Iron Maiden / The Future Past World Tour 2024 9/26,28@ tokyo,yokohama
ついに来ました、Iron Maiden来日。2020年の来日公演がコロナ禍で延期となり(確か5月ぐらいだったから本当に直前になってキャンセル)、涙を飲んだ後、思い立って2022年ドニントンまで見に行ってしまって以来のメイデン。今回は横浜と東京、2公演行ってきました。同一アーティスト、同一ツアーで2回見たのは人生初。UK行くより安いなぁ、と感覚がマヒしていたので、、、。
今回のツアー、1年以上前から告知され、チケット販売もだいぶ早かったはず。ファンクラブ先行でとりましたが、去年の10月ぐらいだったような…。こんなに先のチケットを取ったのも初めての経験でした。東京、横浜(28日)はソールドアウト。満員の客席。
さて、2公演見ての感想をいくつか。
所感
・会場ごとの音響差
:東京(ガーデンシアター東京)と横浜(ぴあアリーナMM)は音響の違いがあって、ガーデンシアターはボーカルが前面に出て低音がやや弱め、MMは低音が響く、という違いを感じた。なので、ガーデンシアターの時は「ブルースは今日めちゃくちゃ調子いいな! ニコはなんかおとなしいな」と感じ、ぴあアリーナMMでは逆の印象を。会場の音響差をはっきり感じたのは初(同一アーティストを近い日程で聞き比べたことが初なので)、けっこう影響あるんですね。
・客層について
:基本は中高年男性が多いんだけれど、ところどこ若い人、特に若い女性もわずかだがいた。ファンが新陳代謝している。レッチリのファン層にも少し近いかも。なお、海外から来てるファンも多かったけれど、こちらは家族ずれ、親子連れ(父ー娘パターン)も多かった。これ、ドニントンでも同じ。メイデンってUKにおいては日本で言うサザンみたいな「国民的バンド」、家族で観に行ける(=子供世代にも響くものがある)ようなバンドなんじゃないかと思っています。
・セットリストについて
:今回のツアーは最新作である「Senjutsu(2021)」と80年代の「Somewhere in Time(1986)」の2作を中心に曲が選ばれています。だいたい、再結成後のメイデンは「最新作からの曲を中心にするツアー」と「代表曲ヒットツアー、または、過去の特定の期間をテーマにしたツアー」を交互にやることが多いのだけれど、本作はその両方が混じった例外的なツアー。これは「Senjutsu」のリリースがコロナ禍と被ったため、コロナ前から開催中だった「代表曲ヒットツアー」である「Legacy Of The Beast」ツアーが延期となり、Senjutsuリリース後も続いたため。なので、コロナで中断後、再開されたLegacy Of The Tourでは一部Senjutsuからの新曲も演奏されるという変則的なものに(2022年のダウンロードで見たのもこれ)。で、その次のツアーである今回のThe Future Past World Tourは本来ならSenjutsuをフューチャーしたツアーとなる順番だが、一部の曲をLegacy Of The BeastでやってしまっていたためそこにSomewhere in timeが組み合わさるという変則的な内容だったのです。
これが非常に良かった。今回の「Future Past」というのは「今のアルバムと過去のアルバムをやるから未来・過去なのかな」と思っていたんですが、選ばれた曲自体が「未来をテーマにしたもの」と「過去をテーマにしたもの」が多かった。各曲については後述しますが、ああ、だからこのタイトルなんだとライブを見た後納得。時間を自在に飛び回るようなストーリー性のあるライブで、メイデンが昔から標榜してきた「演劇的、物語性のあるステージ」が曲も含めて高いレベルで結実していて感動しました。
・ステージングについて
:さすがに各メンバー、写真とか見るとルックスは老けてきている(65も超えてるし)んですが、実際にステージ上で見るとめちゃくちゃよく動く。ブルースとかずっと走り回っているし、声も出ているし。また、ステージ上に6人いるわけですがそれぞれがそれぞれと絡んだり、とにかくステージ上で起きる出来事の量が多い。劇団四季みたいな、ステージ全部で小さなドラマが動き続けている感じ。これはライブ会場でないと味わえないものです。映像だとどうしてもカメラが注目したところしか見れないですからね。
