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キャリアの長いアーティストをどこから聴くか
みうらじゅんさんだったかなぁ、「ボブディランは自分と同じ年の時に出したアルバムから聴け」みたいなことをどこかで読んだ記憶がありまして、これってキャリアの長いアーティスト全般に当てはまると思います。
例えば桑田佳祐。桑田は1956年生まれなので、そこから各アルバムの年齢を出していきます(誕生日まで考えると煩雑なので年のみでシンプルに)。
22歳 : サザンオールスターズ「熱い胸さわぎ」
23歳 : サザンオールスターズ「10ナンバーズ・カラット」
24歳 : サザンオールスターズ「タイニイ・バブルス」
25歳 : サザンオールスターズ「ステレオ太陽族」
26歳 : サザンオールスターズ「Nude Man」
27歳 : サザンオールスターズ「綺麗」
28歳 : サザンオールスターズ「人気者で行こう」
29歳 : サザンオールスターズ「Kamakura」
30歳 : Kuwata Band「Nippon No Rock Band」
32歳 : 桑田佳祐「Keisuke Kuwata」
34歳 : サザンオールスターズ「Southern All Stars」
34歳 : サザンオールスターズ&オールスターズ「稲村ジェーン」
36歳 : サザンオールスターズ「世に万葉の花が咲くなり」
38歳 : 桑田佳祐「孤独の太陽」
40歳 : サザンオールスターズ「Young Love」
42歳 : サザンオールスターズ「さくら」
46歳 : 桑田佳祐「Rock And Roll Hero」
49歳 : サザンオールスターズ「キラーストリート」
55歳 : 桑田佳祐「Musicman」
59歳 : サザンオールスターズ「葡萄」
61歳 : 桑田佳祐「がらくた」
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22歳から還暦まで、幅広い時代、経験が音楽に反映されています。リリース年で見るより、年齢で見た方が身近な感じがしませんか。そして同時に年齢で見ることで人生が見えてくるし、たとえば「駆け抜ける20代」「立ち止まる30代」「振り返る40代」「挑戦の50代」とか、自分の人生に重ねて物語を読み解いてみることもできます。
音楽というのは表現の一つでありつきつめればプレゼンテーションの一種です。演説と同じように聞き手に何らかの行動を促す物もあれば、そうでないものもあります。たとえば「演歌」はもともとは演説歌で、明治期には街角で自由民権運動の弁士が歌うものでもあった。選挙演説というか、確かに知らない人がいきなり着て話をするより、同じ節回しで歌の形式にした方が耳を惹く。風刺、皮肉といった不満のガス抜きからより具体的な革命の扇動まで、民衆革命、民主主義のうねりが世界に波及した19世紀以降、歌による革命というか「歌と一体化した演説」によって人々は団結し、鼓舞し、活動していく。方向性は違いますが軍歌も同じ効用があります。同様にラブロマンスや青春といった映画や小説的な情景も描かれるようになる。日本だと俳句や短歌の流れというべきでしょうか。そうしたさまざまなテーマをさまざまな国の、さまざまな年代の人々が音楽を用いて表現していて、「音楽家」「ミュージシャン」というわけです。だから、音楽を聴くというのはつきつめれば「その人(演奏者なり作者なり)の話を聞く」ということに近しい。
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で、年を取るにつれて「新しい音楽をなかなか聴かなくなる」という現象が起きがちですが、それは「似たような話を過去に聞いたことがある(から興味が惹かれない)」とか、「若い人の話ばかり聞いていても共感できない」とか、「そもそも音楽以外の方法で様々な人の話を聞けるように(聞かなければならなく)なった」とか、そういうことが起きるわけですね。だから、なるべく幅広い世代、世界、文化の人の話(≒音楽)を聴くのが面白いと思います。自分に近い年代だけれど違う文化圏で生きている人はどんな音楽(話)をしているんだろう、とかね。
もう二組、年齢と作品を調べておきましょう。まずはジョンレノン。ジョンレノンは1940年生まれです。
