見出し画像

2024年間ベストアルバム

雑多。今年聞いたもの/評判が良いから聞いてみたものの中から耳と心に残った作品を選んでみました。本稿作成にあたり改めて全て聴き直しながら書いています。順番は聴き直した/書いた順。複数日に分けて書いているのでその日の気分や環境によって文体はマチマチ。とりあえず10枚溜まったら投稿します。後から追記していく、つもり。最終的には30-50枚ぐらいかな。「こんなアルバムあったなぁ」「これは知らなかった」「このアルバムいいよね」的な発見や共感があると嬉しいです。

Beth Gibbons / Lives Outgrown

魔女の音楽。元Portisheadのフロントウーマンのソロ作。Kate Bushの50 words of snowを聴いた時にも似た感覚を覚えた。ときどきこういうアルバムに出会う。それほど起伏はなく、緩やかに流れるが、内面に沈み込んでいく感覚。ただ、人間的な悲哀よりどこか純化したものを感じる。深い湖に沈んでいくのだけれど、息苦しさは感じないような。自分の内側に響く不思議な儀式音楽。

こうした音楽ジャンルはChamber Folk、チェンバーフォークと呼ばれる。バイオリンやチェロなど弦楽器隊を取り入れたフォークミュージック。このジャンルは1960年代から2020年代まで変わらず定期的に名盤が生まれてくる。→RYMChamber Folkのランキング。特定の年代に偏らず、新旧の作品が混じっている。ずっと人気とクリエイティビティが保たれているジャンルということ。

Adrianne Lenker / Bright Future

コンテンポラリーフォーク、アメリカーナ。現代USインディーズシーンのトップバンドの一つ、Big Thiefのフロントウーマンのソロ作。なんだかルックスが以前より男性化しつつある気がする(この人はバイセクシャル)。基本的にBig Thiefと大きく方向は変わらないが、バンドではなくソロ作なのでより素朴な歌心が全面に出ている。それが地味さだったり希薄化に繋がるのではなく、むしろ歌の力が活かされていてバンドとは違うけれど同じような深みに到達できている作品。この人はソロ作品もおしなべて説得力が高い。適度に音の遊び心もありつつ、心の深いところから汲み出してきた音楽だと感じる。聴く体験を通して自分もその場所に近づける感覚。耳を心地よく流れるだけでなく、歌がしっかりと溜まっていく気がする。

Ulcreate / Cutting the Throat of God

ニュージーランドのデスメタルバンド、ウルクリエイトの7枚目のアルバム。Dissonant(不協和音) Death Metalなどとも呼ばれる。その名の通りジャズ的な複雑な和音を使うが、本作ではそうした難解さや引っかかりより暗鬱ながらも耽美さを感じさせる音世界の構築に成功しており、全体的なドラマに対してテクニックや和音構造が活かされている印象。グロウルや高速ブラストビートなど激烈な表現が多用されているが、不思議な静謐さというか、どこか幻のような響きがある。全体的に音響のエッジが丸めで、遠くから多くの音のレイヤーが響いてくるような作りだからだろう。音のレイヤーは複雑な構造を持っているが、比較的シンプルなメインモチーフがゆっくり進んでいくシーンも多く、酩酊感と高揚感が同居する、現代メタルの表現領域を更に拡張する作品。

Zach Bryan / The Great American Bar Scene

沖縄生まれのアメリカ人シンガーソングライター、ザックブライアンの5枚目。現在はオクラホマで活動しています。オクラホマのスティルウォーターを中心としたシーンの音楽をred dirt(赤い土)と呼ぶことがあり、それはその辺りの地形特徴から。本作もred dirtの作品ともされています。より通りが良いジャンルとしてはアメリカーナですが、独特の土臭さがある音像。タイトルからして懐古的ですがその名の通りのどこか古さを感じる。ライクーダーとジャクソンブラウンが出会ったような。聞きやすく洗練されているけれど、アメリカンルーツ音楽と直結している音楽。メインストリームカントリーほどロック色はありませんが、適度にビート感や音響的な装飾があり、フォークロックのテイストはあります。エンターテイメントとしての完成度と自然体で生まれてくる音楽のバランスが良い作品。

Buck-Tick / スブロサ

実は初バクチク。Buck-Tickは1980年代後半から活動する日本のバンドで、バンドブームやインディーズブームをリアルタイムで体現したバンド。当時からずっと活動していますが、なんとなく接点がなかった。今回、Xで「ムーンライダースっぽい」みたいなことが書かれてみて、そんな印象がまったくなかったので聴いてみました。実際聴いてみて、本当にそうだなと。声の印象が鈴木慶一さんと博文さんの鈴木兄弟に近いし、曲の遊び心も近いところがある(もちろん、違うところの方が多いけれど。それぞれ個性的だし多面的なので)。

昨年、看板ボーカリストであった櫻井淳司が急逝。その死を乗り越え、ギタリスト2人がボーカルを分け合う形で本作を録音。もともと作曲はギタリスト2人が行なっていたのでバンドとしては連続しているのでしょう。音的にも面白く、J-Rockならではの面白さ。UKやUSとは違う音階感覚、展開の多いコード進行、デジタルサウンドの組み込み方、日本語の角ばった響きなどが十二分に発揮された作品。いいバンドを素通りしていたなぁ。「サブカルチャー」と呼ばれていた、90s、00sの雰囲気、遊び心と危なさを残したままの2024年型アップデート。ホンモノ。

