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大森靖子ライブ@Zepp Tokyo20210602

大森靖子のことを知ったのはこの動画でした。

TIF2013(TOKYO IDOL FESTIVAL 2013)のライブに出演し、アイドルユニットの中でギター弾き語りで完全に浮いている、アウェーの環境の中で歌と音楽の力で観客をねじ伏せていく。この当時、まだインディーズで活動しており、ほぼ弾き語りスタイル。とにかく感情の発露というか、音楽を通じて多様な感情を叩きつけるようなスタイルに圧倒されました。この頃のイメージとしてはかなりアングラな人で、(精神的に)パンクな人というイメージでした。

このビデオに出会ったのは2016年ごろだったでしょうか。そのころ大森靖子はAvexと契約してメジャーデビューし、メジャー2枚目のアルバムとなる「TOKYO BLACK HOLE」をリリースしたころ。そこからキャリアをたどっていき、インディーズ時代も含めて映像や音源には一通り触れてきました。

ただ、どうしても最初の衝撃を超えることはなかった。メジャーシーンの中でアーティストとしての立ち位置を模索しているように感じられ、弾き語りで出てきて風景を塗り替える、最初に感じたアングラでパンクな佇まいが薄れていったように感じていました。「聞いたこと、観たことのない衝撃」を期待してライブに行くけれど、どうしてもライブ・エンターテイメントの予定調和から抜け出せない、そんな感じを受けていました。

スタジオ盤にしてもそうで、盤を経るごとに明らかに作詞作曲能力は向上し、曲のバリエーションやメロディーの練度は向上しているけれど、一聴して耳にこびりつくようなパワーはなくなった。個人的な興味の範疇からは外れつつありました。そのあたりの印象を書いたレビューがこちら。

ライブも失速している気がしていました。ライブっていくつか楽しみ方があると思うのですが、大きく次の4つの楽しみ方があるとします。

1.知っている曲、一緒に歌える曲で盛り上がる:アリーナロックなど
2.とにかくリズム、グルーヴに乗る:EDMやハードコアなど
3.何が起こるか分からない、物語性のあるステージ:歌劇やショックロックなど
4.音楽的な洗練、技巧を楽しむ:クラシックやプログレなど

プロフェッショナルなエンターテイメントとしてのライブは1~4がミックスされていると思いますが、それぞれのアーティストでどこか尖ったところ、一番ウリになるところがある。その中で、大森靖子のライブの醍醐味は3が突出していたように思います。それが最大限に発揮されるのが弾き語りでした。なぜなら弾き語りはリズムも自在だし、曲展開も小回りが利く。「次の予想がつかない」という点で、自由度が高い。逆に、バンドサウンドだと事前に決めておいた曲構成、編曲や曲順からそう逸脱できない。音楽的技巧の高いプレイヤー同士がインプロビゼーション(即興)で演奏する形態もありますが、大森靖子の曲はそうした構造ではない。純粋な音楽的な和音や展開による物語性よりも、言葉と声色と動きを主体とした個人演劇、舞台演劇的な「意表をつく物語」と「強い感情の吐露」によって成り立っているスリリングさが私にとっての大森靖子の醍醐味でした。なので、しっかりとしたバックバンドがついて、スタジオ盤に近い演奏で曲が進行していくライブは個人的にあまり面白味を感じなかった。少しづつバンドサウンドでの感情の吐露や、予想の裏切り方(ライブならではの物語性)を確立している印象はありましたが、まだ醍醐味を出し切れていないように感じていました。

前回、大森靖子のライブを観たのは2018年12月9日(コロナ前)の人見講堂。「クソカワParty」ツアーのファイナル。前回の人見講堂のライブは出来が良く、バンドサウンドでのライブの組み方がこなれてきたなぁ、とは感じましたが、やはり最初に動画を見た時、弾き語りでのインパクトを超えるものではありませんでした。その後コロナ禍もあり、しばらく大森靖子のライブに触れる機会がなくなります。その間に発表されたアルバムも、個人的には「まだ模索中」の印象が強かった。大森靖子への強い興味や関心を再燃させるには至りませんでした。

ただ、今回ライブに行ってみたくなったのは、この動画を見たから。

「何が起こるか分からない、物語性のあるステージ」が進化しているのを感じました。

この前段として、「Re: Re: Love 大森靖子feat.峯田和伸」のDVDに収録されていた「超歌手 大森靖子「伝承3DAYS 2卍LIVE“自由字架"」BEST ACT SELECTION 2019」が良かったんですね。これはyoutubeに上がっていないようなので購入者しか見れないのですが、そこで表現者としての成長というか、一皮むけた感じを受けました。「表現したいもの」をどう表現しきるか、新しい表現力を手に入れつつあるのだな、と。

そして、上記の動画では、スタジオ盤では今一つだった「Kintsugi」からの曲が強い説得力を持って演じられていた。ああ、やはり大森靖子はライブ・アーティストなんだな、と感じました。

前置きが長くなりましたが、そんな内面的経緯を経て観てきた今回のライブ。素晴らしい出来でした。大森靖子のライブに求める要素がすべて詰まっていた。先が読めない緊迫感のあるライブ。間延びしないMC(今回はMCがかなり少なく、ほぼすべて「曲」という形で展開された)。コロナ禍ゆえ、観客が終始無言であったことが、独特の演劇的世界の緊迫感を増幅したのも良かったのでしょう。「大森靖子が表現したいこと」がどんどん形になっていく、複合的な芸術要素がある衝撃的なライブでした。次々と場面が展開し、感情が展開していく。ビデオシューティングも入っていたので、何らかの形で近日中に映像作品としてリリースされるでしょう。アングラ感というか、先鋭的な感覚、自分の内奥にある感情を揺さぶられるような体験。そうしたライブを行える稀有なアーティストです。

それでは良いミュージックライフを。

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