新語・流行語大賞がはまやねんに決定
「20xx年、この年も新語・流行語大賞が発表された。
この年は新たなSNSの登場により、新しいカルチャーやネットミームなども生まれ、日本のサブカルチャーはならなる混迷を極めた。
日本における一年間の総まとめ、振り返りとして大きな意味を持つこれは、今まで以上に注目を集めた。
まず今までの発表と異なったのは、発表が毎年今年の漢字をクソデカ筆で書いているあのお寺で行われていたのだった。
どうやら上の人が普通に混同していたらしい。しっかりしてくれ。
そして発表方式も異なり、お坊さんが背中にそのタトゥーを一文字ずつ彫っているようだった。これで流行語大賞がなろうのタイトルとかだったらどうするつもりだったんだ。
そうして完全にアイデンティティを失った寺で発表が行われ、中継はすべてニコニコ生放送で行われた。いまだに一般会員は人が多すぎると追い出されるらしい。
坊さんの人数で今回の流行語大賞が五文字だと悟る。発表の瞬間だ。
坊主の背にはでっっっっっっっっかく「はまやねん」の五文字。
今年の流行語大賞は「はまやねん」だ。
皆さん困惑しているだろうが、「あの」はまやねんである。
ラッスンゴレライを散々説明してこなかった。タナカシングル(旧名 田中シングル)とコンビを組んでいた。
あの、はまやねんだというのだ。
2014年に大ブレークし、そこから徐々に姿を消していった、流れ星のようだった。あのはまやねんがここにきて流行語大賞に選ばれた。ラッスンゴレライでなく。
ここで一つ言っておきたいのは、はまやねん自体が流行したのではなく、はまやねんという言葉のみが一人歩きして流行したのである。
はまやねん本人はというとヤクザの代打ちで1873429連敗を喫し東京湾に154862回沈められているため、もうこの世に存在しない。
つまりは、新しいSNSのプラットフォームの流行により言葉の原義を蔑ろにした流行が始まったということである。
ひと昔前では、感情を表す言葉が「エモい」と「ヘルシーあやねる」しか存在しなかった。(もともとはエモいの対義語にチルが存在していたが、俺が消した)繊細な人の感情を言語化するのにたった二語のみしか使わないというのは些か疑問ではあるが、日本人お得意の行間を読む力によって何とかうまくやってきた。
そしてその二極化された感情表現に「はまやねん」が入り込んだというわけだ。
現在はまやねんは大きく分けて4つの意味がある。
まずは「喜」。ちょっと嬉しそうに「はまやね〜ん」といった風に言うらしい。
あのネタに「喜」の要素はないが、原義が無視されているので仕方ないだろう。
次に「怒」
これは静かな怒りを表現するもので、そのせいでJKが皆生徒指導前の学年主任みたいになってしまった。
その次は「哀」
飼い犬が死んだ時にしか使ってはいけないらしい。
ここまできたらもう次は何が来るかお分かりだろう。
これだけは原義から派生しており、ラッスンゴレライを説明してほしい田中シングルの哀しみが表現されている。
そして最後は「数年前に詳細も分からずにシコったオカズが見つかった時」
である。
あの、瞬間だけでオーガズムに達してしまいそうな時間を、現代人は「はまやねん」と形容した。
その芸術性を単なる流行として捉えて良いのだろうか。
受賞者はやはり相方のタナカシングル。彼は受賞の際に、「僕、昨日ようやく見つけた昔見てた手島優のIVでシコってたんですよ〜〜〜 マジはまやねんでしたわ〜〜笑」
最悪である。四つも意味があって一番ひどい使い方をお茶の間でやってのけたのだ。
この時代は規制が厳しくなってるのでタナカシングルは普通に逮捕されたらしい。」
「これで以上です。ありがとうございました。」
ーーーこちらこそ、貴重なお時間をありがとうございました。
…はまやねんさん。
無音の面会室で、二人の会話が響く。警備員は微動だにしない。
最愛の相方であるタナカシングルを目の前で惨殺されてから、精神を病んでしまったはまやねんは、現在精神病棟で暮らしている。相方の死を見て自分の死を思ってしまったのか、彼はあの時以来自分がはまやねんではなく別の人であり、はまやねんはもう既に死んでいると思い込んでいるのだ。
彼は今までの記憶が混同していて、はまやねんが死後に概念化された記憶しか残っていない。しかも複数の世界線が存在している。いわば一種の短編小説のようなものだ。
「しかし、なんで貴方は急に今までの人生を語ってくれだなんて僕に頼んだんですか?」
ーーー僕はあなたの記憶に興味があるんです。人とは違う体験をしてるようですので。ほら、だって貴方はなんでこの病棟にいるかも分からないでしょう?