Magdalena Bay / Imaginal Disk

フロリダ、マイアミの男女2人組ユニット。もともと4人組のプログレッシブロックバンドのキーボードボーカルとギターだった2人で、ウマがあったのか恋愛関係になったのか分からないが2人でユニットを組んで急に完成度が上がった。前のプログレッシブロックバンドは一定のクオリティはありつつ新地平を切り開く感じではなかったが、このユニットは新しい音楽を生み出している。本作が2作目。前作よりも個性が強化された。

このユニットの特性は匿名性だと思う。プログレバンド出身だけあり、実はバッキングトラックの演奏などは結構凝っていて、ネオプログやシンフォニックプログの文脈を継いでいる場面も見られる(特に本作は)のだが、ボーカルラインや音響がどこか霞みがかっていてレディメイド的、Vapereaveなどの「作家性を消した音楽」の文脈を感じる。どこかに忘れられていた残骸を拾い集めてきたような。サウンドコラージュというよりフレーズや音響の90sコラージュ。プログレというある意味作家性の塊のような音楽と匿名性が出会ったことで(記名性の)過剰さと(匿名性の)希薄さがうまくブレンドされ他にない音像を生み出した作品。新作なのにどこか「すでに過ぎ去った作品」のような感覚。前作も完成度が高かったが、コンセプト一発勝負に陥らずさらに進化して見せたのは見事。なんとRYM2024年チャートで執筆時1位。

Mount Eerie / Night Palace

アメリカ、ワシントン州のシンガーソングライター、マウントエーリエ。色んな名義でアルバムを出している人だがソロ名義では12作目、のはず。雑多な音楽性が突っ込まれたアルバムで、まさにシンガーソングライター的というか、一定の生活期間の中でできた曲を収めて行った、という印象。こういう「日々の記録」的なアルバムには時々名作が生まれる。パッと思いつくのはthe Magnetic Fieldsの69 love songsとか。まるでデモテープの断面のような小曲から音響的な遊び心のある曲、ハードな轟音まで、試行錯誤の後と共に日常の空気感や感情の陰影までもが音源から透けて見える(ような聴覚体験ができる)。

本作には音楽的にはある深さ、完成度まで達したものだけが収められており、雑多でありながら散漫だったりアイデアが希薄には感じられない。始まりこそかなりダウナーに始まるが、曲が進むにつれてさまざまな、剥き出しのクリエイティビティが次々と出てくるワクワク感もある。静謐に、時に遊び心や激情を以って自分の内奥に向かっていく。ジャンルとしてはSlacker-rock(だらしないロック、90年代発祥、ジャンルの代表者としてはBeckとかPavementとか)やSlowcore(遅めでダウナー、内省的な雰囲気の宅録ポップス、代表者としてはlowとかdusterとか…ってあまり知名度はなさそうかも…ややマイナーなサブジャンル)がタグ付けされている。2枚組80分超え。26曲。

Nanowar Of Steel / XX Years Of Steel

ここでガラッと趣が変わる。今まで内省的、どちらかと言えば深みに潜っていくような、2024年という時代性を炙り出す音楽が多かったがこのアルバムは純粋な娯楽作品かつメタルマニア向け。各種メタルネタを取り入れつつ良質なパワーメタルながら歌詞がたいていロクでもないことで知られるイタリアのナノウォーオブスティールの新譜。今年20周年なのか。20周年記念アルバムでライブアルバム2枚組と新譜1枚の3枚組。ベストアルバム選出は新譜のみの評価。だいたい毎年私的ベストにこのバンドを入れている気がする。

彼らはもともとパロディ、メタルネタをコミカルに表現するバンドだったがだんだん正統派パワーメタルバンドとしての完成度が上がってきて、本作は純粋に曲も良い。周年作品に相応しい内容。新譜部分は九曲入りとコンパクトなのも質の上昇に寄与したのだろう。アイアンメイデンのパロディで「わかる! メイデンっぽさをよく掴んでる! その上で本家よりクドイ!」なAfraid to Shoot into the Eyes of Stranger in a Strange Land(タイトルからして最高)を始め、ネタとしてもパワーメタルソングとしても研ぎ澄まされている曲が多数。歌詞はイタリア語と英語が混在。何を言っているか分からないがロクなことは言っていないだろうという信頼感。ちょっととぼけた声も癖になる。毎年なんだかんだメロスピ、欧州メロディックパワーメタル系を一枚は選んでいる気がするが、今年はこれ。最後に日本語トラック(2枚前のアルバムに入っていた偽巨大ロボアニメ主題歌の日本語版)収録。徹頭徹尾エンタメ🤘

Billy Strings / Highway Prayers

US、テネシー州ナッシュビルで活動するシンガーソングライターにしてギタリスト、ビリーストリングスの5作目。progressive blueglassと呼ばれており、伝統的なブルーグラスにロックやメタル的な演奏技法を取り入れたのが特徴(音像そのものはアコースティック楽器主体のブルーグラス)。ギターが上手い。粒立ち良く小気味良いテンポで爪弾かれるギターが心を浮き立たせる。アメリカーナの中でもブルーグラスはダンス、祝祭感がある。

