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一人で自粛できない元旦那の話

3月末、昨年離婚した元旦那がうちから2キロほど離れた隣町に引っ越してきた。
電車の駅なら二つ先。
それも、わざわざ新築のマンションを買って。

「パパ引っ越ししたんだよ、みんなの近くに居たくて」
「遊びにおいで」
「綺麗に片付けたし、みんなが泊まる部屋もあるよ」

と連日のように、子供達にラインが来る。まぁ、ここだけ見ると、離婚したのに離れて暮らしている子供のことを心配している「よき父」なんだろうけど、うちの場合ちょっと事情が違う。

まず、元旦那が家から出て行ったのは、だいたい8年か9年くらい前だし。その頃、子供達はまあまあ小さくて、末っ子は2歳になっていなかった。娘も幼稚園、長男は小学生。その一番大変の頂点みたいな時期に

「好きな人ができた。彼女と結婚したい」

と言って出て行ったアイツ。

「どうして? なぜ? 思い返して? 悪かったところは直すからぁぁぁっ!!!!!」

思いとどまってくれるよう、泣いて喚いて謝って必死で止めたけれど

「あなたといても全然癒されないの」

と全てのものを置いて家から出て行った。そんな元旦那という人は、数年に一度、一旦燃え上がったであろう恋愛に区切りをつけ、要するに女と別れ、心機一転引越しをしてきた一言で言えば「恋多き男」。「不倫は文化」肯定派。

で、そんな元旦那が今回また引っ越しをするという。引越し先として選んだ物件は、うちから2つ隣の駅。子供からこれを聞いた時は本当に落ちた。賃貸だったらまだしも購入。となるときっとずっと住み続ける覚悟なんだろうな、って思うし、何より、いまさら子供のことを気にかけるなんて、自分の老後対策かい、と正直呆れた。

そんな元旦那が引っ越しの日に選んだのは、緊急事態宣言が発令されるちょうど10日前。そのころから、東京はなんとなく外出を自粛する雰囲気があったが、好きな女ができて家を出て行くような人間に、コロナ感染拡大をおさえるため、stay homeするなんて考えは毛頭ない。だから、連日のようにお気に入りの家具だの、観葉植物だのを探しに、表参道や新宿をうろうろ。「パパのお買い物に付き合ってくれたら、欲しいもの買ってあげる❤️」と娘にLINEを送ってよこした。

ここまでお読みくださった方は、きっと「憎さ余って話を盛っている」と思うことでしょう。

いいえ、盛っていないのです。

なぜなら、元旦那というのは、鬱病を発症してかれこれ6、7年。またそれ以外にも、おそらく、境界性人格障害、アスペルガーとか、サイコパスとか。まぁ、病名を「これです」と医者がつけることを放棄したレベルのメンヘラなのだ。

アイツの言動に苦しんできた話とか書き始めたら、おそらく今この文章を書いているI padの充電、使い尽くすわ、っていうくらい延々に書いていられる、と思う。が、それはさておき。

元旦那が隣町に引っ越してきてしばらくすると、緊急事態宣言が発令された。いま、私たちは不要不朽の外出を余儀なくされている。目的もなく街を歩く、時間潰しにカフェでお茶をする、友達とダラダラとバーでビールを飲む、といった今まで当たり前だった日常はすべて無くなった。

しかし、不安と生活の変化に戸惑う大人をよそに、子供達はスマホというツールを外の世界に繋がるどこでもドアのように駆使し、家の中でもそれなりに楽しめている。そういう姿を見ていると、わたしもどうやったらstay homeを楽しめるかな?とか価値のあるものにできるかな?と考えるようになった。大変だけど、辛いからって外に出てしまっては、事態の悪化に繋がっていくのだから。

ところが。

メンヘラ(=元旦那)はそんなこと全く関係ないし、真面目に説明したところで理解しようという姿勢もない。世の中の真逆を敢えて選び取っていくことに、意義を感じるような、そんなアイツの脳内、容易に想像つくわっ!

「マミー、パパが掃除機買いに行くの付き合って、ってLINEしてきた」

娘や長男が依然と元旦那からの誘いを受けている。緊急事態宣言発令後も。出ちゃいけない、と言われれば言われるほど、出たくなるのがメンヘラ元旦那の心情たるもの。人恋しいのか? 誰かと喋りたいのか?

「布団をクリーニング出したいから手伝って」

「家の近所のケーキ屋でケーキを買いすぎたから取りにおいで」

「お互いの犬を連れて公園をいっしょに散歩しよう」

と、思いつく限りの誘い文句で子供達を誘ってくるのだ。うちの子供たちは、小さいころから散々親父の気分の変調に振り回されまくってきたので、そんな誘い文句に乗るようなことはない。「都合よく召使いのように使われるだけ」とのらりくらりとかわしてる。

娘ががいう。

「パパってさ、一人でいられないんだよね。別に自分の子供に会いたいわけじゃなくて、一人でいるのが嫌だから呼び出してるんだよね。かまってちゃんにも程があるよね」

そっか。そういうことか。

人づてに聞いた話だと、ヤツが今お付き合いしている彼女は関西在住。おそらくこの緊急事態で東京に会いに来れなくなったに違いない。基本昔から恋愛体質の元旦那は、友達付き合いと彼女との付き合いを両立するような器用な人ではなかった。だから、そういえばヤツがプライベートで仲良しの友達、っていう人間にわたしは今まで会ったことがない。

彼女がこない、友達もいない、親は高齢で地方在住。そうなると、心のよりどころにせざるを得ないのが実の子供、っていうことなのですな。

「直線距離だと歩けなくもないから、そのうち、ピンポンして家に来るんじゃない?」と長男。

しかし、そんなホラーのようなことは絶対に起こりえない、と私は思っている。なぜなら、メンヘラなりの心の弱さから、きっとうちから半径500メートル以内には近寄れないんじゃないかと思っている。それがかつての自分の家だったとしてもね。

アフターコロナっていう言葉を最近聞くようになった。コロナが収束した後の世界。


一人でいられない彼は、果たしてコロナを乗り越えられるのだろうか?


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