個人的に、ライブでバンドの人間関係が垣間見えるのが好きです。これはスマスマをみてSMAP間の人間関係とか、そういうのを推測するのに近い。ジャニーズ好きな人って「AとBは仲が良くて、それを見守るC」みたいな話好きじゃないですか。僕にとってそれがメイデンだったりハロウィンだったり、まぁメタルバンドになるわけです。もう30年ぐらい(一方的とはいえ)知っている人たちだし。どんな人生を送ってきているか、ある程度知っている。今回は、1日目(東京)はブルースはスミスによくちょっかいをかけていました。2日目(横浜)ではブルースはガーズとの絡みが多め。これ、ブルースのことだから日によって相手を変えたりしているのかも。けっこうステージングを計算してやる人ですからね。ちなみにブルースはハリスにだけはちょっかいをかけません。マーレイにもそんなにからまないけれど時々はちょっかいを出しています。ちょっかいというのは肩をたたいて逆方向に逃げるとか、ギターのシールド(線)を引っ張るとかギターソロしてる時にまわりでうろちょろするとかそういうもの。ハリスには昔から一切絡まないんですよね。仲が悪いというわけではなく、リーダーだから一目置いている、みたいな感じなのでしょう。プレイヤーと監督、的な。
あと、ステージ上で6人がけっこう定期的に入れ替わる、サッカーのフォーメーションみたいな。ステージ左に4,右に1、あるいは逆、とか。ドラム(真ん中)だけは不動ですが、それ以外だとかならずどちらかに1名は残りつつ、定期的に全員で動く、入れ替わるみたいなことをします。これはハリスがサッカー好きなのもあるかもしれない。で、曲にとってギターケーブルも有線だったり無線だったり。左右のポジションを入れ替えるのは有線だと絡まったりしますからね。計算されたアクション。この辺りのフォーメーションによるステージ上の動きはメイデンならではのもの。年齢を感じさせない素晴らしいステージングでした。Nex_FestでみたBMTHの感想で「大きいステージの魅せ方がこなれていない感じ」と書いたのですが、彼らも次代UKメタル界を背負うならメイデンからステージングも受け継いでほしいところ。メイデンのメンバーってそれぞれの絡みもそうだし、一人一人のパフォーマンスを見ても、どの瞬間を切り取ってもサマになっているんですよね。ポージングとか。40年間ロックスターをやっていることによる職人芸。
・物販について
:Tシャツ8000円! 知る限り過去最高値のバンTです。ただ、両面フルカラーでばりばりプリントされているので、まぁそれを考えれば相応、、、かも。ボディはGildanですが、ボディなんてそこまで変わらないし、プリント費用が大きい。片面だけ、ほぼ単色で4000円とか片面だけで5500円とか普通にあるので、両面ゴリゴリで8000円というのはまぁギリギリ納得感はある、、、のかも。日本独自Tシャツはこれのために書き起こされたオリジナルデザインだし。
意外だったのが全公演ですぐ売り切れたビアクーラー。MegadethやHelloweenでも湯呑が出てすぐ売り切れていたし、なんか「飲み物カップ系」は人気? まぁ、それほど売れると思わなくて生産数が少ないのもあるのでしょうが。毎回最初にこれ系のグッズが売り切れる気がします。
セットリスト
セットリストを見ていきましょう。1曲ごとに簡単に
オープニングSE:
Doctor Doctor(UFO song)
Blade Runner (End Titles)(Vangelis song)
この2曲はSE。ドクタードクターはここ数年のメイデンライブのオープニングの定番ですね。みんな合唱するほどなじみの曲に(もともとの曲が知名度高いですが)。バンドが出てくる前から合唱が始まるのはメイデンぐらいしか知らない。この曲がメイデンの元型の一つなのでしょう。ルーツへのリスペクト。UKのハードロックバンド、UFOの1974年の曲。オリジナルのギタリストは当時19歳のマイケルシェンカー。
ブレイドランナーのテーマは1曲目につながっていきます。
本編:
1.Caught Somewhere in Time
Somewhere in time(1986)のオープニングナンバー。ブレードランナーのテーマから続いて演奏。ブレードランナーのオープニングの照明がいかにも80年代的なタイムマシン(ディズニーランドにあったキャプテンE.O.的なカラーリング)カラーでワクワク感を醸成してからのバンド登場でボルテージが上がる。最初のツインリード、ギターメロディのリフから印象的。ブルースの声も出ているし、演奏もタイトでした。
この曲はタイムマシンについての歌。『Somewhere in time』というイギリスでは有名なラブコメ映画があるそうですが、それとは当然無関係で、こちらは『Time After Time』というジャックザリパー(切り裂き魔ジャック)がHGウェルスのタイムマシンを盗み、それを追ってウェルスが時間旅行をする、というSF映画を基にしたもの。歌詞はタイムマシンの発明者=時間を司るウェルスの視点なのでブリッジは「Time is always on my side(時間はいつも僕の味方)」であり、サビは「Caught somewhere in time(時間のどこかで捕まえる)」になります。今回の「Future Past」のテーマにふさわしい、旅立ちのオープニング。作曲者はハリス。