ビリーストリングスは1992年生まれで2024年時点で32歳。2021年にはグラミー賞のブルーグラス部門を受賞するなどブルーグラス界の若手を代表する存在。フラメンコにロックやメタルのテイストを持ち込んで衝撃を与えたRodrigo y Gabrielaのように、ブルーグラス界に新風を吹き込む存在。アメリカーナ好きにはもちろんプログレ好き、ギターヒーロー好きにもアピールする音像。

少し難なのはやけに長い(20曲74分)こと。90年代のアルバム(エアロスミスのGet A Gripとか)みたいだよ。いい曲ばかりだけれどもうちょっと短い方が聴きやすいんだけど。そういえば今回選んだアルバムは結構長めのものも多い。ここのところアルバムが短くなる傾向があったけど一部では逆転してきたのかな? 音楽アルバムの長さは映画の長さみたいなもので、体験に直結する。「長いアルバムを聴く」という体験に価値を見出す人が少し増えてきたのかもしれない。90年代のアルバムが長いのはCD時代になって、収録限界(74分、のちに80分)まで入ってる方がお得感があったという理由が大きいと思っているけれど。今はそんな理由ないからなぁ。これも90sリバイバルの一つなのかも。

Bring Me The Horizon / POST HUMAN: NeX GEn

現代UKのエクストリームロックシーンを代表するバンドに成長したBMTHの待望の新作。かなりの難産だったと思われ、多くの曲をシングルカットして市場の反応を伺った後にリリースされた作品。力みすぎていて空回りというか、「新しいものを生み出そう」としすぎて本人達の作家性が犠牲になっている気も。手放しで「期待を超えてきた!」とはならなかったけれど、それは2024年における新型エクストリームミュージックを切り開く可能性がこのバンドに期待されていたから。十分話題になったし、バンドの価値は保った作品だと思います。次作で力みが抜けてさらに成長するか、ここで立ちどまるか分水嶺。

…みたいな感想を抱いて、リリース時には個別記事を書くには至らなかったのだけれど、今回改めて聞き直してみると完成度は高いし、激烈な表現とUKシーンの中での商業的成功のバランスをうまく取った作品だと思う。アルバム全体を通してどこかに辿り着くほどの完成度はないけれど、どの曲も悪くない。むしろカッコいい曲ばかりが揃っている。多分、前作のPost Human: Survival Horrorがアルバムとしても流れが良かったからハードルが上がりすぎたのだろう。本作も2024年の激烈音楽を語る上では外せない作品。リンキンパークも復活したし、その次の世代であるBMTHやSleep Tokenにももっともっと新しい景色を見せてほしい。

MONO / OATH

日本の誇るポストロックバンド、MONOの25周年記念、12枚目のアルバム。ほぼこのアルバムを全曲再現したライブツアーを実施中。日本公演を観ることができました。ライブレポはこちら

25周年ライブをほぼこのアルバムから演奏したことから分かるように現在のこのバンドのほぼ全てを詰め込んだ作品。レコーディングされた作品だけでなくライブで五感で体感されたことによる補完でより深くこの作品を理解できた気がします。MONOなりの、ハードコアマインドとポストロック、シューゲイズ的な音響、音楽体験を具現化した音像とオーケストレーションの融合。箱庭と初期衝動を超えた、より開かれた世界を描いた作品。普遍的であるが故に一聴して突き刺さってくる感覚は希薄ですが、日常を彩る、日々の内面的なドラマを増幅し、生きる活力を生み出す生活のBGMとしての馴染み具合は卓越。日本の都市生活の風景への親和性はやはり日本のバンドならではだと思います。ヘッドホンから生活にドラマを。

Friko / Where we've been, Where we go from here

2024年前半、日本のインディーロック好き界隈で話題騒然となった本作。口コミだけでApple Musicランキング10位に入った。フジロックにも出たし単独来日公演も行うという人気ぶり。アメリカのバンドなのだが日本での盛り上がりの方がすごかったという久しぶりの事例。シカゴのバンドで、シカゴといえばtortoiseやwilcoなどの音響派の印象が個人的には強いのだけれど、そうした影響も意識してみれば感じられるが前面に出ているのは歌心。音のレイヤーとかノイズ、アンビエントの作り方はシューゲイズにと近いけど、シカゴ音響派って夢見る感じよりどこか醒めた質感があるんだよね。それを引き継いでいる。

男女ペアのユニットで、2人の声の絡み具合が心地よい。グランジ、オルタナを通過しつつもいわゆるバンドサウンド、醒めつつも気だるさより煌めきのある青春バンド的なメロディ感覚があるのが日本でウケた理由かも。個人的にもツボを押されて妙にリピートした記憶。36分と短いのもフレッシュさを感じるし、全体が掴みやすくて良い。

Zakk Sabbath / Greatest Riffs

元オジーオズボーンバンド、現在Black Label Society及びPantera(と言っていいのかな)のギタリスト、ザックワイルドによるブラックサバスカバープロジェクト。サバスの1st,2nd,3rdを完全再現したスタジオ盤を出しており、本作はそこから選ばれたコンピレーション。他のアルバムはフィジカルでしかリリースされていなかったけれど本作が初のデジタルリリース、広めやすくなりました。