「そんなの考えたこともなかったよ。僕は今までずっと何故かはまやねんのことばっかり考えていたんだ。」
サングラスの中の目は暗く光っていた。きっと僕のこともはまやねんに見えているのだろう。
「はまやねんの事を思えば思うほど、望めば望むほど、気のせいなんだろうけど僕がはまやねんに近づいていってる気がするんだ。記者さん、僕にとってね、はまやねんは全てだ。そして無だ。貴方も、この木漏れ日も、鳥の鳴き声も、川のせせらぎも、夢も、現実も、光も、闇も、溶けた氷で薄くなったジュース、こぼれたパンくず、昼下がり、夢も見ないような昼寝、君の笑顔、あったはずの明日、浜辺でした誓い、あの夜、失った日々も、全てがはまやねんなんだ。
最近夢を見るんだ、僕がはまやねんになっていく夢。気づいた時にはメレンゲの気持ちで久本雅美の前でラッスンゴレライを披露しているんだ。君にはわかるかい?あの自我のない身体を無意識のままに動かされる気持ち。分からないだろう。ああ!そうだ!結局見てるだけなんだよ!シングルも結局優しい言葉だけかけて、何もしなかったんだ!だんだんあなたがシングルになっていく!やめろ!頭が痛い!刺さないでくれ、頼むよ、俺の大事な相方なんだよ。目はやめてくれ、目は」
ーーー落ち着いてください! 警備員さん!彼を!
錯乱状態に陥ったはまやねんは、居合わせた警備員によって病床に連れ戻されていった。
主治医が言うには、彼は夜になるとよくあの状態になってしまうらしい。全てがはまやねんに見えてしまい、自分だけがそうではない。世界からの疎外感が彼を狂わせていて、自傷行為も珍しくないようだ。たしかに、彼の爪はボロボロだった。
メモを取り終わった僕は、出版社へと戻る。
この記事がネタになるかは分からないが、僕の中に謎の義務感が芽生えた。
事実をそのまま報道するのもいいが、彼の混濁した人生を小説にして出版してやりたくなった。
完全に僕のエゴだが、これが彼の生きている証だと思う。
彼にその旨を伝えるべく、早速例の病院に向かった。
そこで、衝撃の事実を知る。
ーーーはまやねんさんとの面会をお願いしたいのですが。
受付「はまやねんさん?申し訳ありませんが、この病院にはそんな人はいません。他の病院と間違えていませんか?」
いや、何回も通った病院だ。間違えるはずもない。
受付の静止を振り切り、彼の病棟へ向かう。
…そこには何もなかった。それどころか、部屋すらなく、コンクリートの壁に覆われているのみだった。
嘘だ、嘘だ、嘘だ。彼がいないはずない。彼はどこに行ったんだ?何か手がかりは無いのか?
…いや待てよ? なんで僕ははまやねんにこんなに固執してるんだ?僕はただ…
冷静になって、一旦家に帰った。一旦状況を整理しよう。会社に戻るのはそれからだ。
ふと机の上を見る。そこには、赤いスーツとサングラスがあった。
「はまやねんの事を思えば思うほど、望めば望むほど、気のせいなんだろうけど僕がはまやねんに近づいていってる気がするんだ。」
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