写真の構図について本気出して考えてみた
こんにちは。氏家(@yasu42 )です。
前回の記事(「SNSを気にしないようにしたら写真がとても楽しくなった」)は読んでいただけたでしょうか。少しでもお役にたてたなら幸いです。
今回は少し趣を変えて、技術的なものについて語ってみようかと思います。
テーマは「構図」。
そう、写真とは切っても切り離せないあの「構図」です。
以下の項目に沿って話を進めさせていただきます。
1:そもそも構図とは何か
2:どうすれば構図が上手くなるか
3:構図の実例について
4:まとめ
補遺:構図力を見につけるためのおすすめ3冊
では、しばしお付き合いください。
1:そもそも構図とは何か
構図。
写真を撮る人ならば幾度となく意識する言葉でしょう。
写真は構図だ、構図が大事だ、これは良い構図だ、悪い構図だ、日の丸構図、三分割構図etcetc……たびたび耳にすることと思います。
しかしそもそも、構図とは何なのでしょうか?
「構図ってなんだろう?」と聞かれて、即答することが出来ますか?
……意外と出来ませんよね。日常的に使っている言葉だからこそ、ぼんやりとした理解ですませてしまうことが多いのではないかと思います。
では、辞書を引いてみましょう。
大辞林によれば
絵や写真などの画面の、全体の構成。
となっています。あっさりした定義ですが普通はこんなものでしょう。
「日本大百科全書」によれば
絵画に代表される平面的造形作品の画面構成を構図とよぶ。したがって画面上のすべての視覚的要素が構図を決定する要素であり、構図は絵画のもっとも本質的な部分を形成するものである(以下略)
となっています。より踏み込んでいますね。
全文および他辞典での定義についてはこちらをご参照ください。
実際のところ、私たちが写真撮影において「構図」と口にする時は、「写真の中の人や物の配置」くらいの認識でいることが多いのではないでしょうか。
それは決して不正確な認識ではありません。
が、さして有用な認識でもありません。なぜならこれでは単なる説明にすぎないからです。
構図とは何かを考えるうえで注目すべきは、その機能です。
機能というものは常に重要です。
あなたの目の前に車があるとしましょう。車を「車輪を回して移動する仕掛けを持つ物体」と説明したとします。決して不正確な説明ではありません。しかし、それだけでは車を役に立てることは出来ません。
車という機械装置の機能が「ガソリンや電気のような動力源を利用して地面を走り、効率的に目的地にたどり着くこと」にあると理解していてこそ、真に役立てることが出来るのです。
話を戻しましょう。
では構図の機能とはなんなのか?
答えはシンプルで「写真の主役に視線を誘導すること」です。
それが全て、だとすら言っていい。
次の写真を見てください。
画面中心のシルエットが主役なのは、すぐにおわかりいただけると思います。
わざとらしいところはありますが、夕焼けと逆光がシルエットを引き立てていますね。
もう一枚を見てみましょう。
こちらは何が主役なのかさっぱりわかりません。
普通に考えれば船でしょうが、それにしては距離が遠すぎるし、画面の端に寄りすぎている。言い換えれば、主役であろう船を見せるための工夫が全くなされていません。まさに撮っただけ、です。
この2枚を分けているのが構図です。
構図というものを上手く使えば、あなたの意図した主役を迷わず見てもらうことが出来る。使いこなせなかった場合は逆に、何が写っているのか、あなたが何を撮りたかったのかさっぱりわからないということになるわけです。
想像してみてください。
あなたが散歩していて「なんかいいな」と感じるカフェを見つけたとします。この場合はカフェが写真の主役となるはずです。
カメラを取り出し意気揚々と撮影、しかし後で見返してみるとカフェは画面の端っこに小ぢんまりと、しかも斜めに傾いて写っているだけ。写真全体から見るとノイズとしか思えない。後から人に見せても「これ何を撮ったの?」と言われてしまう始末。なんとも悲しくなる話です。
構図というものを理解していればこのような問題は解決できます。見る側の視線と意識を誘導し、あなたが意図した通りのもの――つまり、写真の主役を見せることが出来るのです。これが、構図が写真に欠かせない理由です。
2:どうすれば構図が上手くなるか
ここまでで構図の重要性はわかっていただけだと思います。