もうそのまんま。ザックワイルドがブラックサバスを演奏している。それだけ。それが良いんですよ。声が思った以上にオジーに似てきているし。プライドアンドグローリーの頃はそこまで似ていなかった気がするけれど、だんだん似てきた。変に独自性を出していないのだけれど、もうザックが弾くだけでザックの音になる。クラプトンがブルースを演奏したらクラプトンのブルースになるのと同じ。最高のギタリストによる最高のサバストリビュートにして、単純に最高峰のハードロックが詰まった1枚。

Ramper / Solo postres

スペイン、グラナダ出身の4人組ポストロックバンド、ランパーのセカンドアルバム。post-rock、Slowcoreなどのタグがついている。そのタグの通りスローに揺蕩う重層的なサウンドレイヤーが楽しめる作品なのだけれどスペインの伝統音楽からの影響が感じられるところが特長的。歌詞もスペイン語。全7曲ながら68分の大作でインストではなく歌あり。声が少しの幼さと祈るような真摯さ、神聖さが混ざっていて独特。

少し辿々しいブラスバンド的な音が使われており、どこか色褪せた楽団がいる風景を想起する。バンドは男性4人組だが女声コーラスが効果的に使われている。描かれているのはけっこう壮大なサウンドスケープなのだけれど、バンドの活動規模やキャリア的にどこか箱庭的、DIY的なところもありそれが親しみやすさにつながっている。こういう世界の新鮮な才能に手軽に出会えるようになったのはインターネット、ストリーミング時代ならでは。

Mayhemic / Toba

チリ、サンディエゴで2018年に結成されたメイヘミック。本作がデビューアルバム。ブラック・スラッシュメタルとされており、ギターリフなどは古典的なスラッシュメタルの質感がありながらボーカルはブラックメタル的な邪悪さがあり、全体的にはブラックメタル的な表現を取り入れつつスラッシュ感がしっかりあるというありそうでなかなかない音像。リフがけっこうくっきりしているんですよね。ブラックメタル的な少し遠めの音響もあるけれど、たいていのブラックメタルよりくっきりしている。スラッシュメタル的な聴感が強い。激烈に叩きつけてくるようなリフ、なりふりかまわぬ疾走感があり、オールドタイプのスラッシャーにも訴求しそうな音像。冒頭2曲は激走系ながら3曲目は落ち着いたテンポでしっかり楽曲構築もしてみせます。

ブラックメタルにありがちな1人ミュージシャンではなく、きっちり四人組のバンドなのもこのスラッシーなサウンドに寄与しているのでしょう。全8曲、36分。約74,000年前にインドネシア、スマトラ島のトバ湖で起きた超巨大噴火に着想を得たコンセプトアルバムだそう。この噴火は地球の気候変動をもたらし、世界中の気温が低下。当時の人類を滅亡寸前にまで追い込んだとされています。全体的には潔く駆け抜ける作品。リフも速いだけでなくそこそこ捻られており作曲センスを感じます。スラッシュメタルシーンの新星となるか。

Father John Misty / Mahashmashana

ファーザージョンミスティことジョシュア・マイケル・ティルマン(Joshua Michael Tillman)の新作。もともとFleet Foxiesのドラマーだった人で、2012年以降はファーザー・ジョン・ミスティとしてソロ活動を展開しています。 本作は6作目。

本作のタイトル「Mahashmashana」はサンスクリット語で「大きな火葬場」を意味し、無常や生と死のサイクルがテーマ。全8曲50分間。アメリカ、メリーランド州のアーティストなんですが、妙にUKっぽいんですよね。メロディセンスが英国的。歌い方こそ違いますが、ジギースターダスト期のボウイのような感覚がある。個人的にメロディセンスがツボ。だんだんアルバムが進むにつれサイケに。アルバムの最後はUSの都市風景を思わせるジャジーな音像で着地。見事な音楽旅行。

Papangu /  Lampião Rei

2024年プログレッシブロックの名盤。ブラジル、ジョアンペルサで2012年に結成されたPapangu(カタカナ表記だとパパンゴが近い)のセカンドフルアルバム。パパンゴというのはブラジブラジル北東部(ペルナンブーコ州やパライバ州)のカーニバルで用いられる仮面や仮装をつけたキャラクターのこと。この地方の文化に根付いているもの、としてバンド名に選ばれたようです。プログレッシブメタルではなくプログレッシブロックで、ブラジル音楽を取り入れた音像が新鮮かつ自然体。もともとストーナーロックトリオとして活動していたが、スラッジメタルやプログレッシブロックの影響を取り入れ、本作ではそれらがちょうど良い塩梅に混淆した名作に。フルートやキーボードが演奏できるメンバーが加入した影響もあるようです。ボッサな爽やかさとプログレの複雑さを兼ね備えた聴きやすくも聴き応えがある作品。

タイトルのLampião Rei(ランピオン・レイ)はランピオンの王、という意味で、実在したブラジルの伝説的な盗賊リーダー、ヴィルグリーノ・フェレイラ・ダ・シルヴァ(Virgulino Ferreira da Silva)の通称。彼は20世紀前半にブラジル北東部で「カンガセイロ(Cangaceiro)」と呼ばれる盗賊団のリーダーとして活動していました。ランピオンはその地域で英雄視される一方、恐れられる存在でもあった。本作は彼の人生を描いた作品。

