25/02/18 【感想】キュレーターの殺人
M・W・クレイヴン『キュレーターの殺人』を読みました。
今作も面白かった!!!
クリスマスの英国カンブリア州で、切断された人間の指が次々発見される。現場には謎めいた文字列が……犠牲者の身元を明らかにしようと捜査に乗り出した国家犯罪対策庁の刑事ポーたちは、事件の背後に潜む巨悪〈キュレーター〉と対峙することに――驚愕必至の〈ワシントン・ポー〉シリーズ第三作。
前作に続いて600ページ以上ある長編なんですけど、短いセクションの連続で謎と捜査と閃きが次々描かれるのでどんどん読んじゃうスピード感も前回同様、それどころかさらに進化しているとすら感じます。
犯人をたどる手がかりがすごく気持ち良いんですよねー、本シリーズの大きな魅力って「手がかりの良さ」かも。これは本書が現代を舞台とした警察小説で、有能な科学捜査官が活躍するところにも関係します。今作もやっぱりポーと共に捜査に携わる警察関係者たちの有能さが嬉しい。
前回は主人公ポーの足を引っ張って立場を危うくする警察内の厄介者なんかもいたんですけど、今回はその迂遠な要素もなくなってスピード感マシマシ。
切断された人間の指と謎めいた文字列というハッタリのきいた事件から思わぬ方向へ展開する謎の見せ方も抜群で、今回もサスペンスの旨味が凝縮された良作でした。
ここから下はネタバレ感想です。
(ここからネタバレ)
キュレーター、やることが遠回しすぎないか!?
いやまあ実際ほとんどうまくいきはしたんだけど…。
第1作『ストーンサークルの殺人』も第2作『ブラックサマーの殺人』もポー自身に迫る危機というサスペンス要素を入れていたものの今回はなかったのですが、これは実はNCAのメンバー(フリン)が狙われているという辺りに目線が行かないようにしていたのではないかと推測しています。
個人的には第1作はポーが狙われてそうなのに全然そこを意識しなかったのが読みやすかったですし、一方第2作でポーが警察内で妨害されているのがちょっとストレスでした。なので今回この「ポーへの危機」がオミットされていたのは良かったです。
ポーを誘導するためにあえてヒントを出す犯人というのは『ストーンサークルの殺人』の再演ですね。このタイプの事件のなにがいいって、ちょうどいいヒントが出るので気持ちよく捜査が進むしドンデン返しも用意できるというエンタメ偏差値の高いフォーマットになること。
今作も大変楽しく読んだのですが、後から思うと少し残念だったのが、キュレーターが自ら姿を晒してしまったこと。
遠隔操作で巧みに他者を扱って殺人までさせるキュレーターという人形遣いをどのように探し出すか、という課題は非常に困難に思え、読む側としては大変魅力的な挑戦でした。この課題が結局「キュレーターが自分から逃げ場のない孤島で警察を誘い込む」というある種の自爆で解決しちゃったのが残念。
本シリーズはただ謎解きをするだけでなく立件して有罪に持っていくところまで考えた(証拠の扱いとか)捜査官たちの活躍が魅力なので、その点で「自ら手をくださない人形遣い」はシリーズに立ちはだかる強敵にうってつけだったと思うんですよね。
これまでの作品を見るに作者は一度使った構図をパワーアップさせて再利用するタイプのようなので、いつか人形遣いタイプの犯人との本当の対決も見られるんじゃないかと楽しみにしています。