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U.D.O./DIRKSCHNEIDER@渋谷ストリームホール 2023.4.10

行ってきました、渋谷ストリームホール。こんなところにライブハウスができたんですね。リニューアル真っ最中の渋谷ニュービル群の中、スクランブルスクエアを抜けたところにストリームホールがありました。

今日の目当てはU.D.O.ことUdo Dirkschneider。元Acceptのオリジナルボーカリストにして創設者。今日はAcceptの名曲のみをプレイする「DIRKCHNIDER」という名義でのライブです。AcceptとU.D.O.について簡単に説明しておきます。

Acceptは1976年に結成されたドイツのヘヴィメタルバンドで、ジャーマン・メタルのパイオニアの一つ。彼らの成功は1982年のアルバム「Restless and Wild」から始まり、1983年の「Balls to the Wall」で代表曲を生み出しました。ボーカリストの変更を経て、2010年代にも成功を収め、2021年には最新アルバム「Too Mean to Die(→レビュー)」をリリース。世界中で数百万枚のアルバムを売り上げる彼らは、ヘヴィメタルの歴史において重要なバンドです。

U.D.O.は、1987年に結成されたドイツのヘヴィメタルバンドで、名前の通りボーカリストのUdo Dirkschneiderが中心人物です。彼はAcceptを1987年に脱退しU.D.O.を結成しました。U.D.O.は、ヨーロッパを中心に多くの国で成功を収め、特にアルバム「Animal House」や「Faceless World」、「Holy」などがヒット。バンドは一度1992年に活動を停止しUdoはAcceptに復帰しましたが、1996年にU.D.O.を再結成。以降、現在に至るまで活動を続けています。

ストリームホール入口

ストリームホールに近づくにつれて黒Tシャツの人たちが増えてきます。集うメタラー。今日はソールドアウトらしいんですがどうなんだろう。ちなみに年齢層はラウパよりちょっと高めか。Udoってもう71歳(!)ですからね。それなりに経験値を積んだメタラーが集結しています。

Heavy Metalとシンプルに描かれた垂れ幕

ストリームホールはキャパ700人。新しいハコですがライブハウスとしては小ぶりです。僕は150番台だったんですが入場したときすでに半分近く埋まっているように見えました。ソールドアウトということは700名? 本当に入り切るのか心配になります。かなりギュウギュウなのかなぁ。メタルライブってもみくちゃになって汗まみれ、みたいな世界ではありますが今日の客層でそれはどうなんだろう。

開演前、何度も「空間があれば詰めてください、後ろの方のお客様が入場できません」というアナウンスが。みんな譲り合いの精神を発揮するもパーソナルスペースはしっかり確保する感じ。とはいえ、大人の譲り合いが発揮されて無事に収容完了。ライブが始まります。

今回の来日メンバーは以下の5名。

Udo Dirkschneider – vocals (1987–1992,1996–present)
Andrey Smirnov – guitars (2013–present)
Sven Dirkschneider – drums (2015–present)
Dee Dammers – guitars (2018–present)
Special Guest : Peter Baltes – Bass

目玉となるのは元Acceptのオリジナルメンバー、ピーター・バルテスがいるところ。2018年にAcceptを脱退し、今はUdoに合流しています。Acceptのオリジナルドラマーだったステファン・カウスマンもU.D.O.ではギタリストとして活動した後、今もプロデューサーとしてUdoに関わっていますから、元Acceptのメンバー3名がUdoのもとに集まっていることになります。

(追記→日本ツアーの後、4/13にピーター・バルテスが正式にメンバーとしてU.D.O.に参加したそう。日本公演の熱気もピーターの決断を後押ししていたとしたらうれしいですね。)

現在のドラマーのSven DirkschneiderはUdoの実の息子。ほかのAndreyとDeeもかなり若く30代で、Udoと並ぶと親子、あるいは孫と子のようにも見えました。

Udo、Peterのおじいちゃん二人
後ろには息子のSven
若者組3人
ギターは左がDee、右がAndrey
Andreyはちょっとジェイムスヘットフィールド似

この日のセットリストはこちら。

  1. Starlight 『Breaker(1981)』

  2. Living for Tonite 『Metal Heart(1985)』

  3. Midnight Mover 『Metal Heart(1985)』

  4. Breaker 『Breaker(1981)』

  5. London Leatherboys 『Balls To The Wall (1983)』

  6. Neon Nights 『Restless & Wild (1982)』

  7. Princess of the Dawn 『Restless & Wild (1982)』

  8. Restless and Wild 『Restless & Wild (1982)』
    / Son of a Bitch 『Breaker(1981)』

  9. Midnight Highway 『Breaker(1981)』

  10. Screaming for a Love-Bite 『Metal Heart(1985)』

  11. Up to the Limit 『Metal Heart(1985)』

  12. I'm a Rebel 『I'm a Rebel (1980)』

    Encore:

  13. Metal Heart 『Metal Heart(1985)』

  14. Fast as a Shark 『Restless & Wild (1982)』

  15. Balls to the Wall 『Balls To The Wall (1983)』

1st『I'm a Rebel (1980)』から5th『Metal Heart(1985)』までの曲で固められています。役割的にはヨルグ・フィッシャーがDee、ウルフ・ホフマンがAndreyですね。最初のうちはややプレイに硬さが見られたもののだんだんとエンジンがかかってきて後半では華麗なギターソロを決めまくっていました。ここにウルフ・ホフマンがいればなぁ、と最初のうちは思ったのですが、後半はそんなことを忘れさせる熱演。素晴らしいギタリストです。

今のU.D.O.ってかなり状態がいいんでしょうね。新譜も内容が充実していて(→関連記事)、レジェンド世代と若手ミュージシャンのコラボレーションが上手くいっている好例の一つ。以前はUdo以外若手でしたが、今はピーターも加わったのでベテランの凄味と若手のアイデア・熱量が混合するすごいバンドに。

ライブは、コーラスでは大合唱が巻き起こる。ブラインドガーディアンやハロウィンも合唱が起こりますが、そうしたジャーマンパワーメタルの祖がAcceptであることを再認識。Udo不在のAccept(まだPeterはいたころ)を中野サンプラザで観たことがありますが、やはりオリジナル曲はUdoのボーカルの方がいいなぁ。

しかし、改めて思ったのはAcceptってもともとはJudas Priestのフォロワーというか、大好きなんでしょうね。1stだけハードロック色が強く(Judas Priestの「Rocka Rolla」とAcceptの「I'm A Rebel」)影が薄いところまで同じ。「London Leatherboys」なんて完全にJudas Priestへのあこがれだし(彼らはドイツのバンドだからLondonと関係ない)。「Balls To The Wall」のジャケットがハードゲイっぽいのもロブハルフォードを意識したからでしょう。Acceptのメンバーは全員子供もいるので多分ゲイはいない、はず。彼ら自身の内発的なビジュアルではなく、Judas Priest愛が高すぎるが故の攻めたジャケットだったと思います。本家でもここまであからさまなものはないのに。

Balls To The Wallのジャケット
ザHG

彼らの代表曲「Fast As A Shark」も殺人鬼の歌、もっと言えばおそらく19世紀末の霧の都ロンドンを騒がせた切り裂き魔ことジャックザリパーであり、Judas Priestの「Jack The Ripper」と同じテーマです。

霧の中の通り、教会の時計が鳴る 真夜中、闇が辺りを覆う 警戒しろ、気をつけろ 衝撃に備えろ
時は来た、彼こそがその人 君の首筋に息をかける 背後から迫り、今度は君の番だ 敗者は死ぬ
鮫のように速く、暗闇から現れる 彼は殺人者、心臓を引き裂く 片道切符で、戻ってこられない なぜなら、殺人者が襲いかかってくる
不意打ち、背後から攻撃 致命的な腕前の達人 気をつけろ、用心しろ 戦いに備えろ
鮫のように速く、暗闇から現れる 彼は殺人者、心臓を引き裂く 片道切符で、戻ってこられない なぜなら、殺人者が襲いかかってくる
気をつけろ、気をつけろ 鮫のように速く、暗闇から現れる 彼は殺人者、心臓を引き裂く 片道切符で、戻ってこられない なぜなら、殺人者が襲いかかってくる
鮫のように速く、暗闇から現れる 彼は殺人者、心臓を引き裂く 片道切符で、戻ってこられない なぜなら、殺人者が、殺人者が なぜなら、殺人者が襲いかかってくる、アタック、アタック アタック、アタック、アタック、アタック

Fast As A Shark歌詞和訳

Judas Priestが「Painkiller」でスラッシュメタルの攻撃性へ大幅に舵を切ったときもU.D.O.は「Timebomb」というアルバムを出して完全に追随しましたからね。とにかく「俺たちはJudas Priestについていくんじゃあ!」感が凄い。90年代再結成後のヘヴィ路線もティム”リッパー”オーウェンズ期のJudas Priestと近いですし。

