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経済学入門書掲載の図とその作成プログラムを公開【4】日本編+α


この一連の記事()では、私の書いた経済学の入門書の『経済学って何だろう』に掲載された図を最新のデータを使ってアップデートしたものと、それを作成するための手法とプログラムを公開しています。今回は、日本国内のデータを中心に、RIETIのJIPデータベースやEU KLEMS、IMFのWorld Economic Outlookのデータを使った図についても公開・説明します。例えば、以下のようなものです。

日本の金融指標の推移
(マネタリーベースが大きく変化しても、マネーストックも物価もそれほど変化しない)
日本の政府歳入の内訳
(コロナ禍では国債依存が顕著)
日米欧諸国のICT投資率と1人あたり実質GDPとの関係
(日本はICT投資を増やすことで所得を増やせる可能性がある)

日本のデータを使った図の作成

日本のデータは、これまで紹介してきた世界銀行、OECD、Penn World Table、V-Demといった国際的機関によるデータとは異なり、月ごと、四半期ごとなどより細かな機関のデータが得られるという利点があります。ただし、データセットの構築が簡単ではないという短所もあります。

日本政府によるデータは総務省のe-Statというウェブサイトにかなり集約されています。また、APIも整備されており、Rのestatapiというパッケージでもデータ収集が可能です。しかし、手動で検索するにせよ、APIを利用するにせよ、国際的機関のデータサイトとくらべると、使い勝手がよくありません。

例えば、ここでは世帯所得の中央値や上位20%のデータを使っていますが、これが含まれる国民生活基礎調査のデータは、毎年データがアップデートされるたびに別のフォルダに格納されてしまい、毎年同じ動作をしても新しいデータを取り込むことができません。

さらに、e-Stataでは見つからなかったデータも多く、例えば政府の歳入・歳出関係の財務省財政関係基礎データは財務省のウェブサイトにありますが、なんとデータがPDFファイルとなっているので、それをExcelやcsvに変換し、不要な行・列を削除して整える必要があります。しかも、表の形式が毎年変わります。

記事の最後にあるzipファイルに含まれるStataのdoファイルには、それぞれのデータについて、どのような手順で見つけて加工するかを詳細に書いています。これによって、同じようなデータを使おうとしている皆さんの苦労が減るとありがたいです。

ここでは、以下のデータを使って以下のような図を作成しています。

  • 日本銀行時系列統計・e-Stat

    • 図 5-1 日本のインフレ率と消費者物価指数の推移(月次)

    • 図 5-6 日本の名目金利・実質金利の推移(月次)

    • 図 5-9 貨幣供給量・金利・インフレ率の推移(年次)

  • 内閣府国民経済計算・e-Stat

    • 図5-12 日本のインフレ率と雇用者報酬変化率の推移(四半期)

  • 内閣府国民経済計算

    • 図 6-1 日本の公共投資と政府消費の推移

  • 財務省財政関係基礎データ

    • 図 6-3 日本の財政支出の内訳の推移

    • 図 6-4 日本の財政収入の内訳の推移

  • e-Stat 国民生活基礎調査

    • 図 1-3 日本の実質世帯所得の中央値と上位・下位20%値の推移

  • e-Stat 総務省労働力調査

    • 図 3-7 日本の非正規労働者の割合

2024年8月現在の最新のデータを利用して作成したこれらの図も記事の最後のzipファイルからダウンロードできます。

RIETI JIPデータベース・EU KLEMSを使った図の作成

経済産業研究所(RIETI)では、深尾京司理事長を中心として30年ほど前から産業別の生産・投入に関するデータ、JIPデータベースを整備して公開しています。また、欧州で構築された同様のデータベースであるEUKLEMSに対してJIPデータをシェアすることで、EUKLEMSが世界の主要国の産業別データベースを提供することに貢献しています。

JIPデータベースは、産出・資本・労働などに分かれたデータがExcelファイルで、EUKLEMSは同様に分かれたファイルがcsv、Stata、Rファイルとしてダウンロードできます。

JIPデータベース、EUKLEMSともに産業別のデータベースですので、国別ではなく産業別の分析を行いたい時に、非常に便利なものです。ただし、ここでは国全体のICT投資に関するデータのみを使って、以下のような図を作成しています。

  • 図 1-6 主要国のICT投資額の推移(対GDP比)

  • 図 1-7 日米欧諸国のICT投資率と1人あたりGDPの関係

なお、本来であればEUKLEMSのデータだけで事足りるはずなのですが、EUKLEMSに含まれる日本の通信機器に対する投資額がGDPより大きくなっており、明らかに誤りだと考えられるので、この部分をJIPデータベースで置き換えています。この点については、記事の最後のzipファイルに含まれたEU_KLEMS.doに詳細を記述しています。

IMF World Economic Outlookを利用した図の作成

最後に、IMFのWorld Economic Outlook(WEO)を紹介します。IMFはむろん金融・国際金融関係のデータに強く、このサイトから様々な金融指標のデータベースにアクセスが可能です。

しかし、ここでは政府の歳入・歳出・債務・プライマリバランスに関するデータを国際比較するために、WEOに含まれる主要なマクロ変数のデータベースを利用します。WEO2024年版のデータは、このサイトからcsvファイルとして簡単に取得できます。その上で、以下のような図を作成しています。

図 6-6 主要国の財政収入・支出・収支の推移

この図は、OECDのデータを使っても作成していますが、WEOの活用事例ということでここでも紹介しておきます。

図とその作成のためのファイル

以上の図とその作成のためのStataのdoファイルは以下のzipファイルに収められています。

これに含まれたdoファイルは以下の通りです。

  • BOJ_money.do : 図5-1, 6, 9, 12(番号は上記参照)の作成

  • Naikakuhu_GDP_expenditure_nominal.do : 図6-1の作成

  • MOF_zaisei.do : 図6-3, 4の作成

  • eStat_median_income.do : 図1-3の作成

  • Soumusho_labor.do : 図3-7の作成

  • EU_KLEMS.do : 図1-6, 7の作成

  • IMF_WEO.do : 図6-6の作成


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