Castle Rat / Into The Realm

魔女系ハードロック、と勝手に呼んでいるジャンルがあって、パッと思いつくのはLuciferとかなのだけれど、あ、あとはTanithも男女ボーカルだけれどその括りでも良いかも。70年代ハードロック的な音像に女性ボーカル、というシーンがあるんですよ。昔書いた記事はこちら。

で、2024年度のニューカマーがこちら。Castle Ratは2019年にNYで結成されたメディーバル(中世の)ファンタジードゥームメタルバンド、とのこと。四人組で全員キャラクター設定があります。

The Rat Queen(ラット・クイーン):リズムギターとリードボーカルを担当するライリー・ピンカートン。
The Count(ザ・カウント):リードギターとバックボーカルを担当するフランコ・ヴィットーレ。
The Plague Doctor(ザ・プレイグ・ドクター):ベースを担当するチャーリー・ラッデル。
The All-Seeing Druid(ジ・オール・シーイング・ドルイド):ドラムを担当するジョシュア・ストルミック。

また、ステージ上ではバンドの宿敵である「The Rat Reaperess(ラット・リーパーエス)」としてマデリン・ライトが登場するそう。この音楽性でNYのバンドというのが面白い。キャラクター性の通り、どこか演劇的なエンタメ感があるアルバム。ライブを観てみたい。

Blood Incantation / Absolute Elsewhere

今年のデスメタル界隈では個人的に最大の注目盤だった本作。アメリカ、コロラド州デンバーで2011年に結成されたBlood Incantationは宇宙をテーマにした歌詞や音世界をデスメタルに取り入れ、その音楽性の完成度から若手デスメタルバンドでは頭ひとつ抜けた存在。本作は4枚目のフルアルバムで、途中、完全なアンビエント作品だった前作の後の「デスメタル復帰作」となります。前作はコロナ中の実験作品という色合いが強く、本人達も「これからこの路線で行くというわけじゃない、自分たちの音楽性を拡張する実験をしたかったんだ」的なことを前先リリース時に言っていました。その通り、本作では前作で見られたアンビエント、クラウドロック/ジャーマンテクノ(タンジェリンドリームとかクラウスシュルツとか)的な要素の比重が増え、さらに静と動、浮遊するようなコズミック感と異星人の侵略のような激烈パートの対比が際立っています。独自の方向性をさらに進化、深化した素晴らしい作品。Metallicaで言えばRide The LightningからMaster of Puppetsへの進化みたいな感じ。同じ方向性で理想的な進化。

本作は大きくはLP2面を意識し、組曲が二つ(トラック番号としては6曲に分かれているが、全体としては3つのパートの組曲2曲入りという構成)。前半(The Stargate)は前作からの正統進化、コズミックな要素、プログレ要素が強化されたデスメタル。後半(The Message)はさらに新機軸が追加され、明日の叙景(日本のブラックゲイズバンド)みたいなメロディアスさ組み込まれています。ところどころに青春シューゲイズ(他にはParannoulとか)な展開があるんですよ。これ、以前はあんまりなかった要素だと思う。更にはデビッドギルモアみたいな要素も出てくるし。プログレ的玉手箱。時を超え名盤として語り継がれる気がする。

Terrorvision / We Are Not Robots

久しぶりのTerrorvision。90年代のUKロックシーンで活躍したバンドで、2001年に解散。そのあと一時復活して2011年にアルバムも出していたんですね。知らなかった。本作はそれ以来、13年ぶりの7枚目のアルバム。

僕にとって90年代のUKはthe Wildheartsだった。ブリットポップ全盛期だが、僕にとってはワイルドハーツ全盛期だったのだ。テラービジョンもワイハ関連で知った気がする。2000年代以降もよく対バンとかしているみたいだし。ワイハに比べるとメタル的なギターリフは希薄、その代わりいかにもイギリスらしい皮肉っぽさや捻ったメロディが印象的なバンドだった。本作もその感覚は健在ながら時を経てより人懐っこいメロディを作る才能が開花。ベタだけど良い曲が多い。ワイハがバンドメンバーが変わりまくり失速しているのに比べ、ドラマー以外のメンバーがしっかり固定化されているのこのバンドの強みだろう(ドラマーが変わったからか、昔より少しビートが弱くなった気はするが、その分歌メロがよくなった気がする)。3曲目以降の流れが好き。2.The Night That Lemmy Diedは歌詞が秀逸。下記に一部抜粋しておきます。モーターヘッド讃歌。全体的に個人的琴線に触れるアルバム。

Did you hear the news?
ニュースを聞いたか?
We thought they'd lied
俺たちは嘘だと思った
We could a wept we almost cried
泣きそうになった、俺たちは泣いた
With dignity and rebel pride
反逆者の尊厳と誇りと共に
That was the night that Lemmy died
その夜レミーが亡くなった

Then 2016 a real fucker of a year
2016年はクソッタレな年だった
Taking those people And friends we held dear
大切な人々や友達がいなくなり
The music had died Swapped for a pretty face
音楽は消え、顔がいい奴に取って代わられた
Turning the world into a real shit place
世界がリアルなクソに変わった
A sad sad story of a competition winner
コンテスト優勝者の悲しい悲しい物語
Getting in the way of a hard rocking sinner
ハードロックしている罪人の邪魔をする
All I ever wanted to do was sing
俺はただ歌いたいだけだったんだ
Now watch the world suffer at this vacuous thing
今や空虚さに苦しむ世界を見てみろよ

