やすみと珈琲
こんにちは、『やすみ』です。
コーヒーの香りが鼻をつつく。
ふらっと立ち寄る喫茶店。
グラグラと不安定な歴史ある椅子に座って、
読みかけの本を開く。
私はコーヒーがとても好きです。
中1で習う英文の訳みたいになってしまいましたが、本当に好きなのです。
これは大学時代の話。
70歳くらいのおばあちゃん(以下、ママさん)が
一人でやっているような純喫茶でアルバイトをしていました。
4年間、入学してから社会に出るまで。
当時の私は、あまりコーヒーの魅力についてはわかっていませんでした。
だって、苦い。
お砂糖とミルクを足せば、まぁ飲める程度。
働くことになった理由は、ママさんにスカウトされたから。
スカウトというと大げさですが、お声をかけてもらったのです。
喫茶店で働く、というのに多少なりとも憧れがあり、二つ返事でOKさせていただきました。
18歳やすみ、衝撃を受けます。
コーヒーの種類の多さに。
まずは名前と特徴を覚えろとママさんが言います。
厨房でケントをふかしながら、優しく説明してくれました。
モカ、キリマンジャロ、ブラジル、トラジャ、
マンデリン、コロンビア、ブルーマウンテン……
中でもお気に入りだったのはグァテマラでした。
強い酸味が好みではなかったので、甘みの余韻が残る風味が好きになった理由かもしれません。
飲み比べるうちにブラックで飲めるようにもなりました。
今ではお砂糖とミルクは要りません。
もう閉店してから7年ほど経ちます。
多くの常連さんに愛されたまま、約40年の歴史に幕を下ろしました。
ママさんが身につけていたドクロリングは、
私が形見としていただきました。
毎日つけていましたが、去年ついに割れてしまったんです。
物ですからね、いつかは壊れてしまいます。
でも、思い出はきっと残り続けるんだろうなあって。
私は今日もコーヒーを飲みます。
昔より好きになれたからです。
まっくろコーヒー、覗けど覗けど底見えず。
見えるころにはあと少し。
おかわりすれば、またもや見えず。
まだ熱いから、ちょっと冷ましてひとやすみ。
やすみ