25/01/15 【感想】阿津川辰海 読書日記~ぼくのミステリー紀行〈七転八倒編〉
阿津川辰海がジャーロというミステリー誌に連載している読書日記をまとめた単行本、その第二集を読みました。
前作『かくしてミステリー作家は語る<新鋭奮闘編>』は387ページだったのに対し、今作は548ページと大幅増量。収録されている連載は35回分程度と同じ本数ながらなぜこんなに膨れ上がっているかというと、1回1回のボリュームがめちゃくちゃ増えているからです。体感で倍くらいある。
これは以下の公式紹介にもあるように、全作レビューが頻発するからです。そしてこれが良い。僕、特定の作家の全作レビューが大好きなんですよね。
実作者を目指す人も必見! ジェフリー・ディーヴァーのどんでん返しの正体とは?
京極夏彦、アン・クリーヴス、多崎礼ほか――偏愛作家のシリーズ全作レビュー。
『地雷グリコ』に触発されて……ギャンブルミステリー試論32000字
などなど、総勢536名、1625作品を語り尽くす。
若手屈指の本読み作家が、深淵なミステリーの世界をご案内します。
もうここまでのボリュームになると、読むというよりも「聞く」感じで読むようになってきます。そしてそれが心地よい。
ミシェル・ビュッシとか『修道女フィデルマの叡智』とか読んでみたくなりました。すかさず読みたい本リストにIN。
特に上の紹介にもある、『地雷グリコ』を読んだら勢いがついて各種媒体を横断したギャンブルミステリーの分類を32,000字にもわたって行う回は圧巻です。
扱われているのはフレーバーとしてギャンブルが登場するというよりもゲームのプレイ自体がメインコンテンツとなっている、いわば「本格ゲーム」とも言うべき作品群。これらを「プレイヤー間の関係性」やゲームの種類によって分類、分析していきます。
プレイヤー間の関係性?とピンとこないかもしれませんが、こうした作品でゲームが登場するときって対戦相手が胴元も兼任しているパターンが結構あるんですね。例えばイカサマギャンブルの胴元をやっつけるのは定番パターンです。
ゲームの種類は既存ゲーム、既存ゲームの改造、完全オリジナルゲームに分類。オリジナリティが高まるほど読者への説明が難しくなるなど実作者ならではの視点が面白いです。
前作に収録されていた雑誌掲載のエッセイなどはないのですが、文庫本などに提供した解説は今作にも収録されています。今作は特に「読書日記」から声がかかって執筆した解説が多く、読書日記パートと連動して読めるのも面白いところ。『アウターQ』、面白そうだな~! すかさず読みたい本リストにIN。
作品以外でも、読書日記において本との付き合い方、ライフスタイルが語られる部分は大きな魅力でした。作品語りパートのボリュームが増えた分だけ相対的にここの割合が減ったのがちょっと残念なくらい。
第57回「古典の効用」には大いに共感しました。何もやる気がなくなった時に海外の古典を読んで現代日本人の自分とは一つも関係がないことにデトックスされるという話をしているのですが、コレほんといいですよね。
以前僕も「『法水麟太郎全短篇』という娯楽」として語ったことがありますが、この関係のなさが癒やされるんですよ。そしてこの癒しってミステリだから得られてる気がします。本格ミステリのいわゆる「肉体性の薄さ」――人命の軽さだとか登場人物が駒のように扱われるだとか思索中心の話になるだとか物理的交渉の乏しさだとか――ってよく批判されてきた部分でもあるのですが、こうした属性は癒やしももたらしているのだと思います。それこそ僕は『黒死館殺人事件』は日常系だと思っているのですが、これはまたいつか…熱い語りを読むと、なんか語りたくなっちゃうね!