We need a Bomber
俺たちはBomberを求めてる
We need an Ace of Spades
俺たちはAoSを求めてる
We need the Road Crew
俺たちはRoad Crewを求めてる
We need Motorhead
俺たちはMotorheadを求めてる
M.O.T.O.R.H.E.A.D
M.O.T.O.R.H.E.A.D
M.O.T.O.R.H.E.A.D
M.O.T.O.R.H.E.A.D
M.O.T.O.R.H.E.A.D
M.O.T.O.R.H.E.A.D
M.O.T.O.R.H.E.A.D
28th December 2015

L.E.M.M.Y. R.I.P

Zeal & Ardor / GREIF

ブラックミュージック➕ブラックメタルというダジャレからスタートしたプロジェクト。本作が5作目。活動拠点をスイスに移してからはより本格的に音楽を探求しているというか、ゴスペルロックとも言える独自ジャンルを掘り下げるシリアスなプロジェクトになっています。あくまで質感がロックでありながらゴスペル感がある。最初はコンセプトありきのプロジェクトだったものの、この人の本質的な魅力は歌メロだと思います。きちんと口ずさめるようなメロディがある。

そのメロディを核にして、本作はメタル色は希薄化し、その分さまざまな音楽的冒険がなされています。むしろネタとしてのブラックメタル色が薄まったことで個人的には音楽的完成度が上がったと思う。寂寥感、静かに佇むような内省的な感覚は独特の魅力。かといって激烈なパートは一般の基準から言えば十分にエクストリームだし。新たなロックの可能性を拡張する本来的な意味でのプログッシブロックな作品。英国以外の欧州プログレッシブロックの正当な系譜に位置付けたい。

Vylet Pony / Monarch of Monsters

Vylet Pony(本名:Victor McKnight)は、アメリカ・ポートランドを拠点に活動するマルチジャンルのミュージシャンであり、フィリピン系中国人とスコットランド系イタリア人の血を引くアーティストです。 彼女は2012年から音楽活動を開始し、2024年12月時点で約26歳と推定されます。デビューが14歳(!)、宇多田ヒカルと同じですね。そこから大量のリリースを続けており、本作は20作目。

本作Monarch of Monstersは、トラウマや孤独、自己中心性が人をどのように変えるかを探求し、後悔の中で生き続けることの難しさを描いた作品とのこと。若い才能とベテランの熟練を感じると思ったら、実際若いし20枚も出しているベテランと知って納得。どの曲も下世話寸前のエンタメ性がありつつセンスの良さを感じさせます。センス主導の新世代インディーズポップでもありながらアートロック的な職人的作家性がある作品。

Seun Kuti & Egypt 80 / Heavier Yet (Lays the Crownless Head)

サウン・クティことOluseun Anikulapo Kuti。その家名の通りアフロビートの創始者、フェラ(アニクラポ)クティの末息子で1981年生まれ。9歳の時に父のバンドであるEgypt80に参加し、父の死後はバンドリーダーとしてEgypt80を引き継ぎ、率いています。本作はそんな彼らの新作。フェラクティの息子は長男であるフェミクティも音楽活動をしていますが、フェミの方はもっとジャズやファンクを取り入れ、コンテンポラリーなブラックミュージックに接近している印象。エジプト80を引き継いでいることもあり、セウンクティの方がフェラクティ直伝のアフロビート感があります。

アフロビート的なバンドはいくつも出てきていてそれぞれ個性もありますが、地元ナイジェリアで活動を続ける彼らはやはり本家の凄みがある。端的に言えばリズムが強い。テクニックとかよりも本能的、呪術的とも言える粘り気のあるリズムにホーンセクションが絡み、音楽の根源的な力を呼び覚まします。2024年なりに洗練、整理されたプロダクションですが、集団生活で培われた混然とした一体感がやはり強烈。

Moisson Livide / Sent Empèri Gascon

Moisson Livide(モワソンリヴィッド)はフランス、ガスコーニュ地方を拠点とするバンドで、ドラマーと、それ以外全部を担当するDarkagnanのユニット。Darkagnanは他にフランスのフォークメタルバンドBoisson Divideのフロントマンでもあり、こちらはサイドプロジェクトです。ガスコーニュ地方の特異性に注目しており、フランス語とオック語が混在。これはBoisson Divideにも共通していますが、本作はオック語の比重が高く、よりガスコーニュ地方の文化に根ざしています。また、メロディ的にも伝統音楽、伝統楽器の使用が耳に残り、フォークメタル要素を持ちながらブラックメタル的な激しいブラストパート、グロウルパートがあるのが特徴。より濃い作品と言えるでしょう。

