オリ、メレ、フラ。神との繋がりと受け継がれるハワイアンの精神。
古代のハワイでは「カフナ」の役割はとても重要だった。
彼らはしばしば祈祷師、神官、祭司、達人などという言葉で日本語に訳されるが、実際そのいずれの役割をも担っており、スピリチュアルな能力を有した彼らは、神々のメッセージを伝え、逆に民衆の願いを神々に伝える役目を果たしていた。
神々から受け取ったメッセージはカフナが記憶しなくてはならない。なぜなら古代のハワイには、日本同様、文字というものが存在しなかったからだ。神々からのメッセージの内容は、島の誕生秘話であったり、島の重要な出来事であったり、預言であったりとさまざまだった。
そのようなメッセージを細部にわたって漏らすことなく記憶する術をカフナたちは持っていた。それが「オリ」と呼ばれる御神託だ。オリは英語で「チャント」、日本語で「詠唱」などと訳される。
神聖なメッセージであるオリはカフナによってのみ唱えられるものだった。日本で言えば、祝詞を神社の神主さんが唱えたり、御経をお寺のお坊さんが唱えたりするようなものだ。そして神主にとっての神社、お坊さんにとってのお寺にあたる聖域が、カフナにとってのヘイアウである。
祝詞や御経がそうであるように、オリにも節や抑揚、リズムやテンポが付けられ、覚えやすく、唱えやすいように進化してきた。
やがて時が経つにつれ、そのようなオリの中でも節やリズムを持った歌のようなものは「メレ・オリ」と呼ばれて区別されるようになった。「メレ」とは歌や歌詞という意味だ。そしてメレ・オリを唱える専門家も現われ、彼らは「メア・オリ(詠唱家)」と呼ばれるようになった。今でもハワイにはチャンターという専門職がある。
ひとつのメレは一呼吸で一気に唱えられる。なぜならメレはハワイの大自然に存在する生命エネルギーであるマナを言葉というひとつの形あるものに代えて表現しているからだと言われている。
時代が進むにつれてオリは変化していった。宗教的な事柄はもちろん、それだけではなく日常的な出来事などもオリで表現されるようになり、より民衆の心に響き、記憶されやすいリズムやテンポ、音程が付けられるようになっていったのだ。
堅く覚えにくい宗教的な祝詞や御経から、より大衆の心に浸透する歌へと変わっていったと解釈すれば理解しやすいのではないだろうか。
そして大衆向けに変化していった “歌” には、さまざまな楽器での伴奏や踊りが付随されるようになり、これを「メレ・フラ」として区別されるようになったのだ。
メレ・フラで踊る踊り手にはとても厳しい訓練が課せられていた。神々からのメッセージであるメレは、そのメッセージの真髄を自分自身の身体を使った動きで表現しなくてはならなかったからだ。
ハワイ語の表現はとても繊細にできており、オキナと呼ばれる声門閉鎖音符号(母音の前に「ʻ」が付く。例えば「ʻo」)や、カハコーと呼ばれる長音符号(母音の上に「-」が付く。例えば「ā」)など、細部に渡ってすべて意味を持っているのである。
古代のハワイではフラを踊る上でハワイ語の奥深さを知ることは必須課題であり、神々からのメッセージを伝える使命を担った踊り手たちにはそこまで要求されていたのだ。
オリがメレ・オリへと進化し、さらにそこからメレ・フラへと分化し、楽器の演奏や踊りが付けられるようになっても、そこで語られるものはカフナが受け取った神からのメッセージであることも多かった。
ハワイの文化的財産であるフラも、現代ではフラ・カヒコ(古典フラ)とフラ・アウアナ(現代フラ)に分かれて競技会も開催され、ハワイの文化を代表するものとなっているが、元をたどると身を捧げて宗教儀式を華やかにバックアップする感謝の表現、神のメッセージの表現として大切な役割を担っていたものだったのである。