2.Stranger in a Strange Land
それまでのメイデンにはあまりなかった感覚のリフが耳を惹く曲。Somewhere in time収録曲です。1986年のメタル史でSomewhere in timeを取り上げるのであまり曲詳細には触れませんが、スミスの個性・色が爆発したアルバムであり、曲です。タイトルの通り奇妙「Strange」な感覚がある曲ですが、この曲は実はSFテーマではなく北極探検の歌。
曲名はアメリカのSF作家、ロバートハインラインの「Stranger in a Strange Land(異星の客:1964年)」から取ったと思われますが、内容は北極探検に行き、全滅した1845年の英国のフランクリン遠征と、そこから時間を経て再び北極探検に行った男の話(実際にスミスは北極探検経験者から話を聞き、この曲を書いたそう)から成り立っています。
だからコーラスも「Stranger in a strange land(見知らぬ土地の異邦人)Land of ice and snow(氷と雪の国)Trapped inside this prison(この牢獄に閉じ込められ)Lost and far from home(故郷から遠く離れて迷子)」と、雪や氷が出てくる。なので、「過去の曲」ですね。ここでステージ上ではエディがちょっと出てきます。帽子をかぶったバージョン。スミス作曲。
3.The Writing on the Wall
曲としては急に新しくなり、Senjutsu(2021)から最初にシングルカットされたナンバー。メイデン流ストーナーロック、デザートロックで砂漠のMVと共に乾いた感じ、酩酊する感じがある曲。そこにメイデン(英国)らしいケルト風味が加わっているところが特異。
曲のテーマとしてはダニエル書第5章に記されたベルシャザールの饗宴の物語と、創世記のアダムとイブ、ヨハネの黙示録の黙示録の四騎士の物語を混ぜたもので、「非常に古い過去の話」と言えます。スミスとブルースのコンビ作曲。こうしてみると次々と舞台が切り替わっていきますね。なお、ブルースによると映画版マッドマックスもイメージしたそう。確かにMVはマッドマックス的でしたね。
4.Days of Future Past
こちらもSenjutsuから。短くて勢いのある曲。この曲はDCコミックスのヘルブレイザーシリーズを原作とした映画コンスタンティン(キアヌ・リーブス主演)をモチーフにした曲。未来でも過去でもなく「架空の現代」を描いたものですね。この曲は「未来・過去・タイムトラベル」というツアーコンセプトから選ばれたというより、「Senjutsuからのライブで演奏すべき新曲」という視点で選ばれた曲ですね。ブルース・スミス作曲。
5.The Time Machine
Senjustuからの曲、1曲目と同じくタイムマシンをテーマとした曲で、長年時空を旅する男の独白。あまりに多くを見てきたが自分はただの人間であり、どのように伝えればよいのか、あなたには想像もつかないだろう、と歌う曲。この曲の中では具体的な出来事は語られませんが、今回のツアーではまさにこの曲の主人公が体験したさまざまが物語られている、とも取れます。今回のツアーのコンセプト、テーマを体現したような曲。この曲の前にはブルースが長めのMCで「時間を旅するとはどういうことか」みたいなことを言っていました(英語で早口なので僕の語学力ではその程度しか聞き取れず)。ただ、MCが長かったのでこの曲が今回のセットリストの中で重要な曲であることは感じました。
アルバムを聴いていたときはそれほど特別な感傷は感じなかった曲ですが、改めてライブで聞くといい曲。雰囲気のある曲でした。ガーズとハリスのコンビ曲。今回のライブでもガーズは積極的にハリスに絡んでいっていたし、今のハリスの作曲面のメインパートナーはガーズですね(ハリス+ガーズの共作曲は近年かなり増えている)。
6.The Prisoner
ここでいきなり雰囲気が変わり、ブルース加入1作目であるThe Number of the Beast(1982)からのナンバー。ギターソロこそメイデン的ではあるものの、メイデンにしてはパンキッシュというかシンプルな曲。歌メロもヴァースは朗々と歌い上げるというより単語を吐き捨て型で、コーラスのキャッチーさ以外はあまりメイデンらしくない曲ですが最初の語りのSEは印象的。UK