ブラックメタル的と言いつつ、コーラスはシンガロンガでパワーメタル的。楽器のフレーズは伝統音楽由来のメロディの奔流。かなり面白いアルバムです。全体として聞くとやや過剰感もあるものの個人的には「好きなものの詰め合わせ」感があり楽しく聴けました。現在のパリ偏重のフランス文化、あるいは世界を均質化するグローバリズムに物申しているところもあり、地域に根付いた言語と音楽によってその表現は説得力を持っているのも魅力。ワイン農家との兼業メタラー (兼業農家と言うべきか)であり、ブドウ畑で葡萄を摘みながら作曲しているそう。地に足がついたメタル。

Respire / Hiraeth

これは個人的名盤。刺さる音像です。こちらのランキングで知った作品。

簡単にバイオを。Respire(レスパイア)は、カナダ・オンタリオ州トロントを拠点に活動するバンドで、2014年EPリリースしデビュー。Emo/Screamoの要素とクラシックやオーケストラの要素を融合させた独自のスタイルが特徴です。2020年にはデビューアルバム『Black Line』を発表。

2024年発表されたのがセカンドアルバムとなる『Hiraeth(失われた郷愁)』。3年以上の制作期間を経て完成され、メンバーの移住や物理的な距離の制約を乗り越えて制作されました。アルバムの内容は、移民としての自身の問題や危機感、故郷や帰る場所への哀愁など、多様な感情が反映されているそう。

本作の特徴はどこか暖かみがあるメロディと音響。ボーカルスタイルはスクリームなのですが音像全体としてはけっこう耳触りが良くインディーズロック感がある。2020年代のエクストリームミュージックの表現として個人的嗜好に刺さります。スクリームの激烈なシーンとトランペットとかの静謐なシーンもいいんですよね。演奏の整合性も高く、プロダクションも良好。多様な要素が不自然ではなくまとまっているのは凄い。

日本のバンドであるenvyやMONOからの影響もあるそうで、2018年にはenvyのトリビュートアルバム『Envy/Love』に参加し、「Go Mad And Mark」のカバーを収録しています。確かにMONOに通じるところがあるかも。カナダのバンドなんで同郷やボストン音響派、ポストロックの影響も感じます。

TENUE / Arcos, bóvedas, pórticos

こちらも同じランキングで知った作品。テヌエ、とバンド名は読むそう。スペイン、ガルシア地方のバンドです。ネオクラスト、というサブジャンルに分類されており、クラストコア(Crust Punk)から派生したジャンルでクラストコアのDIY精神とハードで荒ぶった非商業的なサウンドを引き継ぎつつメタル、ポストハードコア、スクリーモなどの要素を取り込み、初期クラストコアに比べるとメロディアスにしたもの。本作はまさにその通りの音像で、メタルのリフ、ハードコアの激情、そして抒情的なメロディが融合しています。欧州ヘヴィメタルの遺伝子も感じつつ、メタルが陥りがちな類型化、形骸化をハードコアの精神で打ち破っている。ハードコアってフレッシュさが命ですからね。鮮烈さ、新鮮さ、生命力。

バンドについての情報。TENUE(テヌエ)は、スペイン・ガリシア地方出身のネオクラスト/激情ハードコアバンドで、2017年から活動中。彼らの音楽は、クラストハードコアを基盤としながらも、インディーロックやアンビエント、ボサノヴァなど多彩な要素を取り入れ、独自のサウンドを展開。ハードコアらしく歌詞は社会的・政治的なテーマを扱っています。

2024年9月27日、最新アルバム『Arcos, bóvedas, pórticos(弓形、穹窿、柱廊)』をリリース。全5曲ながら一曲が長く、全36分の構成。ネオクラストと激情ハードコアのエモーショナルな要素を融合させつつ、トランペットやアコースティックギターを取り入れるなど、音楽的な幅を広げています。特に、序曲である「Inquietude」は9分間にわたる壮大な楽曲で、バンドの情熱と創造性を強く感じさせます。

Kylmyyteen / Kuihtuneen maan tuuli

べチェさんの年間ベストより。フィンランド現地ならではの音楽情報が希少なnote。ここ数年、フィンランド音楽と波長が合うんですよね。

簡単にバイオを。Kylmyyteenは、フィンランドのタンペレ出身のアトモスフェリック/フューネラル・ドゥーム・メタルバンドです。彼らのアルバム『Kuihtuneen maan tuuli』は、2024年4月4日に自主制作でリリースされました。 

このアルバムには以下の4曲が収録されており、全体の再生時間は約48分31秒です。
1. Siipi – 14:36
2. Liekki – 11:57
3. Tomuun hautautunut – 9:51
4. Yksin kuljen tien – 12:07

見ての通り、一曲が長く、ドラマ性もじっくりと長尺。同郷のSwallow The Sunにも近いですがこちらはフィンランド語なのでよりパーソナルというか、非商業的、ただ「表現したいから表現した」純度の高さを感じます。マスを狙い研ぎ澄まして大ヒットしたアルバムも好きだし、パーソナルに掘り下げたゴッホのような作品も好きなんですよね。本作は後者。

とはいえ同時代性を無視してはおらず、独特のアトモスフェリックな重さはMONOやThorにも通じるところあり。自主制作にしてはプロダクションが良好です。テクノロジーの進化で脳内になっている音の具現化はだいぶハードルが下がった気がする。パーソナルな手触りのピュア北欧ドゥームメタルを求める方は聴いて欲しい作品。