「じゃあ、どうすれば構図が上手くなるの?」と考えるのは自然な流れでしょう。
先に述べたように、本noteでは構図を「写真の主役に視線を誘導するための強力な手段」としています。
となると考えなければならないのは以下の2点です。
・その写真の主役が何であるか
・主役を引き立てるためにどのような処理を行うべきか
まず前者について。
写真の主役が何であるか、は多種多様です。教室で笑顔を浮かべた友達かもしれない、雪の中でドレスを着たモデルかもしれない、たまたま見かけた面白い形の影かもしれない、逆光の街並みを歩む群衆かもしれない。それこそ写真1枚1枚で異なりましょう。
何が主役、なのかはさして問題ではありません。
大事なのは主役が何なのかを明確に意識することです。
当たり前だと思うかもしれません。しかしこれが意外なほどなされていない。
iPhoneに保存した写真を見てください。あるいは、SNSに投稿した写真を開いてみてください。選んだ一枚を、じっくりと眺めてください。
主役を意識して撮りましたか? 何がどのように写るか予想していましたか? 今から何を撮るのかはっきりと考えていましたか? 「なんだこれ」「何が撮りたかったんだ」とならないでしょうか?
このような場合、何よりもまず「自分は何を撮ろうとしているのか?」を問いかけ直すことをお勧めします。シャッターをいきなり切るのではなく、目の前にあるもの、あなたの眼に写っているものをよく見て「自分は何を撮ろうとしているのか」「そして主役は何なのか」を明確に言葉にするのです。それだけでも撮り方は変わってきますし、結果として構図ーーひいては写真が上手くなることは保証します。
続けて後者について。
「主役を意識するなんてやってるよ。当たり前だよ」という場合。
ここではじめて、いわゆる「構図」の出番となります。考えるべきはそう、主役を引き立てるためにどのような処理を行うべきかということ。
これについては一般論を述べるよりも具体例を見た方が早い。
次の項目で実例を見るとしましょう。
3:構図の実例
上記を元に具体例を2点ほど出してみましょう。
1枚目はスナップから。
いわゆる「引いた」写真となります。
この写真の主役は画面左の男性です。
そして、幾つかの要素が男性を引き立てるために機能しています。
まず、男性の居場所を見てください。写真の中に引いた幾つかの線、その交点近くに佇んでいますね。
人間は見たものの中にパターンを探す性質があります。そして、そのパターンに沿って配置された物ーーこの場合は男性ーーに視線を向けてしまうのです。これは本能的なものであり、意識せずに行われているプロセスです。
さらに、交点というものは画面全体のいわば「重心」でもあります。重心に物を置けば全体が安定するのは自明の理でしょう。
つまり、交点に主役を置くことで、視線の誘導と画面全体の安定を同時に実現しているわけです。
いわゆる三分割構図などはこれを利用しています。
続けて、光とラインで視線を誘導しています。
人間は明るいところに注意を向ける生き物です。これもまた本能的なものであり、誰であろうと変わりません。
赤で囲った部分を見て下さい。男性の場所に、窓越しの太陽光が当たっているのがわかりますね。これによって、男性へと視線が向かうようにしているわけです。
さらに上側の矢印にも注目してください。窓枠、および窓の向こうにある床板の形状が男性を指し示すラインとして機能しています。これも視線を誘導するための手段の1つです。
道路に矢印が描かれていたら、つい目で追ってしまいませんか? それと同じこと、シンプルながらも有効です。
最後に、男性が光の反射率の関係で暗くなっていることが重要です。これによって「明るい中に暗いものがぽつんとある」という対比(コントラスト)が出来上がるわけです。
コントラストは構図を構成するうえで極めて強力な手段です。皆さんも、コントラストを強調した写真に一瞬で目を奪われた経験がおありでしょう。この画面中でも、左から影→光→影→光→影……というコントラストが出来上がっていますね。
以上の要素が、男性を引き立てるために機能しているわけです。
続けてポートレートを見てみましょう(model: ろじ)。
こちらは「寄った」写真となります。
1枚目に比べ、主役が何であるかはっきりしていると思います。明らかに人物そのものですね。一般的に、寄りの写真は何が主役かわかりやすい。それだけに、構図の善し悪しが際立ってしまう傾向があるように思います。