のテレビ番組(The Prisoner:プリズナーNo.9 1967年)が元ネタで、そこでは人が番号で管理される管理社会。近未来のディストピア的なテーマですね。「未来」の話。スミス&ハリスコンビの曲です。多分ライブの箸休め的な立ち位置の曲。一緒に歌えるサビもあるし。
7.Death of the Celts
Senjutsuからのナンバー。10分を超える大曲で、アルバム最後を飾る「ハリス単独曲かつ10分超の曲3連発」の一つ。テーマはケルト人の戦い、ウェルキンガトリクス率いるケルト人がカエサルに敗れたアレーシアの戦いについて歌ったもの。これによってガリア人国家が滅び、独立国家としてのケルト系国家は滅びます。だからテーマも「ケルト人の死」。この曲の前にブルースがMCで「文化や言語といったものを滅ぼしてはならない、これは深刻な話だ」と語った後で始まったこの曲。実際、ケルト人国家は滅びましたがその後のUKの歴史、文化には多大な影響を及ぼし続けていますし、メイデンはケルト人文化に歌詞テーマおよび音楽的(ケルト音楽)な影響を受けています。史実に基づいた「過去」の話。
なお、「ケルト人」と言っていますが、ここでのケルト人はガリア人。今のフランスあたりを勢力圏としていた人たちで、正確にはケルト語族の中の一派がガリア人です。ケルト語族の中で最大の勢力を誇ったのがガリア人。いわゆるブリテン、イギリスに住んでいるケルト人とは文化・言語は同じだけれど人種的には少し違うという説も。アレーシアというのはフランスにあった都市とされています(場所については諸説あり)。ハリス作。
8.Can I Play With Madness
コーラスから始まる印象的な曲。Seventh Son Of A Seventh Son(1988)からのナンバー。これは特に今回のコンセプト「未来・過去」とはつながっていないですね。H.Pラブクラフト(クトゥルフ神話の生みの親)の短編から着想を得た曲だそう。人気アルバムからの人気曲、ライブの盛り上がりを考えて代表曲も演奏した、ということでしょう。大合唱が起きる曲。やっぱりメイデンライブでは合唱もしたいですからね。80年代にしては珍しい(00年代以降は急増する)ハリス+ブルース+スミスの3人共作曲。
9.Heaven Can Wait
Somewhere in timeからのナンバー。これもライブの定番曲で合唱が起きる曲ですが、比較的演奏回数は限られているのでレアと言えばレアな曲。サビは「Heaven Can Wait」と繰り返すのですが3回目のベースラインがずれているように聞こえる面白い曲。不協和音を取り込んだ曲であまりロックだとこういう和音は使われないですね。こちらも「人気がある合唱曲」で選ばれたと思われ、「未来・過去」とはあまり関係がない内容。同名の1943年のコメディ映画がもとになっており、死んで閻魔大王のもとに送られた男が「自分は地獄行きだと思います」と自分の人生を語りだす。女癖が悪かった自分は地獄に落ちるのだ、、、と思い語っていた男と裏腹(実際に女癖は悪い)に、実は男の人生は大変充実していて、多くの人から愛されていた。そして最後に閻魔大王が「天国であなたを待っている人がいる」という内容。この曲の歌詞もそのままです。少しコミカルで明るい感じが(メイデンにしては)あるのはこの元映画の影響か。作曲はハリス。
10.Alexander the Great
Somewhere in timeから。今回のセットリストの核となる8分越えの大曲の一つ。ライブで演奏されるのは本ツアーが初となる曲です。ハリス曰く「当時のツアーでもやろうという話はあったのだけれど、当時はセットリストに(13分に及ぶ)rime of the ancient marinerが入っていて、大曲2曲は多すぎると思ってやめたんだ、今回のツアーでできるのがうれしいよ」とのこと。この辺りのバランス感覚は流石ですね。ちなみに今回のツアーはこの曲に加えて10分越え2曲(Death of the Celts、Hell on Earth)もやっているので、それだけの大曲をセットリストに組み込んでしまえる今のメイデンは大曲志向が強まっているのでしょう。観客も慣れてきているし。でも、こうしてみると長い曲が多いチャレンジングなセットリストでしたね。
タイトルの通り、アレクサンダー大王をテーマにした曲。かなり史実通りというか、アレクサンダー大王の人生を史実通りに称えた歌で誕生から死までを歌う伝記ソングとも言えます。過去の史実を扱うときはだいたい何かの戦いとか、一つの出来事を取り上げるので一人の人物の人生をまるまる歌った歌はメイデンの中では珍しい。これは「過去」を描いた曲ですね。今回のツアーのコンセプト上重要な位置づけと感じた曲。個人的にはライブの大曲3曲がハイライトでした。作曲はハリス単独曲。
