25/02/23 【感想】エイレングラフ弁護士の事件簿

ローレンス・ブロック『エイレングラフ弁護士の事件簿』を読みました。

不敗の刑事弁護士・エイレングラフを主人公にした短編集です。
弁護士としての彼の最大の特徴は依頼人を必ず無罪放免にすること。これだけならナルホドくんとかと同じなのですが、本作は法廷モノでは全くありません。エイレングラフはむしろ、事件を法廷にまで持ち込ませず保釈されるようにしてしまうのです。

そして弁護士モノとしての本作にはもうひとつ大きな特徴があります。
彼が無罪放免にする依頼人の中には普通に真犯人もいることです。
本作はミステリのジャンルにいながら「真相の解明」がゴールになっておらず、ひたすら手段を選ばず「無罪放免」だけがゴールになっています。誰がどう見てもクロだしなんなら本人も普通に罪を認めている依頼人をどうやって無罪に持っていくかというハウダニットでできている短編集なのです。

第1作で確立した定型を固めたまま12作書ききった職人芸ともいうべき短編集なのですが、新鮮さという意味でも完成度という意味でも初期作品のほうが高かったです。「国選弁護人に選ばれる」などの変化球パターンも初期に出てくるのってやっぱり勢いを感じます。
そしてあらすじに書かれてることはではあるのですが、やっぱり真犯人を無罪放免にしてのけるぬけぬけとした態度にブラックな痛快さがあります。

エイレングラフ弁護士の弁護スタイルとしてもうひとつの大きな特徴が、「成功報酬のみ」という刑事弁護士としては類を見ないスタイル。もし有罪になったら報酬は一切受け取らない、ただし無罪放免を勝ち得たら法外な報酬を受け取る。この設定が善悪を超えた行動と噛み合ってピカレスクものとして完成しています。
逆に最後期の作品に出てくる、事件関係者の女性と関係を持つために事件への介入を行う展開はだいぶイマイチだったかも。ほら、もしゴルゴが女抱くために人殺してたら嫌じゃないですか。そんな感じ。

エラリイ・クイーンのお墨つき。珠玉の短編集
エラリイ・クイーンも太鼓判!
ミステリー史上最高で最凶の弁護士マーティン・エイレングラフ登場!

不敗の弁護士エイレングラフは言う、
「私の報酬は法外ですが、有罪になったら一銭も支払わなくて結構。でもあなたが無罪放免となったなら、もし私が何もしなかったように見えても、必ず報酬を支払っていただきます」
そして依頼人は 必 ず 、無罪となる。たとえ真犯人であっても!

エラリイ・クイーンが大いに気に入って雑誌に掲載した第一作「エイレングラフの弁護」から38年。アメリカン・ミステリーの巨匠ブロック(『八百万の死にざま』『殺し屋』)がじっくり書き継いだシリーズ短編を完全収録。本邦初訳の作品もふくむ全12編。これぞ珠玉。ブラック・ユーモアとヒネリとキレが絶妙にブレンドされた短編ミステリー集。

エラリイ・クイーンのお墨つき。珠玉の短編集『エイレングラフ弁護士の事件簿』ローレンス・ブロック 田村義進 | 文春文庫