25/02/10 【感想】ブラックサマーの殺人

M・W・クレイヴン『ブラックサマーの殺人』を読みました。
今作も面白かった!!

かつて刑事ポーはカリスマシェフのキートンを殺人の罪で刑務所送りにした。だが六年後、殺されたはずのキートンの娘が生きて姿を現した! あらゆる証拠が冤罪を示し、窮地に立たされたポーを助けるべく、分析官ブラッドショーが立ち上がる。強烈な展開が読者を驚倒させる、人気シリーズの第二作。

ブラックサマーの殺人: 書籍- 早川書房オフィシャルサイト

前作の感想に「読者も推理に参加するというタイプの作品ではなく、小気味よいサスペンスドラマを見るように楽しめる作品」と書きましたが、本作でもそれは健在。というかめちゃくちゃ海外ドラマっぽい手触りです(僕は見たことがないので想像上の「っぽい」ですが…)。
超有能な科学捜査官が新キャラで出てくるのですが、この人もキャラが立ってて良い仕事をします。かつてポーが殺人罪で挙げた、甘いマスクの裏にサイコパスな人格を隠した人気カリスマシェフも実にドラマ的。この人はなんだか読んでいて『キッチンの悪魔』を思い出しました。あの人もイギリスですし。

一方ミステリとしての本作の魅力はなんといっても6年前に殺されたはずのキートンの娘が生きて姿を現したという不可解な状況です。この娘を殺害したという容疑でシェフ・キートンを刑務所送りにしたポーはいきなり苦境に立たされることになります。
しかし本格ミステリ黄金期ならいざしらず舞台は現代。DNAなど各種鑑定によって個人の同定は完璧に可能ですし、証拠を採る様子も裁判のために完璧に残されているのです。明らかに、本当に娘は生きている。主人公ポーがこの状況にどう立ち向かうかというのが見どころです。

それにしても本作は前作から続投の相棒、ティリー・ブラッドショーが一層なついてましたねえ。学究の世界から犯罪捜査の世界に身を転じた超天才、コミュニケーションに難がありながらも抜群の調査力を発揮します。特にIT系に強いのが活かされていて、これによって昔の警察小説なら刑事を大量に動員して行うような捜査を彼女一人で片付けられるんですよね。これがリーダビリティーにも大きく貢献しています。それにしても今作のティリー、なんだか篠澤広めいてきたな!

ここから下はネタバレ感想です。


(ここからネタバレ)


ゴールがはっきりしないまま事件の全体像が少しずつ明らかになっていく前作と異なり、今作はキートンの娘が本物かどうかというゆらぎこそあるものの割と一本道。犯人はきっとキートンなのだがじゃあどうやって…という不可能興味の作品です。
娘の偽物を仕立て上げるトリックは知識の必要な物理トリック一発勝負ではあるのですが、ミステリとしてはここの一発勝負になってしまわないように捜査パートが面白くなっています。

特に面白かったのが「血中から希少なトリュフ(ブラックサマー)が検出された」という手がかり。これって科学捜査モノの面白さだよなあ。成り代わりトリックも科学捜査の裏をかくためのトリックでしたし、本作はそうした意味でテーマが一貫している良さがありましたね。

600ページにもなる長編でありながらだれることがなく、無駄なく走り抜けてくれた快作でした。