モデルが座っているのは、ちょうど壁と壁の間です。壁と壁に挟まれた空間が、主役の人物を周囲から際立たせるために機能しています。言い換えれば、画面内に作られたフレームが主役を強調しています。
画面内にフレームを配置する、という手段は基本的ながらも非常に有効です。定番中の定番、とすら言っていい。四角い扉、丸い窓、長方形のモニター。そんな中に何かが写っていれば自然と見てしまいますよね(映画館のスクリーンを想像してください)。写真の中にフレームを配置するというのはつまりそういうことです。フレーム内にある、というだけで視線を引き込む効果があるのです。汎用性が高い方法論であり、念頭に置いておいて損はないです。
明暗差も重要な要素です。
スナップの例でも述べましたが、明るさと暗さの対比というものは極めて強力な手段です。王道とすら言えます。繰り返しになりますが、人間はまず明るいところに注意を向けます。この写真なら画面の左上ですね。
明るいところから徐々に暗いところに視点が移ることで、視線の誘導と、明暗の対比(コントラスト)による視覚的満足を与えることが出来るわけです。
色、画面奥の小物の配置、煙草の煙がもたらす効果など、上に述べた他にも沢山の要素がありますが、少し取り出すだけでもこのように語ることが出来ます。
……少し長くなってしまいましたが、上2点、いかがだったでしょうか。
各写真で述べた方法の他にも、主役を引き立てるための手段は無数にあります。それこそ本数冊書けてしまうレベルであり、とても本noteですべてをカバーできるものではありません。本記事の最後にてお勧めの書籍を紹介しますので、そちらをご参照ください。
なお、構図というものに興味を持ったことがある方なら、今までの議論で日の丸構図、三分割構図などの話をほぼしていないのに気付かれたかと思います。
理由は簡単。それらはまったく本質ではないからです。
例えば日の丸構図。初心者向け、素人臭いなどとしばしば揶揄されますが、圧倒的に「強い」被写体ならば、小細工を労さず中央に配置した方が視線を引き寄せるには有利です。下手な三分割構図よりも魅力的にうつることは多々あるでしょう。
視線を誘導出来ない三分割構図よりも、視線を誘導出来る日の丸構図の方がはるかに有用なのです。これはどれほど強調しても強調しすぎることはありません。
構図とは目的ではなく手段である。
何を差し置いても、これだけは忘れないようにしてください。
4:まとめ
長々と述べてきましたが、本noteで大事な点は以下の通りです。
・構図の目的は写真の主役に視線を誘導することにある。
・そのためには写真の主役が何かを意識する必要がある。
・日の丸構図、三分割構図などの分類は本質ではない。
これらを念頭において写真を撮り、人の写真を見てください。もちろん、絵画やイラストを見るのも有効でしょう。
その過程で構図力がアップすることは間違いありませんし、写真を撮ることがさらに充実したものとなると信じます。
補遺:構図力を身につけるためのおすすめ3冊
最後に、構図についてのお勧めの書籍を3つほど上げさせていただきます。いずれもお役にたつこと請け合いです。
名著中の名著。正直、構図についてはこれ一冊読んでおけば事足りるとすら言えます。
本noteで述べてきたこと(そしてもちろんそれ以上)が全て詰まっていると言って良い。何はさておき買うべきです。
構図の分類からその理論、心理的影響まで網羅しており有用な一冊。『PHOTOGRAPER'S EYE』とあわせて読めば隙なしでしょう。
本書に限らずナショナルジオグラフィックの「プロの撮り方」シリーズは読み応えあるものが多く、お勧めです。
個人的に一推しの一冊。
ゴッドファーザー、ダイ・ハードなど、名作映画のシーンを元に構図を解説しています。「どのような効果を狙ってこの構図が採用されているか」という点にフォーカスしているのがとても良い。各シーンには目的があり、その目的を達成するために構図があるということを教えてくれます。
本日はこのあたりで。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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