23歳 : ビートルズ「プリーズプリーズミー」
23歳 : ビートルズ「ウィズザビートルズ」
24歳 : ビートルズ「ハードデイズナイト」
24歳 : ビートルズ「ビートルズフォーセール」
25歳 : ビートルズ「ヘルプ!」
25歳 : ビートルズ「ラバーソウル」
26歳 : ビートルズ「リボルバー」
27歳 : ビートルズ「サージェントペパーズ」
28歳 : ジョンレノン&オノヨーコ「トゥーバージンズ」
28歳 : ビートルズ「ビートルズ(ホワイトアルバム)」
29歳 : ビートルズ「イエローサブマリン」
29歳 : ジョンレノン&オノヨーコ「ライフウィズザライオンズ」
29歳 : ビートルズ「アビーロード」
29歳 : ジョンレノン&オノヨーコ「ウェディングアルバム」
30歳 : ビートルズ「レット一トビー」
30歳 : ジョンレノン「ジョンの魂」
31歳 : ジョンレノン/プラスティックオノバンド「イマジン」
32歳 : ジョン&ヨーコ/プラスティックオノバンド「サムタイムインニューヨークシティ」
33歳 : ジョンレノン「ヌートピア宣言」
34歳 : ジョンレノン「心の壁、愛の橋」
35歳 : ジョンレノン「ロックンロール」
40歳 : ジョンレノン&オノヨーコ「ダブルファンタジー」
(享年40歳)
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よく言われますが、ビートルズは「20代の若者たち」なんですよね。前期は年相応に若々しいですが、中期~後期とどんどんビジュアルが仙人化していき、音楽性も一気に進化/深化していくのでもっと年上の印象も受けますが20代のバンド。人生を駆け抜けて行きます。
最後はスティーブハリス。アイアンメイデンの司令塔ですね。スティーブハリスは1956年生まれです。
24歳 : アイアンメイデン「鋼鉄の処女」
25歳 : アイアンメイデン「キラーズ」
26歳 : アイアンメイデン「魔力の刻印」
27歳 : アイアンメイデン「頭脳改革」
28歳 : アイアンメイデン「パワースレイブ」
30歳 : アイアンメイデン「サムホウェアインタイム」
32歳 : アイアンメイデン「第七の予言」
34歳 : アイアンメイデン「ノープレイヤーフォーザダイイング」
36歳 : アイアンメイデン「フィアオブザダーク」
39歳 : アイアンメイデン「Xファクター」
42歳 : アイアンメイデン「ヴァーチャルイレヴン」
44歳 : アイアンメイデン「ブレイブニューワールド」
47歳 : アイアンメイデン「死の舞踏」
50歳 : アイアンメイデン「戦記」
54歳 : アイアンメイデン「ファイナルフロンティア」
56歳 : ブリティッシュライオン「英吉利の獅子」
59歳 : アイアンメイデン「魂の書」
63歳 : ブリティッシュライオン「ザバーニング」
65歳 : アイアンメイデン「戦術」
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こうした年表にアーティストの個人史(結婚、出産、死別など)やバンド史(解散、脱退、再結成など)、社会史(バブル崩壊、オウム、同時多発テロ、大震災、ブレクジットなど)も対比してみるとより物語が見えてきます。
音楽というのは解釈が聞き手にゆだねられている部分が大きい。映画や小説も受け取り方に多様性がありますが、音楽はより自由です。特に「この時はこんなことがあったからこの歌詞なのかな」とか「こういう出来事があったからこういう音像なのかな」というのは、聞き手がどこまで情報を持って物語を「見立て」るか。その見立てによってある程度自由に変化します。だから自分自身を重ねやすいし、様々な人生の出来事をシミュレーションし多様性に触れることもできる。敷居は低く、単に聞き流すだけでも十分楽しい(イスラム教では音楽自体が「快楽」とされています)ですが、そこからさらに自分なりの見立てを作っていくことでより深く楽しむことができるでしょう。「年齢」という切り口はそんな一助になると思います。
それでは良いミュージックライフを。
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