11.Fear of the Dark
ライブの定番。同名アルバム(1992)からのナンバー。この曲はリリースされてからずっとライブで演奏されています。メイデンライブに行くと「必ず」演奏される曲は2曲しかなく、この曲はそのうちの一つ。メイデン史において重要な曲なのでしょう。あまり今回のツアーコンセプト云々とは関係ない曲。ハリス単独曲。
12.Iron Maiden
こちらが「必ず演奏される曲」2曲目。デビュー前から存在する曲なので、メイデンのライブで「必ず演奏されてきた」唯一の曲です。Fear Of the Darkは80年代には存在しなかったので。曲の途中でエディが出てくるのもお約束。今回は侍バージョンのエディでした。後、曲の後半には巨大なエディの頭がステージ後方に。ここで大盛り上がりで本編終了。
アンコール:
13.Hell on Earth
短めの休憩を経てアンコール。アンコール1発目から10分越えの大曲という攻めた内容ですが、この曲はとにかくパイロが派手。イントロに合わせて炎が吹き上がりまくり、10分超の大曲への集中力を高めます。長い曲って聞く方も集中力がいりますからね。アンコール前に休憩を入れて回復させて、かつパイロで演出を派手にして興味を惹く見事な手法。これは今回のセットリストの妙を感じた部分です。
テーマは終末、滅亡について。私たちが作り出している今の世界、互いに対する憎しみと怒りに満ちた世界に対する見解が込められており、私たちが死ぬ時が来たら、私たちはこの地上の地獄からただ逃げ出しているだけなのかもしれない、といった内容だけれど、ある意味「未来の映像」ともとれる。今回のツアーのテーマも感じられた曲。タイムマシンで時空を旅する男は「信じられないものを見た」と語っているので、これがその風景なのかもしれません。改めてライブで聞くと曲の完成度の高さを感じた曲。今回の個人的ハイライト。作曲はハリス。
14.The Trooper
そしてお約束、Piece of Mind(1983)からの定番ナンバー。お約束と言いながら演奏されないツアーもあるのですが(上述した通り「必ず」演奏されるのは2曲だけ)、今回のツアーではここで登場。大合唱が起こります。この曲も「過去」を描いた曲ですね。実際にあった戦い、バラクラバの戦い(1854年)中のイギリスの軽騎兵旅団の突撃について描いた曲です。無謀だが勇敢な行為とされ、イギリス人にとっての一つの故事的なものの様子(→wiki)。作曲はハリス。
15.Wasted Years
ラストソング。Somewhere in timeからのナンバー。歌詞は「無駄に過ごす時間を心配するのをやめて今を最大限に生きなさい」的なテーマ、いわゆる「Carpe Diem(今を生きろ)」ですが、これは未来、過去と時間をテーマにした本ツアーにおいて最後に「今を生きろ」というのは素晴らしい。見事なストーリーを感じます。
シングル盤のビジュアルもツアー中要所要所で使われていたし、この曲が演奏されている間、メイデンの歴史を振り返るようにさまざまな時代のエディがスクリーンに映し出されていたし、そうした歴史、過去、(そして未来)を旅したうえで、「今を生きるんだ」というテーマはライブの結末として最高でした。いやー、感動。
エンディングSE:
Always Look on the Bright Side of Life(Monty Python song)
ニコが一通り観客とコミュニケーションした後、会場内にはモンティパイソンのテーマが流れて終演。この曲もメイデンライブの終演後に流れる曲としては定番ですね。オープニングとエンディングの曲をSE含めて固定しているバンドはかなり珍しい、僕が実際に行ったことがあるバンドだとメイデンだけですね。
今まで3回メイデンライブ(A Matter of Life and Death Tour(2006年)10/28国際フォーラム、SOMEWHERE BACK IN TIME WORLD TOUR 08(2008年)2/16幕張メッセ、Legacy of the Beast(2022年)6/11Download Festival UK)を見てきたけれど、今回のセットリストは非常に演劇的、ストーリー的にも完成度が高いものでした。コンセプトアルバムを丸頃演奏した特殊なツアーだった「A Matter of Life and Death Tour」より今回の方がセットリスト全体の統一感があったと感じるほど。時間、過去、未来というのはメイデンが長い歴史を通して一貫して追ってきたテーマをくくる素晴らしいキーワードだったのだと感じます。いいライブだった。
9/29 ぴあアリーナMM公演の模様
それでは良いミュージックライフを。