戦隊ピンクに復帰したけど、やっぱり引退したい
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今日は調子が良かった。低空飛行めいた演出が続いたあと、堰を切ったようにじゃらじゃらと玉が出た。四五〇〇〇発。ここ四日の負けが一気にプラスだ。景品を交換すると財布が見事に膨らんでいた。だが、トータルでは結局マイナスだ。この金も月末には消えているだろう。でかい音、派手な演出、ビカビカと瞬く光で、この脳を麻痺させるために。
日が傾きはじめていた。喫煙所のある公園までは少し遠い。私はいつも通り、運河に掛かる長い橋を渡る。
こんなご時世にもパチンコに興じられるのは、まだ人類に生きる力が残っている証拠だろう。此岸の街並みには建設中のビルが何棟かあり、かたや彼岸の地面は四ヘクタールばかり抉れ、無残な土色を見せるクレーターと化している。
異次元人の兵器が残した爪痕だ。日本にはこれと同じ規模のクレーターが、まだいくつか残っている。
かつて、地球は巨大な悪の組織に四度狙われ、そのたびに辛くもこれを退けてきた。
――宇宙魔術結社《アンゴルモア》
――古代獣魔帝国《ネプティアン》
――異次元人《エルス》
――二代目宇宙魔術結社《デストロゴア》
恐るべき科学力、魔力を有する大敵を四度も退けられたのは、同じく超科学や古代の力を得たたった数名の人間と、それを支える志ある人々がいたからだ。
――《戦隊》
かつて、超人的な力を与えるスーツを身にまとい、悪の組織と戦った若者たち。勇敢で、無謀で、そしてどうであれ英雄であった彼らは、四代に渡って悪と戦い、勝利してみせた。
最後の脅威が去ってから三年が経った。この三年間、地球は静かだ。十年前、アンゴルモアの襲来によってご破算となった宇宙進出も成功し、今では月面に基地がある。
短期的に見れば、プラス。
だが失ったものは決して帰ってこない。
戦隊を引退してから三年が経った。この街に私を知る者はいない。過去三度も戦隊に加わった女を知る者は、誰もいない。
【続く】