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【THE FIRST SLUM DUNK】久しぶりに全部が100点の王道エンタメを見た【映画感想・ネタバレあり】

昨年12月の公開時から、「すごい映画だった」「絶対見た方がいい」「まだ見てないの!?」などなど、周りの方々から布教を続けられてきた映画『THE FIRST SLUM DUNK』。原作を読み切っていない(8巻くらいで離脱してそのまま)ことが大きかったのですが、あまりにも周囲からお勧めされること、原作未履修でも楽しめるとの声をたくさんもらったことで、ついに見てきました。結論、最高の映画でした。
以下、ただひたすら作品を見てすごいと思ったことを書く記事です。
※ゴリゴリにネタバレありです。絶対に映画を見てから読んでください。

筆者について
・スラムダンク未履修(10年前くらいに8巻くらいまで読んでそのまま)
・漫画は好きだがスポーツ系漫画が大の苦手
・バスケの知識なし(ゴールに点を入れればいいことだけわかる)
・桜木花道が主人公なことはわかる
・安西先生の「諦めたらそこで試合終了ですよ」というセリフだけ知ってる
・このあとパンフと原作を読みたいと思っている

目次

物語の要素として自分が大事だと思っている以下の5要素について語ります。
※評価観点に原作関連は全く入ってないです。

  • ストーリー

  • テーマ

  • キャラクターへの感情移入

  • 演出(映像・画面)

  • 演出(音楽)

  • その他細かいところ

  • まとめ

ストーリー展開:回想と試合の2軸

事前情報として、山王戦という名のなんか原作のアツい試合が映画化する、ということだけ知っていた。試合の様子をずっと映して、映画として成立するのかな?と思っていたのが映画を見るのを渋っていたことの一つ。

実際にはそんなことはなく、沖縄の少年2人のシーンから始まって導入部を経て、試合へ、また回想へ…という構成で、少年目線の回想という過去と、山王戦という現在が交互に来るような形になっている。(原作がどうなのかはわからないけど、)宮城という一人の少年とその母が過去を乗り越えていく過程の物語として、現在進行している試合を交えて作られている。

回想の物語と、試合進行の2つの軸が映画の中にあるが、映画の物語性でみると中心となるは前者。起承転結は多分以下の通り
起:バスケをする兄と弟の登場
承:兄の死、それを乗り越えられない宮城と母親
転:宮城の事故・沖縄への帰省をへて兄との思い出を想起
結:バスケに打ち込む〜山王との試合

上記の回想部分とは別に、山王戦という試合展開もあり、これら2つの時間軸が重なり合って、宮城の回想によって試合をはアツく演出され、山王戦という着地が見えているからこそ回想にも興味が湧く。

この2つを繋ぐ演出としてすごいと思ったのが背番号7番。言わずもがな兄の背負っていた7番を山王戦という大舞台でもつけている。
特に印象深いのが2回目の回想から試合に戻る部分。原作未履修故に冒頭の少年が試合に出ている5人の中の誰だかわからないのだが、もう一度回想に戻って7番という背番号との確執を印象付けたあと、試合に戻ってきてやっと「この7番のキャラクターがさっきの回想の子供だよ」という説明が背番号だけで行われるのがスマートで美しい。
他にも宮城試合で身につけているバッシュやリストバンドも現在と過去を紐づける重要な要素。

テーマ:宮城ソータの死と克服

テーマという言葉が相応しいかどうかわからないけれど、物語において登場キャラクターの心情や考えの変化は必ずといっていいほど存在し、それが作品の中心としてテーマになることが多い。

自分は基本的に物語に対して、「登場キャラクターがのトラウマやしがらみを克服する」という要素があると思っていて、この映画の回想部分については宮城が兄の死をバスケに取り組むことで乗り越えるという箇所が該当す流と思う。

一方で、母親については子供の死を現在軸で乗り越えられていないのがかなり作品として特殊だし、良い味を出していると思う。
主人公はあくまで宮城だけど、ある種母親も中心人物。試合に出ている時点で宮城のトラウマはすでに解決しているので試合終了後の着地をどうするんだろう?という視点で序盤はみていたけれど、一番最後で宮城兄のリストバンドを宮城が母親に渡すこと、写真がリビングに飾られていることで母親もトラウマを克服した、という見せ方がすごく美しい。

また、この作品の大きな要素として「海」が挙げられる。作品の一番最初から海が画面内に入ってきているし、宮城ソータの死は海難事故である。トラウマを持ってしまった母親は子供の死から逃れようと沖縄から神奈川に引っ越している。
一方で、引っ越した先でも湘南という海がたびたび出てくる。これは母親のトラウマの象徴として海を描写していて、海をみて思い詰める母親の様子も描かれる。この中で美しいと思うのが、試合終了後の宮城と母親のシーン。試合を経て、リストバンドを渡されソータの死を乗り越えるというシーンだが、これを海辺でおこなうことがより一層ソータの海難事故という事象に対して克服していることを印象付ける。(海で家族3人とも揃うのもすごく良い)

キャラクターへの感情移入:未読者にも配慮された進行

見る前に自分がこの映画に対して心配していたことだが、原作の一部を切り取った作品として「原作未履修の観客をどう楽しませるか」が重要な要素だと思う。これを全てクリアしているからこの作品はすごい。

試合部分の感情移入先として、原作未読の者としては、湘北のメンバーなんて誰も知らない。なのでただ試合をされても応援ができない。なんなら宮城くんの前述の背景を知っていても宮城くんは応援できるけど湘北というチームは応援できない。

