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映画音楽分析3•••入江悠監督「22年目の告白- 私が殺人犯です-」におけるノイズミュージックがもたらす効果

はじめに

こんにちは、作曲家の石川泰昭です。

今回は、入江悠監督「22年目の告白-私が殺人犯です-」の映画音楽を分析していきたいと思います。

音楽は、横山克さんが担当。映画全編でノイズを用いて作曲しており、かなり挑戦的な映画音楽となっています。

冒頭13分くらいからの回想シーン「牧村刑事が犯人を追い詰め、取っ組み合いになり銃で犯人の肩を撃つ場面」を分析していきます。

分析


牧村刑事達2人が見張っている場面に、犯人が現れるかも?という緊張感や不穏な雰囲気を出すためのアンビエント系のシンセの音が流れています。
そこに犯人が現れます。心臓の音を模倣したようなバスドラムの音が流れ始めます。まだ犯人かどうかの確信がなく、音の感覚は短くなっていき徐々に緊張感が高まっていきます。

犯人が振り返って、変装した顔が映った瞬間、上昇系の音とともに牧村刑事達が犯人を追いかけ始め、同時にノイズミュージックが始まります。

中高域のノイズとサブベースを使った音楽が、独特の緊張感を醸し出しています。

こういったチェイサー場面は、エピック系の派手なサウンド(ハリウッド映画のアクションシーンで使われるような音)が使われる事が多いです。

しかし、ここでは中高域のノイズとサブベースが使われていて、時折バスドラムの音はあるものの派手さが抑えられているので、走っている時の吐息の音や足音などが、音楽が鳴っていてもよく聞こえてきます。

その事により、派手な緊迫感ではなく、もう少し人間の内面に迫った緊張感や不安感が煽られている効果が出ています。

走って駐車場にたどり着き、犯人の姿を見失い、一旦ノイズが無くなりサブベースだけになります。

その後、背後から犯人に襲われると同時にまたノイズミュージックが始まります。

その後、この場面の最大の山場である、犯人が抵抗する牧村刑事に山乗りし、ナイフを突き立て唇を切るシーンになります。

ここで、サブベースの音が抜け、音数が少なくなったノイズ音になり、緊迫感を煽ります。
ここでも抵抗する牧村刑事の呻き声などがよく聞こえます。

必死に抵抗しながら、犯人の肩に銃を撃った瞬間に緊張感は解け、音楽が無くなります。

まとめ


取っ組み合いのシーンなどには、ついつい派手な音の音楽をつけてしまいそうになるのですが、抑制されたノイズ音が使われている事により、俳優の吐息、呻き声、足音など、つまり人間から発せられる音がよく聞こえ、独特な緊張感や内面に迫った描写になっています。

また絶妙な音の抜き差しが緩急を生み、心理描写に焦点を当てた映画の内容を引き立てる、センスの際立つ映画音楽となっています。

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