(シーン、ジャンルに参加してくる)ことで音楽的形式が固まっていくことがあります。たとえば「グランジ」はそうですね。もともとシアトル周辺のいくつかのバンド群の盛り上がりで音楽的に明確な共通項というのはありませんでしたが、エフェクターの使い方(荒々しい、渦を巻くような音)、ダウンチューニングも用いたヘヴィなギターサウンド、生々しい(リバーブの少ない)ドラム音、やや不協和音感がある暗鬱感があるコード展開、静ー動ー静を演出するささやき声と叫び声の緩急、など、「グランジらしい」音楽的特徴が後付けで定義されていき、そこにアーティストたちが参加していくことでさらに音像が固定化していく、ということが起きます(参考記事→グランジムーブメントがメタルに与えた影響)。これはどんどん増殖しているので今は一番多い「ジャンル名」の由来でしょう。音楽形式の名称というよりムーブメントや文化現象の名称(になることを目論んで作られるもの、も含む)と言えるかも。
4.自分たちで名乗るもの
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これはたとえば「Thall」とか「Punk(特にロンドンパンク)」とか「Riot Grrrl」とか、ムーブメントであったり、あるいは自分たちの音楽形式を命名してしまう、というものですね。Thall(サール)はちょっとマニアックなのですが、「自分たちでジャンル名を生み出そう」とする時に僕が思い付いた一番分かりやすい例。スウェーデンのヴィルドジャルタ (Vildhjarta)というバンドが自分たちの音楽を表すときに使う言葉で、もともとは単発の身内ネタだったようですがいつのまにか(とても小さなサブジャンルですが)ジャンル名として一定の定着を見ています。既存の音楽ジャンルに分類されたくないアーティストはこうした新しい造語を作ることが多い。たいていは「カルナティックフュージョンミュージック」とか、「ダークチルウェイブ」とかいくつかの既存のサブジャンル名を組み合わせることが多いですが、まったく新しい単語を生み出してしまうこともあります。それが認知され、そのジャンルの音楽的形式が定義可能で、その音楽的形式に沿って発表されていく作品が増えていくとジャンルとして成長しています。また、音楽形式だけでなくムーブメントや精神性に賛同、参加する、自分たちのイメージを合わせようとする。「Punk」というイメージをうまく利用したのがSex Pistolsであり、彼らは「ロック」ではない、新しいニューウェーブであることを目指して「パンク」と名乗った。「ライオットガール」は音楽だけではなく、主義主張を伝える手段の一部として音楽もあった。ハードコアシーンの「ストレートエッジ」もそうですね。「ブラックメタル」も初期かつ特定の地域(北欧の一部)においては、音楽形式よりも「反キリスト」などの価値観に参加するものだった。これは意図的にそうした「ジャンル」に参加し、そのジャンルの中で音楽形式だけでなくファッション、ひいては信念や理念=生き方まで定義していこうというもので、中には「ロック」や「メタル」のようにもともとは3で、比較的ライトな概念だったものが時間を経るにつれてイメージが肥大化し、ライフスタイルとして定義されていくものもあります。アーティスト自身が意識して自分のジャンルを名乗る場合は「そこに期待される音楽的形式を追求する」という意思を感じます。逆に、USで昨年ヒットしたオリヴィア・ロドリゴは自分のことを「ロック」とは言っていない様子。音像(音楽形式)的にはロックテイストが大きいですが、「ロック」に付随するイメージに囚われたくないのでしょう(本人の意思なのかマーケティング側の意向なのかは不明)。純粋な音楽形式以外の「ジャンル」は周辺情報の比重が大きいため、そうしたことが起きます。3.と4.は近い概念ですが、アーティスト自身がそのジャンルに積極的に所属したがっているのか、そうでない(単にそこに分類されているのか)の差。単体の曲だとあまり差はありませんが、アーティストの作品を追っていくと明確な差が出てきます。
まとめ
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以上、大きく4つの起源で音楽ジャンルというものは生まれる気がします。これらは違う起源、違うレイヤーの言葉であり、同列で考えると良く分からなくなる。それが「周辺情報が主体の言葉」なのか「純粋に音楽的な形式」なのか「地域や時代や背景でひとまとめにされているグループ」なのか「主義主張(やマーケティングの意図)を含むもの」なのか、それらが混在しているのが「音楽ジャンル」という概念なので、「これはどれなんだろう(あるいはどれとどれが組み合わさったものだろう)」と考えると整理しやすいし、面白い気がします。
それでは良いミュージックライフを。
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