この問題を解決している要素として各スタメンの掘り下げがある。これが各スタメンたちの視点で回想されていないのも素晴らしい。あくまで宮城の物語なので宮城の回想の中に各々が登場する形で、各キャラの掘り下げがされている。各キャラ視点で掘り下げがされると、観客はどのキャラの目線で作品を見ればいいのかがわからないが、宮城視点を基盤において各キャラをかたることで感情移入がしやすい。

ここで面白いなと思ったのが、桜木花道の掘り下げがラスト少しの部分以外全く出てこないこと。原作未読者としては花道はスラムダンク本編の主人公なので本編で読者の感情移入先を背負っていることを考えると、掘り下げ鵜をしないことで原作既読者の感情移入先を花道に持って行かれるのを防いでいるようにも見える。(そのせいで初見の自分からすると花道がマジでやばいやつにしか見えない。)

回想部分の感情移入先としてはもちろん宮城とその母。前述の兄の(子供の)死を受け入れられない2人の心の動きが丁寧に描かれている。

おまけだが、バスケを知らない観客に対しても細やかな配慮がある。印象的なのが安西先生が花道に「リバウンドをとれ」と指示するところ。バスケ知らない人からするとどういう動きがすごいのかがわからないのだが、安西先生が「こうすればすごい」と指示だししてくれるお陰で花道がリバウンドを取るところですごいことをした!と一緒に喜べる。

演出(映像・画面):迫力ある試合描写と、丁寧な情景描写

映画が始まった瞬間、「あ、3Dアニメーションな感じかあ」と思ったが、映像作りが漫画に寄り添った形になっていて、めちゃくちゃ作品にはまっていた。漫画のタッチを殺さずにあのアニメーションにしているのはすごい。ただ3Dにするだけでなく、髪の毛や色の塗り方など、あえて漫画的な線やアニメ的な塗りにすることで違和感が全くなくなっている。

また、カメラワークも回想シーンと試合で対比的。スポーツアニメの自分が苦手なところとして「作品上の場所が変わらないこと」がある。試合のコートからカメラが出られないので、同じような絵ばかりになりがちな印象がある。(それを解決するために、爆発するとか時間が止まるとかの過剰なエフェクトがよく盛られている印象がある)
これに対して本作品は「現実のバスケの試合を純粋にカメラで追っている」感があるにもかかわらず、見ていて飽きない。
各キャラクターにカメラが回るのはもちろん、シーンごとキャラの視点に応じてカメラ位置が変わったり、試合会場を引きで撮ったりボールをアップしたり…..。また、カメラの切り替わりの間やテンポも的確。

試合側がアクション的なカメラ回しになっている一方で、回想側は丁寧な描写がされている。(この交代もあって、画面的に飽きが来ない)回想側は試合会場と対比的に沖縄の海や自然、神奈川の街並みや家の中の雑多な様子など、人間以外にカメラ割かれていることが多い(人間も引きで写っていることが多い)

前述のテーマの章で記載した、海の描写もそうだが回想部分についてはキャラの心情に関連する要素が多数散りばめられている。三井と殴り合いしてりる際はずっと空が曇っているし、沖縄の洞穴は兄との大事な場所だし、打倒山王を心に決めた時の空は夕暮れの美しい姿になっている。

演出(音楽):作品の迫力を底上げする音楽

前述の映像演出ともかぶるところは多いが、音楽もこの作品の魅力をそこあげしている。試合のシーンではメインテーマの第ゼロ感を中心に白熱の試合展開盛り上げている。印象的なのは無音との対比。とくに試合で77点で逆転した時、普通ならウオオオという歓声とともに勝利確定BGMでも流れるのがお決まりだと思うが、完全に無音になるという演出には何も言えなくなった。
これがすごく効果的で、原作未読の自分からすると最後まで試合がどっちに転ぶのかわからない状態で、無音で試合終了まで流されることで手に汗握りながら試合の結末を見ることができた。映画で初めて呼吸ができなくなるという体験をした。(余談だが、最後花道がシュート打った時は小学生ぶりくらいに作品の中のキャラを応援した気がする)
(回想側のBGMは無音が多かった…のかな….?? よく覚えてないです。すみません、、)

エンディングの第ゼロ感は余韻も相まって本当にすごかった・・・。歌詞もちゃんと聴きたいですね。(隣でスマホ起動してラインしてたやつはマジで許さない、せめて光度さげろ)

その他細かいこと

細かいところの表現もすごく上手い作品だった。以下すごいなと思ったところ(原作準拠のところもあるかも)
・キャラの心情をキャラに喋らせず、全てキャラの動きや表情みせている
・宮城の手にマネージャーが何か書いて、それをまったく見ずに試合継続→宮城の弱い部分をマネージャーに見られるという回想を挟んで手のひらを見るシーンを入れるという流れ
・兄との思い出の洞穴に頭をぶつけるシーン。久しぶりにきて自分がでかくなっていることの表現。
・桜木花道が素人であることや、映画の早い段階で山王が強豪であることをセリフの中で自然に説明するところ
・アメリカのシーンで、山王9番の視点で宮城が描写されること

多分その他も色々あった。

まとめ

以上、一つの作品としてこれ以上ない完成度のものを見たという気持ちになりました。特に、エンタメの王道としては最高傑作とも言っていいと思います。この作品を原作とは切り離して、独立した一つの作品として見ることができたのはむしろ幸運でした。

この後、ずっと家の本棚で眠っていたスラムダンク31冊、読破しようと思います!

では。

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