最近プログレっぽい曲が増えているのはK-POPの影響かもしれない
最近のK-POPの曲ってすごく展開が早いですよね。K-POPはたいてい複数のボーカルを擁するため、それぞれのボーカルの切り替わるタイミングで曲調やメロディが変わることが多い。数小節ごとにシーンが変わる、メロディ展開が変わる目まぐるしさがあります。いくつかそんな曲の例を。
vocalが変わるたびにシーンが変わるし、歌のメロディも変わっていきます。めまぐるしい変化。BLACKPINKの方は民族楽器も持ち出してきて「さまざまな音楽要素」を取り込んでいる感じがします。曲調がめまぐるしく変わるし情報量が多い。
で、これってどこかで聞いたことがあるなぁと思ったら気づいたんですよ。「プログレじゃん」って。2020年代に入ってプログレ的な音像がリバイバルしてきている気がしたんですが、それの源流ってもしかしたらK-POPなのかもしれない。なお、今回の記事では「プログレっぽい」というのは「曲調が途中で変わる」という意味で使っています。
こうした「曲調が途中で変わる曲」、もっと言えば「複数の曲をつなぎ合わせたような曲」を遡っていくと、一番最初はビートルズだった気がします。ビートルズの「A Day In The Life」「Happiness Is A Warm Gun」。今のK-POPほど切り替えが目まぐるしいわけではないですが、これらの曲は1分とか2分ぐらいで曲調が大きく変わる、それまでのポップのクリシェを大きく逸脱した曲だったわけです。
こうした「曲調の切り替え」の手法の到達点がビートルズの実質的なラストアルバム(録音年が最後)のAbbey RoadのB面のメドレー(複数の小曲が組曲のようにつながってどんどん曲が変わっていく)で結実する。これが1969年。
そして1970年代に入るとYesが「Close To The Edge(1972)」を出し、Jethro Tullが「Thick As Brick(1972)」を出し、Pink Floydが「The Dark Side Of The Moon(1973)」を出し、Queenが「Ⅱ(1974)」を出す。1972年~1974年ごろに「小曲を組み合わせた組曲」とか「一曲の中で展開していく長尺の曲」といった手法がロックシーンの大トレンドになる。いわゆる「プログレッシブロックの黄金期」です。
で、1970年半ばからパンクが隆盛し始め、Sex Pistolsのデビューと共にピークを迎えてポストパンクの時代へ。ここで一度「シンプル」「エモーショナル」に揺り戻します。
その後、少なくとも表立ってはあまり複雑な展開の曲というのはメインストリームでの潮流にはならなかった。ただ、黒人音楽、それこそマイケルジャクソンとか、R&B、そしてヒップホップは従来のポップスの「ヴァース / ブリッジ / コーラス」の反復という構造から脱却していった気がします。そもそもボーカルラインがフェイクだったり語りだったりするのでヴァースが自由に動く。決まったコーラスのリフレインこそあれ、ヴァース部分は反復が少ない、自由に変化するような曲調のものがだんだん増えていった気がします。特に歌メロの中にラップパートが入るような曲は「曲の中で印象が大きく変わる」、いわば「別の曲がくっついている」ような構造ですよね。
その延長線上でK-POPがおそらくUS市場で受け入れられたのでしょう。ただ、K-POPって歌メロそのものの展開も凄く多いんですよね。なにか「枠組みを壊してやろう」的な挑戦心も感じます。
非英語圏のアーティストの方がこういう傾向が強い、というか、今のところはうまくできている気もします。スペインのRosaliaなんかも昨年出したアルバムはK-POPに近い「曲構成がめまぐるしく変わっていく」スタイル。
耳に残るフックがあるフレーズやコーラスはあるんですが、そこに至るまでが予想不能というか、あまり反復感がない。プログレというよりジャズ的というべきなのかもしれませんが、僕の個人的な音楽的背景(単純にジャズをそんな聴いてこなかった)からプログレ色の方を強く感じるんです。まぁ、プログレってジャズロックの流れも含んでいますからね。こうした「さまざまなジャンル、要素を混交したもの」に「プログレ」を感じる。