Uncle Acid & The Deadbeats / Nell’ Ora Blu

UKのドゥーム/プログレッシブバンドによる怪作。70年代のイタリア映画の架空のサウンドトラックのような作りで、タイトルはイタリア語(歌詞は大半が英語で一部イタリア語)。ドゥーム系の老舗Rise Aboveからのリリース。全19曲77分。サイケでメロウな音像が目立ち、70年代感が心地良い。タイトルはイタリア語で「青い時間」という意味。もともと2018年のWastelandというアルバムに収録された異色の一曲であったが本作はそこからアルバムにまで着想が広がったらしい。サイケ、ドゥーム、叙情プログレ好き嗜好に刺さる一作。

Liniker / Caju

ブラジル音楽。現地でもかなり評判が高いらしく、確かに洗練度合いが高い。読み方は「リニケル」が日本語表記のよう。声は男性的だが生物学的には女性。トランスジェンダー。ブラジル音楽らしいリズム、ボサノバ的な畳み掛けるボーカル、ただブラジル的なジャジーなコードではなくもっと馴染みやすいコード展開が多い。Frank Oceanとブラジル音楽が出会ったような。それでいて欧米を真似ているような陳腐さがないのは単純に王道かつ良い曲なのだろう。1995年生まれ、2015年活動開始。29歳。ブラジル音楽の文脈を越えて普遍的なロック、コンテンポラリーR&Bの名盤になりそうな完成度。

Fellowship / The Skies Above Eternity

UKメタル界の新星、フェローシップのセカンドアルバム。類型化しやすいメロパワでありながらこのバンドの特異性はとにかく陽性なこと。プログレ畑ではあるがMoon SafariのLovers Endのひたすら陽性なメロディの奔流にも近い。一番近いのはアニソンかもしれない。80年代、90年代の複雑化する前のアニソンのアッパーな感じをそのままパワーメタル化した感じ。

コード展開やメロディが明るいのもあるが、リズムが跳ねているのも特長。ドイツのバンドは基本的にメトロノームかドラムマシンのようにかっちりしているが特徴だが、このバンドは弾んでいてポップとも言えるパターンが取り入れられている。ボーカルも線が細めでStratvarius的。まあUKもほぼ北欧ですから。聴いていて明るい気分になるメロパワ。

Poppy / Negative Spaces

もともとアイドルというかYouTube発のインフルエンサーみたいなアーティストだったと思う、カナダのPoppy。数年前に突如Kawaii Metalに接近し、Babymetalオマージュみたいなアルバムを出したがそこからメタル路線を掘り下げていたらしく今ではかなり本格的なグロウルを披露している。ライブ映像を見て驚いた。

本作はオルタナティブメタルの名盤というか、なんだか異常なほど00年代初頭の匂いがする。20年ぐらい前の作品と言われても納得する。もちろん音響とかはモダンなのだけれど、「あの頃の空気感」があるのだ。新譜としてどうなの? というのはあるが、00年代初頭を代表するリンキンも復活したし、00年代リバイバルが本格化するかもしれない。その中ではかなりあの時代の本質に肉薄した作品だと思う。今の時代にこの音を出している若手アーティストという独自性。Spritboxと(あの頃の)Evanessenseが混ざったような。モノマネに終わらない完成度にまで高まっているのが不思議かつ見事。

Arise In Stability / 潜性思積 / Recessive Thoughts with Mass

他はアルバムだがこれだけシングル、二曲入り。シングルなのに選んだのはそれだけ衝撃的だったから。めちゃくちゃツボにハマった。一曲目が素晴らしい。

日本語の響きが素晴らしく、演奏もテクニカルメタルコアとして一線級。音響面ではさすがに欧米トップクラス(上にあるUlcreateとか)には及ばないが、日本のメタル特有のインディーズ感はかなり薄く違和感なく聴ける。過去作と聴き比べても本作は凄い進化。歌詞も無駄に意味として入ってこず断片的でカッコいい。ヌンチャクとかダッフルズ好きだったんですよ。P-Model、平沢進感もある。何言ってるか分からない感じ。だけど日本語なのは分かる。ちょっと読経にも聞こえて不思議な音楽体験。このクオリティで曲が揃えられたらフルアルバムがめちゃ楽しみ。メロディアスなパートも思い切ってメロディアスだし、圧倒的にユニーク。

English Teacher / This Could Be Texas

2024年マーキュリープライズ受賞作。ポストパンク、ギターロックなのだけれど感覚が新鮮。本作がデビュー作で、デビュー作らしい初々しさがあります。ボーカルが女性。ボーカル以外は男性の四人組。ちょっとドリーミーでサイケなところもあったり、Dry Cleaning的なポエトリーリーディング的なところもあったり。シンプルで少ない音数で曲をしっかり組み立てておりスリリング。歌詞をしっかり訴えるスタイルなので歌詞を見ながら聞くとより楽しめる。ミニマルな反復の中に不思議な抒情性があり、沁みる。


あとは、過去に個別レビューを書いた(=良い作品だと思った)アルバム4枚を載せておきます。書きたいことは過去に書いたので追記なし。

Judas Priest / Invincible Shield

Wintersun / Time Ⅱ

Linkin Park / from zero

THY CATAFALQUE / XII: A GYONYORU ALMOK EZUTAN JONNEK

それでは良いミュージックライフを。

いいなと思ったら応援しよう!