ただ、そうした「大きなコンセプトや音楽性はJudas Priestに追随」と言っても、彼らの独自性はやはりドイツっぽさ。メロディセンスが違うんですよね。「Fast As A Shark」にしても最初にドイツ民謡みたいな合唱パートがあるし、コード進行の感覚も違う。比較的短いフレーズでもきちんとコードが展開してメロディが起承転結し印象に残すのが上手い。これは初期Helloween(カイハンセン期)に引き継がれていったのだと思います。あとはクラシックを取り入れるのも上手い。ハードロックにクラシックを取り入れるのはリッチー・ブラックモアが先駆者ですが、中世の音楽、いわゆるクラシック音楽の中心地はドイツやオーストリアですから、クラシックを取り入れさせたらドイツのAcceptはより本格的です。Metal Heartの「エリーゼのために(Für Elise)」の取り入れ方はメタル界における一つの発明。

あらためてAcceptというバンドが成しえたこと、築き上げたレガシーを再確認できる素晴らしいライブでした。

しかしUdoは元気。御年71歳のはずですがボーカルが衰えていません。もともとかなり癖があるボーカルですが、きちんと高音まで出ていました。やっぱりこの体形だと声が出るのか。オペラ歌手みたいな体形ですからね。

背中に「No War」のペイントが

ファッションもレザーが似合っていました。背中に「No War」とペイントされていてウクライナ戦争への抗議を感じる。ドイツにとっては差し迫った問題ですからね。Acceptの代表曲「Balls To The Wall」もそうですが、やはり彼らはドイツのバンドであり、ドイツや欧州の問題と切り離せない。実際、「Balls To The Wall」ってあからさまにベルリンの壁のことを歌っているわけではないんですよ。歌詞を読んでも「弾圧と戦え」的なことであり、MVを見るとむしろピンクフロイド、ロジャーウォーターズの「The Wall」のオマージュとも思える。ただ、彼らが「Wall」と言えば人々は「ベルリンの壁」を連想する。少なくともアメリカではそう受け止められたし、彼ら自身も「Wall」と言えば目の前にある壁を想起したのでしょう。音楽は音楽家の人生が出るし、背景となる文化・環境が出ます。だからこそ、音楽を通して世界に触れることができる。

この世界には奴隷が多すぎる 拷問と痛みで死んでいく 多くの人が気づかない 彼らは自分たちを殺し、狂っていく
多くの人が知らない 束縛が人類に広がっている 奴隷はいつも負けると信じている そして、その恐怖が彼らを押さえつける
呪われた者たちを見て - 神が君を祝福する 彼らは鎖を引きちぎる いいえ、君は彼らを止められない - 神が君を祝福する 彼らは君を捕まえるためにやってくる
そして、君は壁に向かってボールを持っていく、人間
壁に向かってボールを持っていく
壁に向かってボールを持っていく、男
壁に向かってボールを持っていく - 壁に向かってボールを持っていく
君は彼らの脳をねじ切るかもしれない 君は彼らを犠牲にするかもしれない 君は彼らの肉を苦しめるかもしれない 君は彼ら全員を犯すかもしれない
ある日、拷問された者たちは立ち上がる 悪に対して反乱を起こす 彼らは君に自分の血を飲ませる そして、自分自身をバラバラに引き裂く
呪われた者たちを注意深く見て - 神が君を祝福する 彼らは鎖を引きちぎる いいえ、君は彼らを止められない - 神が君を祝福する 彼らは君を捕まえるためにやってくる
そして、君は壁に向かってボールを持っていく、人間
壁に向かってボールを持っていく
壁に向かってボールを持っていく、男
壁に向かってボールを持っていく - 壁に向かってボールを持っていく

Balls To The Wall歌詞和訳


約1時間40分ほどでライブは終演。ライブハウスの規模もあり、派手なギミックやバックスクリーンはありませんでしたがバンドメンバーだけで楽曲と演奏で勝負し、観客が大歓声でともに歌う、メタルライブの真髄を見たようなライブでした。

大団円

終わってから振り返ってみるとこれだけ混んでいたけれど押されたり倒れたりのトラブルもなかったし、みな礼儀正しかった。ライブマナーを身に着けた紳士淑女の集い。大合唱の熱気はあったけれど、もみくちゃになって汗だくということはありませんでした。

Svenのドラムスティックをゲット

素晴らしいライブでした。こんなライブを観られたことに感謝。Heavy Metal万歳。

それでは良いミュージックライフを。

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