コロナ化がもたらしたモノ・コト~その3~
私が陥った経営の落とし穴、それは・・・事業拡大意欲であった!もちろん、自ら起業したのであるから、事業を拡大していこうという意欲を持つことそのものは、経営者として間違った考えではない。「事業の拡大=社会の役に立つ規模」なのであるから。(そうでなきゃ詐欺!)
しかし私は、経営者であると同時に研修講師・企業コンサルタントでもあるのだ。もともと大手の研修会社に勤務する研修講師であったが、会社を作って独立するからには、何物にも縛られず自由にのびのびと自分の特性を生かして、クライアント組織の改善・改革に取り組みたいという想いで一杯だった。それは経営者ではなく職人、つまり個人プレーヤーとしての顔だ。
経営者と職人、この両立を目指したことに自分としては無理があったのであろう。職人としての仕事は、クライアントがいかに増えたといっても、自分とクライアントの一対一の取組みである。タイムマネジメントがしっかりできれば、その仕事に没頭できる。しかし経営は、いわゆるヒト・モノ・カネそして情報やノウハウといった内部資源を活かしながら、クライアントを含む外部の関係者との折衝を行うといった、予測困難かつコントロール困難なファクターとの格闘と言える。要するに、経営者としての仕事と職人としての仕事は、心と頭の使いどころが全く違ったのである。端的な言葉で表すなら、「追究型の職人業務」と「全方位型(戦略が無いという意味ではない)の経営者業務」ということになる。
職人と経営者の二つの顔を持つことの難しさ・辛さに、潜在的には気づきつつ、でも顕在的には「事業を拡大したい」という意欲を燃やしているのであるから、見えない心はきっとキュウキュウ言わされていたのであろう。その証拠に、前述の通り創業以来8年間、実績は概ね右肩上がりで極めて順調だったにもかかわらず、そして望み通りに事業規模が拡大しているにもかかわらず、ここ3~4年は何故か心の晴れる日がほとんどなく、常に背中に重しを背負ったような気持ちでいたのであった。自分でもよく原因がわからぬままに…。
だからこそ、三年ぶりに研修という場で再開し、のびのび成長していた受講者と接したことがきっかけで、コンサルタントとしての自己練磨の想いに再び火が点いた時、自分が本当に求めているものを改めて自分の心の中に見出したのである。職人としてクライアントや研修受講者と向き合い、共に課題解決に取り組む素晴らしさを思い出し、眩いような気持に浸った。これが自分の本当に目指していることなんだ、と。
職人と経営者を両立することに問題があると言っているのではない。事業意欲を持つことが悪いと言いたいわけでもない。自分が本当に求めているのは何か?それを見極めようとせず、己の表面的な欲望に向かって努力を続けていると、そのツケはどこかで支払う羽目になる。当然、ツケは溜めれば溜めるほど大きくなり、大きくなりすぎると取り返しのつかないことにもなりかねない。私はまさにコロナ禍のお陰でたまたま早期に気づくことができた。本当に感謝だ。
事業拡大の夢は散ったが、その夢は「借り物の夢」だった。借り物の夢を捨てた時、自分の本当の夢が見え始め、それはみるみる形をクッキリさせてくる。
つづく