で、K-POPってもともとはJ-POPにかなり強い影響を受けている。また機会があれば書こうと思うんですが、僕は2000年代初頭にけっこうK-POP(というかいわゆる「ダンスポップ」に限らない韓国ポップス)を熱心に聴いていた時期があって、その当時の韓国音楽は僕の知る限りかなりJ-POPの影響下にいたんですよね。PSYのカンナムスタイルあたりからJ-POPの影響下を抜け出し、進化したK-POPが米国制覇した印象がありますが、もともとはJ-POPの手法を取り入れて進化していく、という側面が強かった。80年代の日本の歌謡曲が洋楽の影響を受けてニューミュージックやシティポップになり、やがて90年代に独自の「J-POP」を作り上げたように、韓国ポップスはJ-POPの影響を受けて、(おそらく2010年代のどこかで)今の「K-POP」を作り上げたのだと思います。
ただ、そういうルーツがあるのでやっぱりK-POPとJ-POPって近いんですよね。たとえば冒頭にあげた「曲展開が目まぐるしく変わっていく」曲調って、日本のボカロ文化の影響も感じたりします。ボカロ出身の日本のアーティストの作る曲も反復が少なかったり、曲の展開が(従来の曲、たとえばUSのヒット曲とか)に比べるとめちゃくちゃ多かったりしますよね。たとえばこのあたり。
この3曲はどれも「ボカロ出身の作曲者」が作った曲。あと、こちらは偶然ですが「すべてアニメ主題歌」です。でも、アニソンの方が複雑になる傾向があるかも。何度も聴かせる分、ある程度複雑にした方が飽きないからかもしれません。日本のアニソンとゲーム音楽はかなりアバンギャルドな方向に進化していますよね。コーラスこそポップでフックがあるというお約束はだいたい守られていますが、曲調とかコーラスに至るまでの曲構成とかはかなり攻めているものが多い。
で、こうして聴いてもらうとYOASOBOの「アイドル」はかなりK-POPも意識した音作りになっています。それなりに余白があり、ビートが強い。ただ、決定的に違うのは「歌メロがとにかく複雑」なんですよ。コード展開がめちゃくちゃ多い。あと、全体的に音数も多い。とにかくわちゃわちゃしています。米津玄師とかなりロックサウンドだし。こんなロックで情報量が多い音はUSのシングルヒットではほとんど聞きません。音が多い分、他の曲に並べたときにちょっと伝わりづらいんですよね。実際、冒頭に貼ったK-POP2曲と上記のJ-POP3曲を聞き比べてもらうと明らかに音の質感が違うでしょう。上の方が「音として」はシンプルで力強い。同時になっている音が少ないからです。ただ、日本人的にはJ-POPの方が盛り上がる感じを受けるかもしれません。これは市場のトレンドや民族の嗜好性なのでしょう。
いずれにせよ、こうした「短い尺に大量の情報量を詰め込む」という手法は案外震源地は日本のボカロ文化なのかもしれない。それがK-POPに埋め込まれてUSでヒットし、そしてプログレ的な音像のリバイバルを生んでいる気がします。先にあげたRosaliaも、新曲のMVが東京(日本)ロケ。こうして映像と合わせてみると日本の雑然とした感じってこういう展開が早い曲に合っている気がします。というか、やはりこういう「カオスなイメージ」のけっこう大きい源泉こそが日本なんじゃないか。
メタル界に目を向けると、先日リリースされたUSメタルバンドの大物Avenged Sevenfoldのこの曲なんか、改めて聞くとK-POP的というか、上記のRosaliaやJ-POPも含めた「非英語圏ポップス」の「めまぐるしく変化する、既存の枠を壊そうとする作曲手法」に真正面から取り組んだ曲なのかもしれません。
音楽のメインストリームも多様化の時代を迎えつつあるのでしょう。考えてみると、「イントロ / ヴァース / (ブリッジ) / コーラス ~繰り返し」みたいな構造ってここ数十年のたまたまのトレンドにすぎない、ともいえるんですよね。例えば各国の伝統音楽とかはぜんぜん違う構成を持っている曲も多いし。大衆歌は反復構造を持つことが多いですが(日本だと囃子とか長唄とか音頭とかは反復)、インド古典音楽とか、西洋音楽でもオペラなどは反復せずどんどん展開していくものがあります。従来のUSでは英語の曲以外はヒットしませんでしたが、K-POP(ほとんど英語だが一部韓国語もある)やラテンポップス(USにヒスパニックの人口が増えていることも背景)のヒットでUSを中心とした世界の流行音楽も面白くなってきましたね。次はJ-POPからも世界的スターが生まれるか。
なお、個人的にはインド古典音楽とロック、ハードロック的な表現が混じったインドのロックシーンが面白くて注目しています。他になくて面白いんですよ。いくつか紹介して今日は終わりにします。冒頭のBLACKPINKも韓国伝統音楽をちょっと取り入れていましたが、インドも取り入れ方が大胆。というか、自国の音楽文化が確立しているんでしょうね。あくまで「インド音楽側」から西洋近代音楽(ロック/ポップス)を取り入れている。
それでは良いミュージックライフを。